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ザスパクサツ群馬の2023年シーズンを振り返ろう

11月12日(日)をもってj2リーグが閉幕しました。私が応援している地元クラブのザスパクサツ群馬は22チーム中11位。そんなザスパクサツ群馬の今シーズンの戦いを振り返ってみようというのが本エントリーの趣旨です。


目標達成 クラブ史に残るシーズンに

まずは今シーズンのザスパの成績を抜き出します。
順位:11位(14勝15分13敗。勝ち点57)
得失点差:±0(得点、失点ともに44)
22チーム制になったj2をザスパが戦うのは10シーズン目(j2は12年から22チーム制。18,19シーズンはj3)でしたが、順位、勝ち点、得失点差は最高の成績、j2復帰から掲げてきた「勝ち点50、16位以上」という目標もついに達成しました。

また、サッカーの内容としても就任2年目の大槻監督のもと、強固な守備、可変式のビルドアップ、いい立ち位置を取ってボールを繋ぐといった明確なプレーコンセプトを見せてくれました。

昨シーズンも同様のスタイルは見せていましたが、結果が付いてこなくなり途中からは現実的なサッカーに切り替えて残留という最低ラインを勝ち取ったのは大槻監督も認めているところ。

クラブとしての目標設定を達成し、過去最高の順位、勝ち点を獲得、昨シーズンから積み上げてきた明確なプレーコンセプトも見せてくれた。そして何よりザスパはj2復帰以来常に「降格」がチラチラとよぎりながら戦っていましたが、今シーズンはリーグテーブルの上を見て戦うことができました。これらを考えれば今シーズンはクラブ史に残る大成功のシーズンと言えるでしょう。

シーズン中盤には喜びのプレスリリースも発信されました。

昇格POを逃すこととなった千葉戦の記者会見コメントで大槻監督は「このクラブがここまで来ていることはJ2の中では僕は1つの勝者だと思っています」と語っていますが、本当にその通りだと思います。

チームを支えた強固な守備

では、今シーズンの成功を支えたのは何だったのでしょうか。第一に挙げられるのは守備陣の奮闘です。44失点は磐田、秋田と並んで4位タイの少なさ。ちなみに上位3チームはヴェルディ、清水、町田ですから、j2で上位に行くためには守備の安定が最低条件であることがわかります。

守備の安定の最大の要因は最終ラインを中心にセンターラインが固定されたことが大きいでしょう。GKの櫛引はJ2で4人のみのフルタイム出場、4バックのうちCBの酒井と左SBの中塩は全試合出場、右SBはU-20の代表合宿にも呼ばれた高卒2年目の岡本が急成長、長期離脱後は川上エドオジョンがその穴を埋めました。CBは酒井を中心に畑尾と城和がそのパートナーを務めました。

中盤から前線に目を向ければ中盤センターでは風間が全試合出場、そのパートナーの天笠も40試合の出場でした。右サイドハーフを主戦場とした佐藤亮、2トップの一角を担った平松も全試合出場でした。

7人もの選手が40試合以上に出場したクラブはJ2で最多(次いで6人の秋田、熊本)。メンバーが固定されれば戦術の落とし込み、選手間の相互理解が深まることは間違いなく、守備の安定に繋がることは自明です。それがGK、最終ライン、中盤に多くいればなおさらです。

さらに今シーズンのザスパの誇るべきことはが最も少なく、退場も1回もなかったことです。J2で反則ポイントがマイナス(反則ポイントは警告がない試合に対してマイナスが付与されます)の唯一のチームです。クリーンなアプローチでボールを奪い、守備時のアタックができていた証拠です。

的確だった補強

シーズン前の補強の的確さも今シーズンの躍進を支えた大きな要因と言えます。上述した全試合出場を達成した中塩、酒井、佐藤亮はいずれも今シーズン加入した選手たち。佐藤亮はチーム内最多得点もマークしました。川上エドオジョンはシーズン当初は左サイドハーフを主戦場としてチームに推進力をもたらしました。

22年度の決算書類を読むとザスパの売上は7億円程度しかなく、これはJ2では岩手に次いで少ない金額です。チーム人件費は3億5000万程度でこちらは琉球、金沢に次いで下から3番目。この少ない金額で監督のリクエスト、プレースタイルに合わせた補強をすることが求められる中で、チームの中心となる選手を補強できたことはフロントの勝利と言えるでしょう。

ザスパの売上金額は数千万円単位ではあるものの、毎年増加傾向にあります。当然それに伴って人件費も増えているわけですが、来シーズンはついに専用練習場も開設されます(カインズが建築主となり、完成後前橋市へ寄付。ザスパが優先的に使用するスキーム)。補強にはハード、ソフト両面が求められるでしょうから、また一つクラブとして前に進むことができました。

9月以降の失速

ここまでは躍進の要因を記述してきましたが、今シーズンのザスパの戦いで悔やまれるのはなんといっても9月以降の戦いです。8月13日の仙台戦を勝利した段階ではPO圏内も見える8位でしたが、9月以降は台風の影響で延期になった2試合を含めて12試合で2勝3分7敗。39節まで連敗がなかったものの、最後は3連敗でシーズンを終える形となりました。上に添付したプレスリリースにある「新しい景色」には届きませんでした。

