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「人」と「百貨」が紡ぐ小売の未来、CHOOSEBASEのはじまり

先日そごう・西武とROUTE06(ルートシックス)の連名で、OMOストア開発に関するプレスリリースを発表させていただいた。ROUTE06は、西武渋谷店で本日9/2(木)にオープンした「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」において、AWL、hey、ロジクラをはじめとしたパートナー企業と協業し、OMO(Online Merges with Offline)の仕組みとサービスをご提供している。

CHOOSEBASE SHIBUYAは、“意味に出合い、意志を買う”という次世代の店舗のあり方を提案するメディア型OMOストアだ。半年ごとにストアの編集テーマが変わるのだが、初回テーマは「TIMELIMIT(タイムリミット)」。サスティナビリティに取り組む50社以上のブランド(ビューティ、ファッション、食など)が出店している。

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(写真はそごう・西武提供)

昨日関係者向けのプレオープンイベントが開催されたのだが、予想を上回る反響があった。Twitter/InstagramなどのSNSで「CHOOSEBASE」を検索いただければ、その雰囲気が少なからず感じ取れると思う。

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この歴史的なプロジェクトにデジタル/テクノロジーパートナーとして参画できたことを大変光栄に思うとともに、これだけのプロダクトを短期間で作り上げ、スタッフと間違われるほど事業にコミットしてくれたROUTE06チームの努力と活躍に本当に感謝したい。

本件は弊社で手がける全ての案件の中で、おそらく最も私自身がコミットしてきたプロジェクトであり、お伝えしたいことが全方位に溢れるくらいにあるのだが、この記事ではプロジェクトの始まりの経緯と弊社が担ってきた役割についてご紹介する。

本来黒子である我々が語るべき話でもないのだが、情報発信に関して関係者の方々に快諾いただいており、お店やプロジェクトチームの皆さまの魅力を知ってもらうことに少しでも貢献できればと思う。

「異色」の発起人、伊藤謙太郎氏との出会い

ROUTE06を設立して間もない頃、もう1年半くらい前になる。知人から「そごう・西武でD2Cに関する新規事業を立ち上げようとしている人がいる」と、このプロジェクトの発起人となる伊藤謙太郎さんの紹介を受けた。お互い面白そうだから早速お話してみましょうとなり、渋谷のWeWorkでお会いすることになったのだ。

百貨店業界で渋谷WeWorkに席を持っているとは珍しいと思いながら伺ってみると、自分がイメージする百貨店社員とは全く異なるタイプの人が現れ、とても印象的だったのを覚えている。前職の頃から百貨店業界とは少なからず関わりがあったのだが、伊藤さんのようなタイプとは遭遇したことがない。物腰柔らかなのだが、型にとらわれず、チャレンジ精神に溢れている。

経歴を伺ってみると、電通、NTTデータを経て、新規事業を立ち上げるためにそごう・西武に入社されたらしく、それだけでも十分異色なのだが、本社から離れた場所に敢えて拠点を構え、海外のD2Cブランドのお店やRaaS型の店舗を実際に見てまわり、国内のD2Cブランドやスタートアップの方々とも交流を持っているなど、百貨店業界ではかなり珍しい。

新しいサービス/商品/ブランドへの感度、立場や規模に関係なく作り手や現場への敬意の姿勢、常識やルールにとらわれずご自身でもプロダクトをつくり事業を興そうという情熱など、スタートアップを立ち上げようとしている方にお会いしたような感覚に近かったと思う。


「異色」が集めた「異才」

そこから意気投合して、定期的にディスカッションやアイディア出しなどさせていただくようになっていった。未来の小売はどうなっていくのか、百貨店業界が抱える課題は何か、D2Cブランドにはどんな可能性があるのか、現状の仕組みやシステムの制約・問題点は何か、それを変えうるサービスや事業とはなんだろう、それはどんなチームなら実現できるだろう、など話し合った内容を挙げるとキリがない。

