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002.Aによる話
『彼女の最期の声』
千年くんの話なんか腑に落ちないねえ。
あ、次僕の番? よーし、話してあげようじゃないか。
えっとね。まあその、元カノ……の話なんだけど、うん、僕も酷い男だったよ。いやいや、いくらなんでもさすがにさ、毎回似たような振られ方してて、しかも一回カッターでお腹刺されたら「これもしかして僕がひとでなしなのか?」とは思うでしょうが。いくら僕でもさ。
……もう! いま話したいのはそのエピソードじゃないんだって!
まあその元カノの中に並外れて思い込みが強い女の子が居たんだよ。急に辻褄合わないことを言うから意味わかんなくて確認したら、仮定の仮定の仮定くらいまで推理してそれを事実として語る、みたいな。
うーん、虚言癖とは違くてね。
本当にただ自分が想像したことを本気で「そうに違いない、てかそうだった、そうだ」って思っちゃう感じ。
噛み合わないのをそーいうものだって放置してた僕も悪いんだけどさあ、ある日突然「青路くんが浮気してて日夜浮気相手とわたしの悪口言ってるんだ! 出ていけ汚らわしい!」って叫ばれて住んでたアパート叩き出されてさ。当然浮気なんか事実無根だよ? でもほんと急にキレてしまって。
そうそう。突き飛ばされたり叩かれたりで追い出された。
時間ももう夜の2時半とか。
幸いたまたま当時使ってたケータイは手に持ってたから電話したけど出ない、メールで釈明しても無視。実家は都内だけどさすがに電車ないしなあって思って、あと財布ないし靴も履いてないし、詰んだわコレって思って仕方なくその場に座り込んだんだ。
でも彼女の大声と深夜にドタンバタン大騒ぎしたせいでご近所さんが通報してくれたらしくてさ、冬の深夜に裸足で一夜明かすのは避けられたよ。
でも彼女、思い込みが激しいから、「警察やご近所さんみんな私の悪口を言ってる、青路くんと私を引き裂こうとしている」みたいな発想になっちゃってさ。
僕は一週間くらい実家に戻ってからまた別のすぐ入れる安アパート借りたんだけど、彼女はもうそこからは本当にノンストップ。
ほぼ毎日メールが来るんだよ。
ずーっと。一日中。
「迎えに来て」ってメール来たから「どこにいるの?」って返したら「見張られている」とか「もうやめて」とか来るんだ。
と思うと「青路くん大好きずっと一緒にいてね」とか言われるから、「そうだね。調子いいの? 今どこ?」って聞いたらまたネガティブなことや呪詛のメールが大量に届いたりして。
それが、二週間くらいかな?
そのくらい続いて、ぴたりと止まって、さすがに心配でさ。
電話かけたんだよ、彼女に。まあ出なかったんだけど。それから何回かかけたけど出ないから、僕も生きて生活してるし仕事も入り始めた頃だったし、あんまり気にしないようにしなくちゃって思って僕から連絡するのももうやめたんだ。
それで、ある日駅からてくてく帰ってたら、凄い声と一緒に目の前に人が降ってきたんだ。途中にあるマンションからどうも飛び降りたらしくて。
物凄い声だったんだよ、本当に。
なんか、きゃーとかぎゃああああって感じでもなくて、本当に「ああああああああお!」って感じでさ。トムジェリのトムの声に、トラウマ要素をバイバインしたみたいな。本当に背筋が凍ったね。
なんか直感で「あ、絶対だめだ」と思ったけど救急車と警察は呼んだよ。
その子が顔から落ちてくれたから、目の前に落ちられた僕がその子の顔を見ないで済んだことが救いだったよ。
……うん、お察しのとおり飛び降りた子がその元カノでね。
一応僕も事情聴取? で合ってるのかなあ。多分そう。それされて、後日知ったけど飛び降りたであろう階にはあの子の靴と靴下と、あと遺書っぽいのが見つかったんだって。
……遺書っていうか……。
いや、うん。遺書っていうかね。
メモみたいな。僕に宛てたやつ。妙にしつこく直近で接触があったかどうか聞かれたのも納得だよね。
「あおじくん見つけた。ケッコンしようね。この世はもうダメです、二人で違うところで幸せになろう。あおじくん見つけた。あおじくん、あおじくん、見つけた。」
……って内容。
で、思ったんだけどさ。
たぶん目の前じゃなくてちょうど僕にぶつかって、心中狙ってたんじゃないかなあ。
あと、彼女が叫んでた声ね。あれ、「あおじくん」って呼びながら落ちてきたんじゃないかなあって。
ああああああああお、ってあの子の声、たまーにまだ夢に出るよ。
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