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インディペンデントアーティストが音楽NFTに注目すべき理由

はじめに

自身のサイドプロジェクト”Fake Creators”で22年7月に音楽NFTをOpenseaでリリースしました。リリースに際して調べたこと、得た気づきなどをシェアしてNFTに興味があるアーティストのヒントになれば嬉しいなと思いつつ、音楽NFTがインディペンデントアーティストに浸透する未来について考えてみます。
このような人に向けてこの記事を書いています。

  • 音楽NFTに興味があるインディペンデントアーティスト

  • そのリスナー

その前に自己紹介

武田信幸。LITEを2003年に結成して2006年頃より毎年アメリカ・ヨーロッパ・アジアと各地で延べ200公演以上を実施。しかしコロナ禍が始まった2020年から国内外公演をストップ。コロナで自粛を余儀なくされつつも自宅から同時生演奏を低遅延で届ける環境を構築し、”Stay Home Session”をスタート。様々なアーティストとコラボを行いDEDE MOUSEとの”Stay Home Session”終了後のひょんな一言からコラボプロジェクトをスタートし、2022年には”Fake Creators”として本格始動。同年FUJI ROCK FESTIVAL'22で深夜のレッドマーキーを満員に。そして、22年7月にFake Creatorsとして初のNFTをリリースし、22年9月にリリースした2nd NFTはわずか5時間で完売した。

音楽NFTって何?

NFTというワードを聞いたことがある人はドット絵やキャラクターのアイコンを思い浮かべる人も多いと思いますが、こうしたアイコンをNFTにしたPFP(プロフィールピクチャー)と呼ばれるジャンルによってNFTは世界のバズワードとなっていきました。

NFTには最も重要な特徴の一つにブロックチェーンにより「唯一無二の価値をもつデジタルデータを作ることができる」というものがあります。これによりデジタルデータを所有していることを証明できるようになりました。この技術を転用して、ただNFTとして画像を所有するだけでなく、NFTを一種の会員権的な機能を持たせてNFTを持っている人だけが参加できるイベントを開催したり、ゲーム内で手に入れられるアイテムなどを設計したりと様々な活用方法が試されています。しかしこれもあくまで一つのNFTの使い方を示した例でしかありません。

では「音楽NFT」とはどのようなものを指すのでしょうか?
現在のところ、楽曲とアートワークを組み合わせたNFTのことを指しているといえます。しかし音楽NFTという言葉はあれどもその明確な定義はまだありません。まだまだPFPに比べれば黎明期とも言える音楽NFTですが、むしろ「型は無い」というのが現在の音楽NFTの定義とも言えるのではないでしょうか。PFPは画像がメインコンテンツとなりますが、アーティストは生み出す楽曲がコンテンツになるだけではなく、その存在自体や活動自体がアートそのものと考えればそのコンテンツは無限に作り出すことができます。アーティストがNFTを活用することを考えたときに、そのNFTのバリエーションは無限にあると言うことができます。

世界の音楽NFT

音楽NFTを語る上で世界で起こっている事例の説明を欠かすことはできません。しかし、世界でニュースになったSteve Aokiや3LAUなどの事例のほとんどが数十億単位の話なので、セレブすぎて草の根アーティストには全く実感が沸かないこともあり、ここではメジャーアーティストだけでなく大きなニュースになっていないものも含め個人的に参考にしたりベンチマークしたものとして紹介します。

1.Snoop Dogg / スヌープドッグ

スヌープドッグ自体はいわずと知れたどメジャーなヒップホップアーティストではありますが、NFTプロジェクトのクリエイテビティにおいては参考になることばかりです。このNFTプロジェクトではアカペラ、インスト、リズムのみなどパーツ分けしたり、音源素材としての使用や、リミックスしての収益化まで可能したりとまさにアーティストといった先進的アイデアと実験性に溢れたNFTと言えます。

2.Violetta Zironi

Openseaで音楽NFTの事例を探していたときにOpenseaのTwitterで話題に上がっていたアーティストでした。Spotifyを見ると月間5万再生ほどなので、そこそこの規模のインディペンデントアーティストだと思われます。
このプロジェクトでは全5曲をそれぞれ1曲ずつNFTにして2,500枚発行しており、5曲揃えれば無料のNFT アルバムが送られたり、世界中どこのライブにも生涯無料のチケットとして機能させたり、アルバムのレコードを無料で発送したりと、オフラインの活動とNFTを融合させた機能をつけているところが非常に参考になります。