出会った当初は事業プランも柔らかい段階で、伊藤さんとごく一部の限られた社員の方々の熱量だけがあるような状況だったのだが、そこから社内外で個性的なメンバーが参画していく。Fabric Tokyoの森さん、カンカクの松本さん、arcaの辻さん、L&Gの龍崎さん/角田さんなど、個性と才能に溢れるメンバーが伊藤さんの周りに集まった。

当初から変わらず「お客様の体験を大事にしたい」「ブランドさんや作り手の想いを大事にしたい」「社内の既存リソースありきではなくベストから逆算して考えたい」と言い続けて行動してきた伊藤さんの想いに、みんな共感したのだろうと思う。この個性的なメンバーとも、本当にいろんな議論を重ねており、できることなら一般公開したいくらい刺激的で濃い内容ばかりだった。社会文化的背景やそごう・西武の歴史、クリエイティブからビジネスモデルのあり方、オペレーションやテクノロジーの仕組みなど、幅も広い。

事業領域・チーム・プロセスなど、あらゆる面で従来と異なるやり方をされていたため、相当な苦労があったと思われるのだが、そごう・西武社内のプロジェクトチームの皆さまは情熱に溢れ、より良いサービスをつくるために我々も驚くくらいのスタンスを取ってくれる素晴らしい方ばかりだった。特に伊藤さんは我々に限らず、外部パートナーの方々を常に信じて支援してくれていた。伊藤さんがいなければCHOOSEBASEは存在していないし、伊藤さんでなければ成し遂げられなかったと思う。

このプロジェクトを通して、そごう・西武という会社に根付く「挑戦者のフィロソフィー」を何度も実感させられた。CHOOSEBASEチームの皆さまは立場や役割の垣根を越え、少しでも良いお店にできるように、どんな難しい課題でも未経験の仕事でも前向きに取り組まれていた。その努力や熱量、工夫の積み重ねの成果はぜひお店で感じていただきたい。

最近では毎年年始の広告の印象が強いけれど、西武渋谷店などは特に昔からチャレンジャーのためのカッコいいお店というイメージを持っている業界関係者も多い。その歴史や文化は確かに紡がれ、CHOOSEBASE SHIBUYAに繋がっているのではないだろうか。

リアルを補間・強調するための「OMO」

先ずあえて強調しておきたいのだが、CHOOSEBASE SHIBUYAはOMOストアを謳っているものの、テクノロジーの役割はあくまでリアルの価値の「補間」と「強調」であり、お客様にその先進性などを感じてほしいと思っているわけではない。商品やブランドの魅力、お店の雰囲気やサービスを通して、お買い物を楽しんでいただけることが最上位であり、逆に敷居を上げるような技術活用などは特別な事情がある場合を除き、極力避けてきたつもりだ。実際に店舗に行っていただければ、少なからず実感いただけると思う。

一方で、CHOOSEBASE SHIBUYAは、「FUTURE OF RETAIL(未来の小売)」を事業ミッションに掲げ、デジタルを前提とした次世代の買い物のあり方を追求するお店であり、新しいUXや業務効率化の実現も期待されている。そのためには、店頭とECを包括的に捉えたUX/アーキテクチャ/データ基盤の設計、オペレーションやロジスティクスの構築など、既存の仕組みにとらわれずに作り上げる必要があった。

今回伊藤さんを中心としたそごう・西武の方々と議論を重ねた結果、CHOOSEBASEでは「1. 店頭で非接触での買い回り」「2. 店頭とECの完全融合」「3. データドリブンストア」の実現を目指すことになった。そのなかでも店頭でのお買い物体験は、CHOOSEBASEチームが特に重視した論点だ。近年では買い物機能のないショールーム型の店舗が増えているが、はたしてそれはお客様が本当に期待している体験なのだろうか。「店頭で購入して商品を受け取る体験」こそが、お客様がもっともワクワクする瞬間であり、それを磨き続けるお店を目指そうというのがCHOOSEBASEチームの思想でもある。

