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「一箱古本市」の店主として見たお店屋さんの醍醐味

 数ある「お店屋さん」の中でも、小さな頃から憧れていたのは、お花屋さんでもケーキ屋さんでもなく「本屋さん」だった。

 自分の思うままに手に取り、夢中で読んだ思い入れのある本を並べた、本のセレクトショップを一日だけ開店できるとしたら。「一箱古本市」はまさにそれが叶う夢のイベントだ。

 先日「こうふのまちの一箱古本市」に一日だけの古本屋の店主として参加した。イベントを知ったのは昨年の催しに参加し終えた人のSNSの投稿からだ。足を運んだことは一度もないが、出店参加に迷いはなかった。

銀座アーケード街は本好きの人で大賑わい

 日頃は閑散とするアーケード街に、五〇店以上の「古本屋」が軒を連ねるだけで賑わいを感じる。朝十時の開始で徐々にお客さんも増え始めた。大型の書店の閉店や撤退が続き、目についていた山梨で、こんなに「古本市」に関心がある人がいたとは予想外である。

 特に幼い子どものいる家族連れが訪れていた印象だ。子ども達は絵本が並ぶ出店へ近づくと、本を手に取りページをめくっていた。これまでも大切に読まれていたであろう絵本たちが、笑顔の親子の手に渡る光景があちこちで見られる。

「コトデル」店頭の様子

 「コトデル」では、子ども向けの本の出品はあまりなかった。料理本から会計本、シナリオ本などジャンルはさまざまだが、どれも私が一〇代後半から二〇代に関心が強かったものだ。

 意外にも学生くらいの若い来客は少ない印象があった。山梨の読書人口は多いのかもしれないが、読書習慣があり、手当たり次第本を読むような若い人は想像よりも少ないのだろうか。

 手元から旅立った本は五冊になった。内、四冊は事前に手書きしたPOPを貼ったものだ。手書きPOPで溢れるディスプレイに足を止める人もいたように思う。

旅立った本のPOP
もう一冊は納豆の本だった

 お店の見せ方にはまだまだ工夫が必要だと感じた。お客さんが屈まなくても、手に取りやすく見やすい位置に設置する方法。ぱっと棚を見て、売価がわかるような見せ方など。他の出店者の店構えから、学ぶことは多かった。

 両隣や真後ろの店主の人たちも、にこやかで、市は終始和やかな雰囲気に包まれている。今思えば、もっと出店者同士お喋りしたかった。

 本を見にくるお客さんに対しても、来店されても話しかけず文庫本を開いて読むふりをしていたが、少し後悔がある。本来、本を売りにきたのではなく、本が好きな人との交流がしたかったのだ。どんな本を手に取るかまで見ていたいし、隙あらば本への思い入れなども語りたい。

 お店屋さんはモノを売るのが目的ではないのだ。

 思い入れのある本も売れ、noteへのQRコードが書かれたカードや、主催する文芸サークルのチラシを手にする人もいた。いいと思ったものに興味を持ってもらえるのは、やはり嬉しい。本は自分一人のものではなく、人との出会いや絆を深めるきっかけにもなり得る。来年も参加して、もう一歩踏み込む挑戦をしたい。

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