3.Soundでリリースするアーティストたち

Soundという音楽NFTのサービスがあり、定期的にアーティストの音楽NFTがリリースされています。一例としてmsftというヒップホップアーティストのNFTを挙げましたが、こちらも調べるまで全く知らないアーティストでした。Spotifyを見ても月間リスナーは10,000人ほど。いわゆるインディペンデントな規模感のアーティストです。Soundには他にも私も全く知らないアーティストのNFTがリリースされていて、私が調べる限りほぼ全てのアーティストのNFTが完売しています。

Soundを始めとした音楽NFTサービスの詳細は後の「音楽NFTサービスを使ってみるのも○」で紹介しますが、NFTを購入すると新曲発表会のリスニングパーティーに参加出来たり、楽曲に対するコメントを行う権利が与えられたりするサービスです。Soundでリリースしているアーティストたちの規模感が参考になればと思いこのアーティストをピックアップしてみました。このリンクは数曲リリースされている内の1曲ですが、1曲を2万円ほどで販売し25個のNFTを発行。約47万円(1ドル=143円)が流通しています。アーティストの規模感からすると興味深い金額になっていますね。

音楽NFTの心得

Steve Aoki3LAUなど世界の音楽NFTの成功事例を知っている人の中には「NFTが売れるのは元々有名なアーティストだからでしょ?」と思っている方も多いかも知れませんが、先程紹介したようにNFTは有名アーティストだけのものではありません。むしろその未来は規模の小さなインディペンデントアーティストにこそ開かれていると言ってもいいと思います。インディペンデントアーティストこそ音楽NFTに注目すべき理由をいくつかまとめてみたいと思います。

1.NFTは音楽を拡散するためにあらず

音楽NFTは事例も少なく仮説を含みますが、まず音楽NFTを理解する上で大事なことは「音楽を広めるため」の性質は持っていないということです。なぜなら音楽NFTに限らずNFTは発行数を有限にすることで希少性を持ち、初めてその価値を発揮します。全世界に音楽を届けようするときにわざわざ枚数限定のリリースはしないですよね。NFTを一つのグッズと捉えたときに、全くアーティストの音楽を知らないファンがTシャツを見てカッコいいと思ってくれて買ってくれることもあると思いますが、基本的には既存のファンが買ってくれます。それも数量限定かつ会場限定のTシャツがあれば熱量の高いファンは絶対手に入れたいと思ってくれるはずです。

つまりNFTは「主に既存ファンに向けて」「よりファンになってもらい」「ファンコミュニティを強化する」ことに有効なツールだと考えられます。そのように考えていくと、NFTを持っている人だけが聞ける音楽というNFTの使い方は一つの正解例になり得ます。従来どおり音楽を広めるためには「サブスク」を使い、よりファンの深度を高めるために「NFT」を使うという棲み分けができるのではないでしょうか。

もちろんNFTプロジェクトが注目を集めることによりNFTコレクターや外側の音楽ファンに届くことは有り得ます。近い未来にNFTから火のつくアーティストが生まれることでしょう。

2.NFTはカウンターカルチャーだ

もう一つ。これは音楽限ったことではありませんが、一般に「ニッチな世界は一部の熱狂的なファンに支えられている」という構造があります。「売れている音楽」が「いい音楽」であるかはその答えに個人差がありますが、マスアダプションしていない音楽であっても事実良い音楽は溢れています。しかし今のサブスクの時代においては「売れている音楽」を作った人に極端に富が集中する仕組みになっていて、「売れていないけど良い音楽を作っているアーティスト」は、ことサブスクのプラットフォームにおいては正当な評価をされていません。

https://thehustle.co/the-economics-of-spotify/

Spotifyで年間1,000ドル(約14万円)を稼げているのはたった2.3%という統計も…。

良い音楽を評価しているのは紛れもなくそのファンなのですが、ファンの応援はプラットフォームを媒介することで分散され、全く好きでもないアーティストに対しての応援に挿げ替えられてしまっています。リスナーが特定のアーティストに熱狂しても、その応援は支えるどころか、プラットフォームの闇の中へ消えてしまっているのが実態なのです。
NFTを使えばブロックチェーンにより仲介者を極力通さず、ダイレクトに人と人がつながることができ、レコードレーベルもサブスクプラットフォームなど仲介を必要とせず、ダイレクトにアーティストとファンが音楽で繋がる仕組みを作れます。これによって純度の高い「好き」が集まり、全てのニッチな世界がそうであるように、好き同士がコミュニティを高い熱量でドライブさせて行くでしょう。サブスクでは実現できなかった「ニッチな世界が一部の熱狂的なファンに支えられる」構造を生み出すことが出来る可能性があるのです。