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1. 店頭で非接触での買い周り

CHOOSEBASE SHIBUYAの空間設計は独特である。4つのエリアがそれぞれ異なる役割と意味を持ち、現代美術館のように内装自体も楽しめるお店になっている。一方で、展示スタイルも従来の効率的なVMDとは異なり、非日常的な空間のなかでそれぞれのブランドや商品にスポットライトが当たるような仕様になっている。

そういった前提条件のなかで、「いかにお客様にとって利便性が高くワクワクするような購買体験にできるのか」、「感染リスク条件下でどれだけ商品とも人とも接触機会が少なくお買い物いただける仕組みにするのか」、「どうやってブランドの異なる『百貨』をまたいでスムーズに買い回れるようにするのか」など、どう実現するのか本当に頭を悩ませた。

試行錯誤の結果として、生まれたのがWebカタログである。これはぜひ店頭で触って体験してみてもらいたい。店頭接客では説明しきれない商品情報なども顧客が望めばすぐに閲覧できるようになっている。自分が知る限り、類似の仕組みは国内外でもあまり存在しない新しいプロダクトである。ただ要素毎を分解してみると、従来店頭で行われていたプロセスをデジタル化したものだったり、EC慣れしてるデジタルネイティブにとって違和感の少ないUIになるよう工夫したりなど、さまざまな知見が込められている。

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ROUTE06では、UX設計/UIデザイン/実装などの全般を担当させていただいたが、非接触かつキャッシュレスでの購買体験の実現のためにはheyのプロダクト「Stores決済」が重要な役割を果たしてくれた。


2. 店頭とECの完全融合

CHOOSEBASE SHIBUYAでは、サービス提供主体が異なる「BASE C」及びカフェエリアを除き、数十ブランドの商品在庫が店頭とECでリアルタイムに完全連動をしており、店頭で買える商品は1点の差分もなくECで購入可能になっている。私自身も過去に事業者として、在庫滞留の機会損失のリスクと怖さを身に染みて経験していたため、最優先で実装したかった機能でもあった。

小売業に知見のないIT業界の人からすれば、データ連携など当たり前のことのように思うかもしれないが、実はその実現は容易ではない。なぜ百貨店のEC化率が数%未満と低いのか。それはUXやマーケティングの問題ではなく、シンプルに店頭販売商品のうちEC販売可能な在庫・商品数が極めて少ないからだ。その実現のために小売各社は多額の投資をしているし、未だ道半ばである。

CHOOSEBASEは店頭とECが一体となる前提でゼロから設計されており、そごう・西武の現場の社員の方々の努力とロジクラチームの多大なご協力があったからこそ、オープン時からスムーズな商品マスタ・在庫連動を実現することができた。店頭とECのストックは共通化されており、業務プロセスも担当チームも一本化されているため、総合的には効率が良いお店になっている。

ECサイトの構築・デザインに関しては、あくまで実店舗が主となるストアのため、ECで一般的なカテゴリー探索/検索型のUIではなく、展示エリア単位を主とした設計にしている。またニーズの高まっているBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)など、店頭/EC間の顧客移動が起きやすい機能も揃えている。会員登録などを前提として販促通知・ポイント誘導等により、ビジネス都合で店頭/ECの行き来を促すのではなく、体験としてシームレスに繋がっている状態を大事にしたかった。

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3. データドリブンストア

ECの世界ではあらゆるユーザーのログデータを収集・分析し、物流やCSなどのオペレーションのデータも可視化されている状態はそれほど珍しくものではない。ただ店頭に至ってはどの小売においても、取得できていないデータが多く、まだまだブラックボックスな領域が広い。

CHOOSEBASE SHIBUYAでは、まず店頭データの取得のためにAWLのAIカメラを導入し、店頭ファネルを可視化している。何人が来店して、何人が購入してくれたという買上率データに留まらず、店外の通行量や店内の複数のエリアの来店数なども計測し、ECサイト同様の流入元からのコンバーションまで分析可能になっている。またエリア毎の滞留人数も把握できるため、それぞれ密の状態にないっていないか店頭にいなくてもデータで察知できるなど、感染対策にも活用できる。

