鬼滅の刃で中学英語#51~「he=彼は」「she=彼女は」じゃない?
日本語と英語は、生まれも育ちも全然違う言語です。
しかし、学校英語では、そんな英語を「日本語で」理解できるようにしようとしています。
たとえば、
He is a basketball player.
という英文であれば、
彼はバスケットの選手です。
と訳さないと○がもらえません。
「he」の訳は「彼は」だからですね。
でも、ハッキリ言ってしまうと、これこそが日本人に英語を話せなくしている原因の一つといっても過言ではないでしょう。
「He=彼」ではない
学校で習う話と大きく違いますが、
英語「he」は、必ず「彼」という日本語訳になるとは限りません。
具体例を『鬼滅の刃』の英語版、『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba』でご紹介しましょう。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.12』/訳『鬼滅の刃』第12巻)
He's... incredible.
あの人…凄いなぁ
He isn't that much older than me, but he's a hashira... he has talent...
俺とそんなに年も違わないのに柱で…才能があって…
※incredible=信じられない、凄い(発音)
※talent=才能(発音)
コチラは、子どもたちに大人気の、霞柱・時任無一郎の修行シーンを見た炭治郎のつぶやきです。
この文をスラッシュリーディングして、教科書的に訳すと、
He is incredible.
⇒彼は凄い(主語+be動詞+形容詞)
He isn't that much older than me
⇒彼は俺と年が離れているワケじゃない(比較級の否定)
but he is a hashira...
⇒でも彼は柱だ(主語+be動詞+名詞)
he has talent
⇒彼は才能がある(主語+有するというhave+目的語)
という、4つの文で構成されていますが、いずれも主語は「he」ですね。
でも、原作の日本語を見てもらうとわかるように、「彼は」という言葉は一言も書かれておりません。
この「鬼滅の刃で中学英語」でくり返しお話ししているように、英語は「主語」を原則省略しない言語ですから、文はいずれも主語(この場合は「he」)を必要とします。
とはいえ、日本語は逆に、何回も出てくる主語は省略するので、
He isn't that much older than me, but he's a hashira... he has talent...
俺とそんなに年も違わないのに柱で…才能があって…
・・・というように、なんなら「彼」という言葉すらなくなっていてもおかしなことではありません。
でも、炭治郎が「あの人は…」といっている時でさえ、「he」を使うのはなぜでしょう?
「he」も「it」の仲間
これまで「it」という、必ずしも「それ」と訳さない人称代名詞をご紹介してきましたが、この「he」も、「it」と同じ、人称代名詞です。
ですから「he=彼は」と習いますが、現実には、その通り訳せばいい、というものではありません。
日本語は、関係性や状況により、同じ人であっても「君、お前、あなた、テメエ」など、相手を呼ぶ呼び方が変わります。ですが、英語の場合はそういったことがありません。
一度話題に上った「物」を表す時は「it」、「男の人」のことを指す場合は「he」、「女の人」を指す場合は「she」なんです。
これは、日本語にはない「英語のルール」なのです。
だから、先ほどの無一郎を見ているシーンでも、炭治郎のセリフは、無一郎のことが話題に上っている状態で無一郎のことを語っているので、日本語で「あの人は」となっていても、「That person」とはせずに「he」を使うんですね。
「あの子は=That boy」と使える時、使えない時
逆に、初めて登場する時は「あの子=That boy」を使うことはあります。
この次のコマです。
Of course!
ソリャア当然ヨ!!
That boy descends from users of sun breathing!
アノ子ハ“日ノ呼吸”ノ使イ手ノ子孫ダカラネ!
※descend from=系統を引く(発音)
これを言ったのは、無一郎の鎹鴉、銀子(♀)です。
ここで銀子は、「アノ子ハ=That boy」と言っていますね。まんまです。
しかし、彼女はこう続けます。
He's a genius!
アノ子ハ天才ナノヨ!!
He's on a whole different level than you lot!
アンタ達トハ次元ガ違ウノヨ
Tee hee hee hee!(←ヒッヒと笑う時の表現)
ホホホホ!!!