サブスクの登場により、手軽に音楽がリリースできるようになったことでインディペンデントな活動をするアーティストが激増し、音楽に多様性を生んでいます。これ自体は大変喜ばしいことですが同時にサブスクのイビツな中央集権型の仕組みはその闇を一層深くしています。

Crypto Punks」というNFTを代表するプロジェクトがその名前で示す通り、NFT(正確にはweb3と表現すべきかもしれません)はそうした中央集権型の構造に疑問を呈するカウンターカルチャーだと言えます。 

NFTがインディペンデントアーティストの活動にもたらすもの

さて、ウンチクはここまでにして、実際にインディペンデントアーティストがどのようにNFT使っていけるのかを考えてみましょう。
以下に上げる機能を一つではなく複数組み合わせるとその価値と面白さが倍増します。もちろん組み合わせ方はこれだけでは無く、オリジナルなアイデアは無限に出てくると思いますので、その組み合わせも無限と言えるでしょう。ここではそのアイデアのイトグチを掴んでくれたら嬉しいです。

1.音源のリリース

一番オーソドックスな音楽×NFTの使い方として考えられるのは、音源をNFT化してリリースすることでしょう。ここでNFTを使う意味として面白いのは、(概念として)音楽を所有する権利を持つということです。

サブスクで聞いている人は音源を持っているという感覚はなくシェアされているものを聞いているという感覚に近いのではないでしょうか。NFTでは楽曲をシェアされているのではなく、「所有する」いう概念を作ることができます。(実際の著作権などの権利は複雑ですので概念というのが正しい表現だと思います。)NFTを持っている人の楽曲の商用利用も認めているアーティストもいれば、スヌープドッグはリズムトラックだけをNFTで販売して、そのトラックの二次創作使用を認めていたりもします。全ての音楽NFTがこうした権利を持っているわけではありませんが、データの唯一無二を証明できることで、個別にこうした権利を認めるという設計が可能なのです。
権利を付与するというのは実際ハードルが高いと感じるアーティストも多いと思いますので、例えばサブスクでリリースできないような「デモ音源」「レコーディングのアウトテイク」「各楽器のトラックごとのリリース」など、サブスクではリリースできないようなこれまで埋もれていた音源をリリースするというスタイルも面白いと思います。
もちろんサブスクでリリースしている音源を販売することも可能ですので、アートワークとセットにして限定で所有してもらうということも考えられます。音源を所有すると喜びを復活できるかもしれません。

3DCGで作成したFake CreatorsのNFT

Fake CreatorsではヴィジュアルアーティストであるJACKSON kakiによる3DCGのアートワークをサブスク解禁前のSingle音源と共にNFT化して1st NFTとして販売しました。

2.デジタルデータの権利の販売

一見単なるデジタルデータの物販に近い活用方法ですが、NFTと普通のデジタルコンテンツの物販との大きな違いとしては権利を結びつけることができることです。販売するコンテンツはそれこそ何でも良く、もちろん前述した音源を物販として考えることもできます。発想は自由ですのでそのアイデアこそアーティストの個性が現れるものだと思います。

①坂本龍一

例えば坂本龍一は代表曲「戦場のメリークリスマス」の音符を一音ずつと楽譜をNFT化しています。

「Merry Christmas Mr. Lawrence」の音源の右手のメロディー595音を1音ずつデジタル上分割し、NFT化いたしました。96小節からなる595音のNFTには、それぞれの音が位置する小節の楽譜画像も紐づけられています。

②Nulbarich

同じく日本のアーティストNulbarichは作品のアートワークに出てくるキャラクターのストーリーや世界観を拡張するアーティストによるデジタルアートをNFTとして販売しています。