加えて、性別や年齢などのデモグラフィック情報もAIで判別できるのだが、エッジコンピューティングが埋め込まれているカメラがデバイス側で属性を推定してくれるため、個人情報をサーバー側に保持しないなどセキュリティにも配慮されている。AWLチームには内装設計の段階から店頭データの可視化のために尽力いただいている。

また店頭での購買にはWebカタログが使われるため、店頭でどの商品がどれだけ見られてカート追加されているのかなど、実はECサイトに近い水準のデータを取ることが可能になっている。あくまで顧客体験やオペレーション効率を重視し、お客様やスタッフにとって追加のタスクが発生しないまま、あらゆるストアデータを取得できる。

マーケティング/MD/VMD/CS/ロジスティクスなど、これらのデータの活用機会は多様である。もちろんサービスや業務の自動化などの進めてはいくものの、システマチックな効率化だけではなく、スタッフやブランドの方々の感性やセンスを高めるきっかけとなるような情報の可視化なども大事にしていきたい。

最後に

書き終わってみると長文になってしまったが、CHOOSEBASE SHIBUYAのお店としての魅力、そごう・西武の皆さまをはじめとした社内外チームの素晴らしさ、そして出店ブランドの方々のストーリー、ROUTE06の支援内容など、まだまだほんの一部しか書けてないという感覚でもある。それについてはまた機会があれば別途お伝えしたい。

改めてではあるが、これほどのプロジェクトで会社としての社歴が浅く、スタートアップでもあるROUTE06をパートナーに選んでいただいたことに、伊藤さんをはじめとしたそごう・西武の関係者の皆さまに感謝を申し上げたい。

社としての実績は少なくとも、ROUTE06は小売業の実業経験のあるPdM/デザイナー/エンジニアが集まっているチームだ。ECプラットフォーム/越境EC/WMSなどのスクラッチ開発、ブランドの企画製造/店頭販売/大規模POPUP/物流・ささげ・CSなどの現場業務、ファッション・ビューティ・食品・おもちゃ・雑貨など多様な商材の販売など、チームメンバーの経験と知見は深く幅広い。

今回のOMOストアづくりでは、弊社メンバーのあらゆる知見を投下しており、そごう・西武の皆さまが長い歴史の中で培ってきた編集力を増幅することに、多少なりとも貢献できたのではないかなと思う。

CHOOSEBASE SHIBUYAが最深の感性と最新のテクノロジーが融合する場になるように、デジタルパートナーとして尽力させていただきたい。

まだまだ始まったばかりであるが、可能性と熱気に溢れるお店であり、ぜひ皆さまにもご来店いただき、それを体感していただきたいと思う。

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お問い合わせ先


1. CHOOSEBASE SHIBUYAへのご出店

CHOOSEBASE SHIBUYAは半年毎にテーマが変わり、常に変化する売り場を目指しております。CHOOSEBASEへのご出展にご関心のあるブランドの方々はこちらのサイトよりお問い合わせください。


2. ROUTE06への応募(採用)

ROUTE06では引き続きCHOOSEBASE SHIBUYAを盛り上げるためにも、またこの案件に限らず、大手企業のデジタル新規事業や事業転換を支援するために、採用を加速させたいと考えています。小売業に強みはあるものの、日本を代表する総合商社や製造業などもご支援させていただいており、近々エンタープライズSaaSのリリースを控えているなど、機会と活躍の幅は広くなっています。弊社で働くことに少しでもご興味がある方(特にPdM/デザイナー/エンジニア等)はぜひお気軽にご連絡ください。



3. ROUTE06への案件相談

CHOOSEBASEのような新規事業や事業変革をご検討されている企業のご担当の方々も、弊社ホームページより問い合わせください。業界やテーマを問わず、ご相談を受け付けています。



CHOOSEBASE SHIBUYA関係者の皆さま、立ち上げ準備、本当にお疲れ様でした。

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 注意)本記事の内容はそごう西武の関係者の許可を得て掲載させていただいております。

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