※genius=天才
二回目の「アノ子ハ=He」になっていますね。
「英語のルール」というのは、こういうことなのです。
日本語にはこのルールがありません。
日本語では、名前で言うのが面倒だったり恥ずかしかったりするなどの理由で「彼」と言い換えたりすることはあっても、「あの子」は「あの子」でしかないので、言い換えたりはしません。
ですが英語では、「That boy」は正確には「あそこにいる子」と指示的な意味を持つ言葉(指示代名詞)なので、それを一旦指せば、その言葉は役割を終えたため、もう使えないわけです。
「ああ、あそこにいる子のことを指してるんだな」とわかってもらえるわけですからね。
それをもう一回、日本語の感覚で「あの子=That boy」とするのは、おかしなことになるのです。
だから、先ほども言ったように、「物」を表す時は「it」、「男の人」のことを指す場合は「he」、「女の人」を指す場合は「she」になり、
その対応語が、日本語に無理矢理当てはめた、「それ」「彼」「彼女」だったというだけで、必ずそう訳さなければならないことはないのです。
これは人間だけではなく、動物であっても同じです。
日本語では、飼っている犬のことを「ウチの子」という言葉で何度も言ったりしますが、英語では、最初に「My dog」と使ったら、オスなら「he」だし、メスなら「she」と言い変えないとダメなんですね。
地球の裏側で使われている言語なのだから、受け入れるしかありません。
「he」って結構簡単?いやいや・・・
ここまで聞くと、「なんだ簡単じゃん」って思うかもしれません。
確かにそうです。
二回目からは「it」とか「he」とか「she」とかにすればいいだけですからね。学校英語では。
でも、このせいで、我々日本人は、会話になった途端、とっさの英語が出てこなくなっているとも言えます。
ためしに、このシーンを見て下さい。最終選別で初めて遭遇した鬼です。炭治郎を見つけて、どっちが喰うか言い争っていた奴らです。
(出典『鬼滅の刃』第1巻)
この、最後の「俺の獲物だぞ」ですが、これ、英文ではどう訳されていると思いますか?
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なんとなく予感がするかもしれませんが、
正解いきますね。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.1』)
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He's my meal!
「He is my meal」です。
学校英語風に訳せば「彼は俺の食い物だ」ですね。ヘンですね。
ここまで、「he」の話をしてきたから、「He」が主語だと気づいた方もおられたと思いますが、これ、いきなり出題されたら難しいですよね。
原作にある日本語の「俺の獲物だぞ」には、前の文でも使われていた「コイツは」という主語が省略されているわけですが、でも、「コイツ」って英語でなんだっけ?
・・・ってなっちゃいますよね?
「コイツ」だろうと「彼」だろうと、話題に上った男なら「he」なのです。
これが、英語の感覚なのです。英語の呼吸ですかね。
学校では教えてくれない英語
ちなみに、ここまで「話題に上った」というお話をさせていただきましたけど、実際、会話がなくても「he」を使うことはあります。
たとえばコチラのシーン。
(出典『Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba Vol.5』/原作『鬼滅の刃』第5巻)
He's tough!
硬てえええ!!
※丈夫な、簡単に斬れない(発音)
伊之助は、この鬼と会話しているわけではなく、独り言をしゃべっているだけですが、日本語の隠れ主語を入れると「(コイツ)硬てえええ」であり、それが目の前にいる男型の鬼についての感想を述べているので、これも、その主語は「He」になるわけですね。
こういったことがピンと来ないからこそ、日本人は英語を6年間習っていても、英会話ができないとも言えます。
教科書的な予め決まった文の追いかけだけをして、リアルなシチュエーションで英語を使っていないからです。
これで英語が話せるようになる方が不思議です。
・・・というように、「he=彼」「she=彼女」で通用するのは、学校や受験だけってことがわかっていただけたかなと思います。
これは、英語になじみのない(興味もない)子どもたちに、日本語的にわかりやすくするために「it=それは」「he=彼は」「she=彼女は」というようにした結果であり、悪意はないのです。
が、それが逆に「he=彼は」「she=彼女は」という「意味」を固定化させることになってしまい、結果、英語を6年勉強しても喋られない、という日本人を大量生産していることにつながっているわけです。
だって、「he=彼」じゃないですもんね、本当の会話なら。
本日のまとめ
・学校英語では「それ=it」「彼は=he」「彼女は=she」
・でも、「it=それは」とは限らないように、
「he=彼は」「she=彼女は」とは限らず、「he=コイツ」もあり得る
・名詞は一度登場したら、「he」や「she」のような人称代名詞に言い換える(独り言であっても!)
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