③ゲスの極み乙女

Opensea、Discord、音源リリース、特典という盛り盛りのNFTのど真ん中を行くプロジェクトだと思いました。

・未公開楽曲「Gut Feeling」と限定ステム
・全ての作品が1点物。世界に1つしか存在しないジェネラティブ・アート
・所有者限定:8月23日のオンライン・リスニング・パーティーの参加(川谷絵音氏も参加)
・所有者限定:「Gut Feeling」MV製作への参加権(制作過程への意見表明)

③チケットをNFTに

またライブへ行った証明として、記念品としてNFTを発行することも唯一無二のデータであることを証明できるNFTは相性が良いです。
ライブのチケットをアイコン化してライブ会場で配布しても良いかもしれません。NFTをもらった人はブロックチェーンに情報が刻まれるため未来永劫、その日のライブに行ったことが記録に残せます。そしてそのNFTを見せれば次回のライブで特典を受けられたり、特別なライブに招待をするなんていうイベントを行うこともNFTに情報が刻まれているからこそできることです。

3.好きを集めたファンコミュニティ

ニッチなジャンルこそコミュニティが大事であることは先程書いた通りですが、NFTは好きな人にもっと熱狂してもらうことができるツールであると言えます。例えば、自分の好きなアーティストのTシャツを着ている人がいたら、なんとなく会話も弾みそうですよね。それが何人も集まればその会話の熱量も高まっていきます。そうした「好き」同士がお互いにNFTという名の下に集まり、語り合い、盛り上がるコミュニティがNFTにおけるコミュニティです。
また、NFTは唯一無二のデータであると証明できることで一種の会員証のようなものとして機能させることができます。
NFTを持っている人の特定も容易なため、特定のNFTを持っている人が受け取れる特典を作ったり、NFTを持っている人だけが参加できるイベントを企画したり、SNSのコミュニティを作ることも可能です。(NFTではDiscordが使われることが一般的です)
一種のファンクラブのようなものであるとも言えますが、「NFTのアドレス一つで本人を特定できること」「NFTマーケットプレイスでNFTが売買されること」「参加券を譲渡できること」などに違いがあります。NFTのコミュニティはただのファンクラブにあらずなのです。詳細は「クリエイターエコシステム」で後述します。

4.クラウドファンディング

NFTをクラウドファンディングのように使うことも可能です。
Makuakeなど既に日本ではいくつかのクラウドファンディングサービスが存在しますが、こうしたサービスを使うということではなく、NFTを販売するだけでクラウドファンディングが実現出来てしまいます。
NFTでも売買が成立すると、購入してくれた人を特定することが可能ですので従来のクラウドファンディングサービスと同じようにその人に対してリターンを返すことも可能です。(実際のオペレーションはメアドや場合によっては住所を聞かねばなりませんが)

クラウドファンディングとNFTの違いについて考えてみます。

クラウドファンディングとNFTの比較

1.NFTのリターンの性質の違い

従来のクラウドファンディングのリターンと異なるところは「NFTそのもの」がリターンであるということです。ちょっと何言っているかわからないかもしれませんが笑、「NFTに加えて」リターンを返せるという二段構えと考えることができます。

Fake CreatorsのNFTとリターン

Fake CreatorsでもNFTに加えてリターンを設定しました。NFT購入者にTシャツやカセットテープ、ポスターなどがリターンとして送られたり、次回のライブの優先購入権も付与しています。

2.自由にNFT(権利)を譲渡できる

NFTはOpenseaを始めとしたNFTのマーケットプレイスと言われるいわゆるプラットフォームで販売されるのが一般的です。そこではNFTが自由闊達に取引されているわけですが、購入したNFTを二次流通として売りに出すことも可能です。そのNFTプロジェクトの人気が高まれば、持っているNFTの金銭的価値が上がる(下がることももちろんありますが)可能性もあり、金銭面でも購入者はリターンを得られる可能性もあります。

3.手数料の違い

既存のクラウドファンディングでは手数料は15~20%となっていますが、OpenseaでNFTを販売した時の手数料は2.5%ですのでこの点においても違いがあります。(ただしNFTではガス代と言ってNFTを発行するときに別途手数料がかかりますが、選択する通貨によっては負担にならないほどの金額だったりします)

4.アート感

例えば新曲のレコーディングをクラウドファンディングのようにNFTを発行することも面白いかもしれません。「クラウドファンディング」と言ってしまうと資金調達感が出てしまいますが、単にNFTをプロジェクトに先行して販売するだけです。

