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面白いだけではない歌ー岡崎体育『Voice of heart』

2019年に入ってハマっているのが岡崎体育さん。
Music Videoあるあるを歌にするというメタ視点の面白さで有名に。初めて聞いたときは面白いなと思ったけど、それ以上でも以下でもなく、他の楽曲は全然聞いていませんでした。

しかし、年が明けて、たまたま「龍」という曲を聞いたときに、「すごい!」と感動してしまい、彼のアルバム『BASIN TECHNO』『XXL』『SAITAMA』をほとんど毎日のように聞いています。

どのアルバムも素敵で、どの曲も素晴らしいんだけど、特に、『BASIN TECHNO』に入っている「Voice of Heart」という曲に心底驚きました。とりあえず、未聴の人は以下のリンクから聞いてみてください。

【ここからはこの曲のネタバレを含みます】

1番でかなりエモーショナルに歌い上げ、2番は歌詞を忘れてしまい、そのこと自体を歌にするというなんとも不思議な曲。最初聞いたときはゲラゲラ笑いながら聞きました。笑いの要素が強い曲になっています。

しかし、です。この曲、最後に「ケンイチ君!ユウコちゃんにもちょっと望遠鏡覗かしたって!」というエコーのかかった謎の言葉が2回繰返されます。

初めて聞いたときは「???」という感じで、この謎の言葉はいったい何を意味しているんだろうと気になっていました。

そして繰り返し聞くなかで、!!!と気づきの瞬間が。これは心の構造を表現した歌なのではないか、と思うのです。曲のタイトルが「Voice of Heart」なので当たり前と言えば当たり前なのですが、これに気づいてからはこの曲を「笑いを取りに行った歌」と単純に聞けなくなってしまいました。

精神科医の名越康文さんが「心の世界には「時間」というものがない」とおっしゃっています。この言葉を読んだときに、たしかに!と感じ、心を考える上でとても重要な指摘だなと常々感じています。そして、その指摘を念頭にこの曲を聞くとどうなるか。

1番のエモーショナルな部分は、ある意味で水面から出た氷山の部分。心の意識化できる部分が象徴されているといっても良いかもしれません。2番で展開されるのは水面下にある氷山の部分。つまり、ある意味でコントロールできない心を象徴している。歌詞を忘れたことに焦っていると、バイト先の冷凍食品の発注をしたかどうかが心配になってくるという脈絡のない心のつぶやき。でも、こういう脈絡のない心の動きというのは日々経験していることだと思うのです。何かに集中していると思っていたら、唐突に別の何かが気になってしまう。これも心の特徴でしょう。

そして、さいごのつぶやき。あくまでこれは推測でしかありませんが、これは幼少期の記憶の断片か何かを象徴しているのではないかと。あまりに唐突ですが、「心の世界には「時間」というものがない」ということを前提にすると、解釈可能だと思うのです。

歌を歌っている現在がある。その歌詞を忘れてしまう。そして焦る。歌詞を思い出そうとするが思い出せず、あろうことか唐突にバイト先の発注のことが脳裏に浮かんできてしまう。脈絡はないが、「現在」に紐づいた話ではあるわけです。しかし、「ケンイチ君!〜」の部分は脈絡もないし、時間軸にも脈絡がない。

でも、普段生活していると、遠い過去の記憶(のようなもの)が心に浮かんでくることはまま、いや、結構あると思うんですね。そしてそれは実は心の本質的な特徴でもあるのではないか。

そんな風に考えるとこの曲はただ面白いだけの歌ではなく、心の特徴をテーマにした深遠な曲のように聞こえてくるのです。いや〜、すごいですね、アーティストって。本当のところは分かりませんが笑、解釈としては成り立つように思うので、つらつらと書いてみました。


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