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サブスクリプション

 今回は、こちらシリコンバレーにおける勉強会で課題図書となったこちらZuoraというサブスクリプションビジネス向けの契約管理、決済などの各種ソリューションを提供する企業のCEOが書かれている本なのですが、分厚いわりに、サブスクリプションビジネスと、それによる変化について簡潔に書かれていて、短時間で多くを学べた気持ちがしました。

対市場から対個人へ

 サブスクリプションというと、「定期購入」を思い浮かべてしまいませんか?私はそうだったのですが、本書の中では、所謂登録していると毎月定期的に商品が送られてくる「定期購入」のことはサブスクリプションとは言わないようです。あくまでも登録情報による関連付けされた情報を、顧客へのサービス製品展開にフィードバックさせるもの(以下図参照)だけを「サブスクリプション」と呼んでいます。

 個人の趣向が多様化する中で、年齢や性別等各顧客の情報と紐づけされた購買情報が入手できることで、それぞれにあるニーズについての理解を深めることができるということですね。そして、これにより”その人に、この製品(サービス)”を提供(個人化)することが可能になっていくというわけです。

サブスクリプションサービス普及の背景

 Apple music、Uber、Office365等のサブスクリプションサービスが広がりを見せている背景には、消費者の関心がモノの所有から利用へと変化したことが原因だと言います。つまり、お金がモノ(製品)自体に支払われるのではなく、それを使って得られる結果に対して支払われるようになったということなのです。

 そして、サブスクリプションサービスの柔軟な料金体制(定額使い放題 or 従量課金制)の導入によって、様々な製品・サービスがサブスクリプションによって提供されようとしています。

 私が最近知ったStartupで関連があったのは、お掃除ロボットです。ホテルなどのバスルーム(トイレ含む)を掃除するロボットですが、これもサブスクリプション提供となっており”US$8/時間”という料金設定になっているんですね。「一台数百万のロボットを買う」という話だと、考えてしまいますが、時給$8だと、パートタイマーの時給と比較でき、確かに訴求効果は高そうです。これも、ホテルにおける”得られる結果”を意識しているからこその発想だと思いました。

広告モデルから購読料モデルへのシフト

 一時勢いのあった広告収入によるAPPやサービスの”無償化”ですが、これは縮小の方向にあると言います。この話では米国の新聞業界が取り上げられ、広告収入をベースとする無料のニュースサイトを公開していたそうですが、続々と有料の定期購読サービスに切り替えているとのことです。

 時代が”得られる結果”に対してお金を支払う時代になり、元々誰も広告なんか見たくはない、といったことが原因のようです。さらに、GoogleやFacebookによる寡占状態もその原因の一つにあるようですね。2016年時点で全オンライン広告費の49%がGoogleに、40%がFacebookに渡っていたという話で、残り11%をその他大勢がわけあっているという状態なのだから広告費の目途が立たないというわけです。

 ここで注目したいのは、収入モデルが変わることで大事にしなければいけないことが変わったということです。広告主を探して阿る方向から、消費者がお金を払いたくなる”何か”を追求しなければならなくなったということは、ジャーナリズムにとっては良い方向性のような気もします。

既存製造企業のハードル

 本書を読むことで、私達既存の製造企業の製品も、”考えれば”サブスクリプション化の余地はありそうなことがわかりましたが、非常に大きな課題があることもわかりました。本書内で指摘されていたいくつかについて、みてみましょう。

1.「終わりなき開発が続くプロダクト」

 私達の製品領域だと、開発って一応「終わり」があるのです。なので、会議では、「何をもって成功?いつ終わるの?」というところが聞かれるわけですが、サブスクリプション・ビジネスになると、冒頭の図のようにループするため、「終わり」が無いのです。この考え方を受け入れられるかどうか?が一つの課題だと思いました。

2.初めの価格設定をする勇気

 そして、さらに難しいのが、”初めの”価格設定だと感じました。一旦サブスクリプション・ビジネスが回り始めると、どんどんデータを得られるため、その後の製品展開・価格設定はかなり合理的な決め方ができますが、本書でも言われているのが、初めの価格設定です。この時点ではデータが無いので、結構大雑把な情報から決め打ちをしなければいけません。高すぎれば加入者が少なく、データは集まらないでしょうし、安すぎては立ち行き行かなくなってしまいます。

 そして、通常の製品販売業がサブスクリプション移行時に生じる「フィッシュ」(以下図参照)と呼ばれる”収益減少、コスト増大”を受け入れられるか?という点もそうですね。これは相当厳しそうだなと思うのです。あのAdobeでもサブスクリプション移行時に、ナスダックから取引停止についてたずねられたこともあったそうだし、移行翌年は35%も収入を落としていたのですから。(その後は成長を遂げ、サブスクリプション化のモデルケースとも言われる)

3.大幅な組織変更の困難

 実は、最も大きな問題なのでは?というのはこの組織変更かもしれません。こちらで連続起業家の方にお話を伺った際にも、あっさりと「大企業には無理!」と断言されてしまったのは、組織の問題。サブスクリプション・ビジネスでは、顧客を中心とした新たな組織構成と、組織の中での情報の流動性が要求されるわけですが、各既存組織においてインセンティブが発生している既存企業に、組織構成の大幅は変革は非常に大きなハードルになりそうです。

されどサブスクリプション

 しかし、それでも、できるところはサブスクリプションにトライした方が良いと思うのは、やはり企画・開発にフィードバック可能な情報をリアルタイムにダイレクトに得られることと、収益モデルの転換(定期収入の確保)、他社が始めることへの恐怖だと思います。

 データを得ることで、本当に得られたデータから企画・開発ができるうえに、データが集まりだすと、価格設定にも余裕がでてくるでしょう。

 そして、来年の収入をかなり確かに推定・計算できることが大きい(以下参照)。既にほとんど定期的に購入してくれている卸が存在していたとしても、サブスクリプションによって”ほぼ確定している収益”には強みを感じます。

 恐ろしいのは他社が先行することです。BtoBにおけるいくつかのサブスクリプション化サービスを考えてみましたが、いずれもどこかの会社が先行し、うまく需要にフィットすると、一気に市場を席巻されることが懸念されることです。どこかに先を越される前に先手は打ちたい。そう思うのでした。

他にもIoTがもたらす効果や、望ましい組織構成など、実例を交えて掲載されている本書。繰り返しになりますが、分厚い割に読みやすいです。気になる方は是非お手に取ってみてください!

それでは!




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