まだ見ぬ作品のNFTとして発行し、NFTを持っている人が先行して新曲の視聴会に参加出来たり、特殊なパッケージの初回版のレコードが届いたり、少し技術力が必要ですが、音源の収益からのリターンを返す方法も考えられます。おそらくNFTを購入してくるファンは相当に濃いコアファンだと思いますので、コミュニティを通じてレコーディングに間接的にプロジェクトに参加してもらい、追加NFTのプレゼント企画としてSNSをRTするみたいなちょっとしたクエストのような条件を設定するとか、はたまた曲順を決めるアンケートを取ってみたり、と参加型のプロジェクトにすることもできるかもしれません。無論アーティスト側は、NFTをレコーディング前に販売すれば収益をレコーディングに充てることが可能です。
既存のクラウドファンディングのサービスでは企業の新商品と同列になってしまいますが、個人的にはNFTのほうが思想やアート感が出るのでアーティストに馴染みやすいのでは無いかと思ったりします。

5.クリエイターエコシステム

最後は個人的な理想論を含みますが、機能としては実現できるものです。
音楽活動をする上でアートワークを手掛けるクリエイターやWEBのデザイナーまたは動画クリエイターなどなど多数の制作メンバーの存在と協力は欠かせません。
関わるクリエイターたちも一人のアーティストのファンとして対価以上の仕事をしてくれたり、場合よってはその気持ちだけで無償でスキルを提供してくれたなんてこともあるかもしれません。そんな気持ちに対して「売れたら恩を返す」というのが決まり文句になっています。実際にアーティストが売れた場合でもクリエイターは制作物を納品することに対して対価をもらっているので、アーティストのようにYoutubeの再生が伸びたからと言ってクリエイターには基本的に還元されません。

しかしNFTではこうした協力者でもあるクリエイターたちにスポットを当てつつ、一種の「株」のように持ってもらうことでインセンティブが得られる関係性を作り、ごく自然な仕組みでクリエイターたちに恩を返すことができるようになるかもしれません。
アーティストが発行した金銭的価値の付けたNFTをそのプロジェクトに協力してくれたクリエイターたちに無料で配布すれば、そのNFT自体がクリエイターへのリターンになり得ます。またアーティストの人気が高まり、同時にNFTの人気が高まるとすれば、当初配布した金額よりも高値の価値を持つNFTになるかもしれません。(もちろん下がる可能性もあるので、リスクとリターンに対するクリエイターの理解は不可欠ですが。)

外部的な関わりからプロジェクト単位の内部的な参加者としての関わりへ

会社組織でも株を自社社員が持ち、会社の業績を伸ばしていくと自分の株の価値も上がるというインセンティブを設計するストックオプションというものがありますが、NFTでも同じようにインセンティブを設計できるかもしれません。
これによって、クリエイターたちの経済圏を法定通貨だけでなく、NFTも加えた仮想通貨でも回すことでアーティストやクリエイターがより良い作品を作る環境が実現する可能性があります。
これはクリエイターに限らずファンコミュニティにおいても同様に考えることができます。クリエイターだけでなくファンもアーティストのプロジェクトの一員として関わっていく共同体が出来上がるでしょう。

音楽NFTを買う側に起きること

ここまでは音楽NFTを発行する側の話をしてきましたが、今度はNFTを買うにもスポットを当て、NFTを購入すると何が起きるかを考えてみます。

1.デジタルデータを所有できる

NFTを購入したブロックチェーンが存在する限り、唯一無二のデジタルデータを未来永劫所有できます。参加したライブチケットのNFTや好きなアーティストの限定グッズなど、「持つこと」の楽しさを感じることができるはずです。

2.NFTのプロジェクトに「参加」できる

NFTは持つことだけでは無く「参加する」ことが醍醐味でもあります。NFTプロジェクトによってはデジタルデータを所有することに加えて、NFTを持っていることで発生する権利から、コミュニティや特定のイベントの参加権を得たり、リワードと呼ばれる特典を得ることが可能です。こうしたNFTに付随する特典(ユーティリティと呼ばれます)によって、デジタルデータを所有することの以上の意味が発生し、NFTライフが一層楽しくなります。

