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003.Nによる話

『2階ロッカールームの11番目』


 んーと。実は俺もあんまり怖い話のレパートリーはないんだよねえ。
 しかも今回は、体験談限定でしょう?
 んー……。

 ああ、でも中学のときはいわゆる七不思議っていうの? 学校によって微妙にアレンジ加わってたり、数足りてなかったりするやつね。そうそう。あったんだよね。

 俺の学校では、王道に女子トイレに出る女の子の幽霊と、動く人体模型と、誰も居ない音楽室から聴こえるピアノの音と、ウサギ小屋に骨が埋まってるとかって話と、桜の木を切ると血が出てくるっていうのと……あとは何時に窓から中庭を覗くとかつて屋上から飛び降りた生徒が見える、とかね。
 ああ、ふふ。ごめんね? さっきの青路くんの話で思い出したわけじゃないんだよ。

 そう、それであとひとつが、二階にあるロッカールームの、十一番のロッカーには生きた生首が入ってるっていう話。
 そうなんだよね、他はどの学校でもありそうと言えばありそうなんだけど、ロッカールームの話だけ妙にオリジナリティがあるんだよ。

 っていうのも、俺の学校では普段使ってるのは一階のロッカールームで、そこで体操着に着替えてそのまま体育館に行こうねって感じだったのね。
 二階のロッカールームっていうのは前に使われてた、言わば旧ロッカールームなんだよ。だからけっこう荒れ放題で、廊下の一番奥にあったしなんとなく不気味ではあったよ。
 改築工事が半端で、比較的新しい校舎の中にぽつんとある部屋の、かなり錆びてほとんど読めなくなった「更衣室」の文字だけでちょっと怖かったなあ。

 うん、たぶんそういうところ。そういう雰囲気だから怪談っぽい噂が生まれたんだと思う。
 まあ、生きた生首っていうインパクトの強いワードもあったし。その生首が何をするとかどんなことを喋るとかは別に有力な説? っていうか、大筋の噂は特になくて、ただ「二階のロッカールーム、十一番目のロッカー」っていう具体的な情報だけが独り歩きしていったんだ。

 俺が、二年生のときかな?
 うん、そう。中学二年生の春休み前だ。
 クラスに居たやんちゃなグループが肝試ししようって言い出して、でも夜の校舎に忍び込むなんて大層なことはできないから放課後、帰り際に行ってやろうぜ、みたいになっちゃって。

 俺は、どこのグループに居なかったのもあるし正直その噂とか肝試し自体にもあんまり興味がなかったんだけど、ちょうど子役時代の終わりで事務所から正式に声かかってた時期だったし、学校休みがちで、あまりクラスの子と仲良くできてなくて寂しかったんだよね。
 だから、毎回断るのに毎回一応誘ってくれるクラスメイトにたまにはいい返事したかったのもあって「うん、俺も行く」って返事したの。

 けっこう、盛り上がったんじゃないかな?
 最初は四、五人のグループ内での話だったのに、最終的にクラスの半分は少なくとも居たと思う。

 それで、三人一組に分かれて二階のロッカールームに入ったんだ。俺は一番乗りだったよ。
 俺と、えっと確か、バトミントン部の女の子と、卓球部の男の子の三人で入った。鍵はかかってなかったし、中は埃っぽくて、かなり雑然としてたけど足の踏み場もないほどじゃなかったと思う。

 置きっぱなしになってるロッカーにはそれぞれ「1」から「30」くらいまでかな? もう少しあったかもしれないけど、振られた番号もちゃんと残ってた。
 十一番はどこだろうって思って辿ると、からっぽのネームプレートの下に「11」とナンバーが振ってあるのも当然あって、偶然かもしれないけどそのロッカーだけ少し開いていたものだから女の子がひどく怖がってた。

 俺もドキドキはしてたと思う。
 三人で手繋いで近づいて、そのくせ卓球部の男子と結託して「ここは俺達で」みたいにカッコつけて、十一番目のロッカーを開けた。

 ……。
 ……俺や、一緒に居たクラスメイトが何か言う前に外から担任の先生のすっごい怒鳴り声が聞こえて、これのことはもうあとで話そうってなって俺もクラスメイトもみんな散り散りに逃げてそのまま帰った。

 ロッカーの中にあったものについて、そのあと話しづらくなっちゃったんだけどね。

 何があったかって、結論から言うと生きた生首ではなかったよ。
 でも紙がたくさん詰まってた。赤いインク……だと思う。まあインクも古くなると茶色っぽくなりがちだし、ね。インクだと思うんだけど、赤い文字で「○野‪✕‬子死ね○野‪✕‬子死ね○野‪✕‬子死ね」とか「○野‪✕‬子を殺す」とかそんなことばっかり。

 ○野って、意図して名前は伏せてるんだけど、当時の担任の先生の名前で、先生自身は男性だったけど妻子ある人だったから、ね。
 ‪✕‬子さんが奥さんなのか娘さんなのかなんて、考えても仕方ないし考えたくもないじゃない?
 ○野先生は春休み明けには居なくなっていて、なんの説明もなかったから、そのまま誰も何も言わなくなった。
 もちろんずっと気にはなってたけど、かなり物静かな方だった〇野先生の、あの、なんていうのかな、ロッカールームに近づいたのを怒鳴っていた声がちょっと尋常な感じとは思えなくて。
 もう、ほとんど奇声で、何を言ってるかは聞き取れなかった。

 それから後日に、「春休み前、実際ロッカールームに入った人は居ますか?」みたいなアンケートは、白紙で出したよ。みんなもそうみたい。

 分からないけど、それで良かったんだと思う。
 おしまい。


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