見出し画像

【パロディ】アリとキリギリス(7)

 あるところに、働き者のアリと遊び好きのキリギリスがいました。
 キリギリスはバイオリンが大好きでした。夏の間、キリギリスはずっと涼しい日陰でバイオリンを弾いていました。
 その間、働き者のアリは暑い日照りの下で、冬のために汗を流しながら、一所懸命働き続けました。
「キリギリス君、暑い夏のあいだに冬の食料の準備をしておかないと、冬になって苦労するよ」
 アリがキリギリスに忠告しても、
「僕は今が楽しければいいのさ」
 と言って、キリギリスはアリの忠告をいっこうに聞こうとはしませんでした。

 冬が来ました。
 アリは一所懸命働いたものの、おりからのコロナ渦で一向に外出できず、十分な食糧を蓄えることができなかったのです。
「このままでは冬が越せないよ」
 アリは困り果ててしまいました。
 しばらく思案して、アリは思い出したように手を打ちました。
「そうだ。秋ごろうちの隣にビルが立ったんだった。あそこなら食料の備蓄はあるかもしれないぞ」
 さっそくアリは隣のビルを訪ねました。

「すみません。アリと申しますが……」
 自動扉が開いて、ビルの主人を見たアリは驚きました。ビルの主人はキリギリスだったからです。
「キリギリス君、どうして?」
「いやあ、今年のコロナ渦で自宅にいる人が多くなってね。僕がリモートでバイオリンの演奏会を開いたら、大盛況でね。世界中の虫たちが僕のコンサート生配信に課金してくれたんだよ。それで儲かっちゃって、儲かっちゃって、お金の使い道がないから、税金対策でせめて自宅兼事務所のビルでも建てようと思ってね。アリ君、食料に困ってるんだったら、いくらでも分けてあげるよ」
 アリはキリギリスの分けてくれた食糧で無事冬を越すことができました。
 めでたし。めでたし。

(教訓)
昆虫万事塞翁が馬


小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)