3.Walletが自分の飾り棚になる

NFTを購入すると自分のWalletアドレスに購入したNFTが表示されるのですが、このアドレスは全世界に公開されていますので、アドレスを知った人はその人がどのようなNFTを購入しているのか、どのような趣味嗜好を持っているのかがつまびらかになります。(アドレスはTwitterのようにサブアカウントを持つことも可能です。)
他の人が見たときに「好みが近いなぁ」とか、「このライブに行ってたんだ!」とか「めちゃくちゃレアなNFTも持っているんだ」などなど、Walletがその人の趣味嗜好のポートフォリオとしてだけでなく、一種のファッションとも言えるような存在となるでしょう。
あたかも自分の自慢のレコードを飾る飾り棚としてNFTをコレクトしていくということも面白いNFTの世界の関わり方だと思います。

4.価値が変動していく

これはポジティブとネガティブどちらの要素もあるNFT特有の特徴なのですが、NFTは2つの要素によりその価値を変動させて行きます。

①コンテンツの人気によって価格が変動する

NFTはオークションのように、NFTを欲しい人の数に比べてその発行量が少なければ価値を上昇させていきます。アーティストやNFTプロジェクトが人気になりNFTも価値を上げていくということもあるかもしれませんし、その逆もしかり、価格を落とすこともあるでしょう。

②通貨価値の影響を受ける

最近はNFTを仮想通貨で売買せず、円で売買できる日本発のサービスも増えてきています。詳細な説明は省略しますが、グローバルスタンダードは言わずもがな仮想通貨での売買です。
主にEthereum(イーサリアム)やPolygon(ポリゴン)と呼ばれる仮想通貨でNFTを売買するのですが、これらの仮想通貨自体も、様々な要因でその価格を上下させることは仮想通貨を持ったことのない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。
つまり、NFTは①コンテンツの人気によって価格が変動する、②仮通貨価値の影響を受けるという2軸によって、価値を上げたり、下げたりすることになります。
この仕組はこういうものと言うしかないのですが、どちらもメリットにもデメリットにもなり得ます。一種の投機的な目線も度外視することはできません。しかし、むしろそうした見方があるからこそNFTをクリエイターエコシステムの一環としてクリエイターに発行することが出来たり、アーティストのNFTを購入する側にも購入の動機が生まれることは事実だと思いますので、ポジティブに捉えるべきだと個人的には考えています。

音楽NFTサービスを使ってもみるのも○

ここまで音楽NFTを発行したり所有したりするとどのようなことが起きるのかを書いてきましたが、アーティストサイドが考えたりやらなければいけないことが増えるのは事実ですのでなかなか一歩を踏み出せない持ちも正直わかります。また、「仮想通貨」「Wallet」「英語」という様々なハードルがあるのも事実です。何よりもファンの理解も大切です。ファンのために発行するNFTなのにファンが付いて来られないということになったら本末転倒ですよね。(Fake Creatorsでも初期に経験しました)
「とりあえず楽曲のNFTを出してみたいだけなんだけど」とか、「英語でよくわからない」とか、「日本円で販売できるなら」、「コミュニティとかはちょっと面倒だな」というアーティストは、日本の会社が運営するNFTのマーケットプレイスを使ってみるのも手だと思います。ただし、いずれも自由に販売ができるものではなく事前審査制になっているようです。

1.日本の音楽NFTサービス

①Fanpla Owner

“Fanpla Owner は、エンターテインメント領域における NFT(非代替性トークン)を購入できる Fanplus 独自のNFT マーケットプレイスです。プライマリーマーケット(一次流通)として、アーティストなどの公式NFTコンテンツ販売に絞ることで一次流通商品の質を担保し、一次流通で手に入れたNFTは、セカンダリーマーケット(二次流通)での販売・購入も可能です。アーティストへの収益還元を目的としたロイヤリティ機能も設けており、二次流通以降の収益の一部をアーティスト等に還元できる仕様となっています。“

クレジットカードでの決済や仮想通貨であるEthereumでの決済も可能です。
先程紹介したNulbarichはこちらのサイトで販売をしています。
デメリットはFanpla Owner外へNFTを送付することはできないことです。
Fanpla Owner内だけで存在するNFTということになります。

②The NFT Records

”株式会社サクラゲートが運営する音楽専門のNFTマーケットプレイスです。数量限定の音源やアーティストのデジタルグッズを購入することができます。デジタル音源だけではなく、アート、写真などと組み合わせたセット販売なども行われています。”

こちらも日本円でクレジットカードでの決済が可能です。

2.海外の音楽NFTサービス

NFTがアーティストそれぞれのアイデアや思想によって自由に機能を組み合わせて表現できる可能性については説明してきた通りですが、アイデアを思いついても技術的ハードルからその機能が実現できないケースも多く存在します。世界で一番NFTが取引されているOpenseaでは、NFTを販売するという基本的な機能は実装されていますが、音源の権利の配当をしたり、と細かい設計は出来ません。
世界のスタートアップ企業が音楽NFTサービスにおいてもユニークなアイデアや思想によってサービスとして実装し、エッヂの効いた特徴とともに爆誕しています。

①Opensea

https://opensea.io/ja

その前に、やはり世界最大のNFTマーケットプレイスであるOpenseaの説明は欠かせません。アートからアイコン、音楽まで幅広く販売購入が可能です。雑に説明するとNFTのAmazonといった感じでしょうか。

②Sound


NFTには固有の番号が振られるため、ファンはいち早く応援したことをアピールできるようになっており、コメント機能やDiscord上のSoundコミュニティへのアクセスも可能になります。アーティストは出版権の所有権を放棄せずに、収益の100%と転売された場合の10%を受け取ることができます。NFTをリリースするためには事前に審査が必要になります。

③Royal

アーティストが楽曲のロイヤリティを受け取る権利をNFTとして販売することが出来きるサービスです。NFT購入者はアーティストの楽曲から発生するロイヤリティの一部を受け取ることができます。こちらも審査制でまだβ版につき一部のアーティストにしか開放されていない模様です。

④Catalog

アーティストがCatalogサービスを通じてアナログレコードを制作すると、レコードを販売したりすることができるだけでなく、音楽NFTをコンテンツ、ウェブサイト、リンクなどの特別な特典などへの独占的なアクセス権としても使用でき、レコードの所有権に新たな付加価値が加えられるサービス。こちらも審査制です。

これらのサービスにはサービス自体のユーザーやファンが存在しますので、アーティストの音楽がサービスのファンを経由して世界に広がっていく可能性もあります。一方サービスの多くはキュレーションされていますので誰も彼もがリリースできるというわけではありませんが、もしこうしたサービスの機能や思想が気に入ったとすれば、Openseaだけではなくサービスを使った音楽NFTのリリースをすることも大変魅力的だと思います。

最後に

日本でも一番NFTが買われているジャンルはPFPだと言われていますが、それでも購入者数はたったの1万人程度だと言われていますし、(22年10月現在)、世界におけるその市場規模は巨大だとしても、音楽の世界に目を向けてみればまだまだマイナーでニッチな領域であることに違いありません。

実は、Fake CreatorsでNFTの初めてリリースしたとき、歓迎してくれたファンもいれば、外国のファンからは「君たちだけは音楽をそんな金儲けに使ってほしくなかった」という類のSNSの書き込みがありました。まだ海外においてもNFTに対する理解や思想が音楽ファンの間でも差があるのだなぁと実感する出来事でした。
その後Fake CreatorsではNFTプロジェクト用の専用ページを立ち上げて(リリース前にやるべきだと学びました)、ROADMAPを作り、なぜNFTを販売するのか、どこに向かっているのかをファンに向けて丁寧に発信してはじめてファンの理解が進んだように思います。まだまだNFTを知らない人からすると悲しいかな「怪しい世界」なんです(笑)。

確かにNFTの取引は通貨で売買が発生します。しかし上に書いてきたようにNFTの機能はお金を発生させるためだけにあるのではありません。NFTの特徴を使ってNFTでしかできない表現をすることに本当の価値があります。ことアーティストが発行する音楽NFTはよりアートの性質や思想を帯びて、よりアーティストの表現力を高めるためのツールになるはずです。
アーティストやそのファンがNFTを「得体の知れない怖いもの」としてネガティブに捉えるのではなく、NFTに興味を持ち「アーティストの表現力を高めるためのツール」として、ポジティブに捉えて行くことに音楽NFTの未来が有るはずと思っています。

サブスクの登場によって音楽の価値は形を変えていきました。音楽業界が得られた価値もあれば失った価値もあります。特にインディペンデントアーティストにおいてはその影響は活動を揺るがすほどに甚大です。今はNFTがインディペンデントなアーティストやそのファンに浸透し、既存の生態系へのカウンターカルチャーとしてまた音楽の価値を取り戻すことになったらいいなと思っています。