失速の要因は大きく①攻撃のキーマンであった長倉の新潟への移籍 ②対戦相手による研究が進み、それを上回れなかったの2点が挙げられるでしょう。

①について。長倉は27節の磐田戦を最後に新潟へ移籍しましたが、それまで20試合に出場して5ゴール。上述したように今シーズンのザスパのトップスコアラーが佐藤亮の6ゴールですから、いかに長倉の決定力が重要だったかがわかります。

長倉は2トップの一角をスタートポジションとし、バイタルエリアで楔を受ける、エリア内でのシュートテクニックなどザスパのビルドアップ、攻撃の中心となっていました。その選手がシーズン途中で移籍してしまったのですから、影響が出ることは致し方ありません。むしろザスパのようなクラブで活躍し、J1へ移籍していくことは喜ばしいことでしょう。

②は来シーズンに向けて改善が求められる部分です。私は9月9日の長崎戦を見に行ったのですが、ザスパの可変式ビルドアップ(右SBが一列上がって中に絞り、右SHがタッチラインまで開く。2CBと左SBの後ろ3枚を形成して中盤センターを経由してボールを前進させる)に対し、ボールの潤滑を担う中盤センター2枚(風間、天笠)に澤田とカイオ・セザールがマンツーマンで見る形を取ってきました。

この試合はビルドアップが全く機能せず、ロングボールでボールを捨てる展開が続きました。終了間際にセットプレーから運よく先制することができましたが、長崎の交代選手の火力と内容に圧倒され逆転負けを喫しました。逆転負けを喫したことよりも、戦い方を完全に封じられたことに勝手に不安を覚えたことを覚えています。

他にも山口は後ろ3枚のビルドアップに対し、3-4-2-1の「2」と「1」でプレスをかけて、ボールの前進を許しませんでした。結果を出せば、対策もされる。当たり前のことです。ザスパは毎節試合終了後に大槻監督の記者会見コメントをHPで公開してくれますが、シーズン通して発信していた言葉の一つが「立ち位置」だったと思います。

相手が対策してくるならば、それを上回る「立ち位置」を取ってボールを動かす、相手の戦い方にアジャストして裏を取る、そういったことが相手の研究が進み、長倉という攻撃のキーマンが抜けたこともあり、終盤はなかなか出せなかったということなのだと思います。

また40試合以上出場の選手が7名いたということは裏を返せばメンバーが固定されすぎていたとも言えるかもしれません。シーズン当初からほぼベンチ入りメンバー18名は変わらずに戦っていた印象を持っています。選手選考はファンは口出しをできない部分ですし、私は仕事の関係で群馬に住んでいないため練習を見学していませんので、分からない部分が多いですが、シーズン途中に新しい風をもたらしてくれるものがなかったことも影響はあったのかもしれません。

来シーズンに向けて

躍進を遂げた23シーズンを終えて私が思うことは「来シーズンは苦しむだろうな」ということです。

過去のJ2を振り返れば前評判が低く、躍進を遂げたチームが次シーズン苦しむというのはよくあることです。昨シーズン4位で昇格まであと一歩に迫った熊本は今シーズン残留争いに巻き込まれましたし、北九州も5位→21位で降格(21シーズンから22シーズン)、今シーズン優勝&昇格を果たした町田も4位→18位(18シーズンから19シーズン。降格圏まで3ポイント差で残留)という過去があります。

ザスパは昇格PO圏内に入ったわけではありませんが、来シーズンは開幕から対策をされるでしょうし、今オフには櫛引、中塩、岡本、天笠、佐藤亮といった主力が移籍していく可能性はあるでしょう。プロなのですから条件が良いクラブに移籍していくことは当然です。

個人的にはまずは「勝ち点50以上、16位以内」を確実にクリアできるクラブになってほしいと思っています。現代フットボールにおいて競合力のあるクラブになるためには一定の資金が必要なのは明白です。上述した通りJ2で下から2番目の売上、下から3番目の人件費、ようやく専用練習場が開設するクラブが今シーズン過去最高順位になったからと大風呂敷を広げても仕方ないと思っています。

もちろんピッチで戦う選手やコーチングスタッフの皆さんは目の前の試合を必死に戦ってくれるはずです。しかし、上に貼った千葉戦の記者会見コメントで大槻監督が言っているように選手・コーチングスタッフは「契約」ですが、パートナー・スポンサー・サポーターは「動かない人々」です。

「動かない人々」にとっての最大の喜びは目の前では勝つこと、昇格すること、より上位カテゴリーで戦うことですが、長期的には「クラブが存続すること」なのだと思います。特にザスパは経営危機を経験し、J3降格も味わっています。富山、北九州、松本を見れば分かるようにJ3に降格したら再びJ2に戻ってくることは容易ではありません。(2年で戻ってこれたことは僥倖だったと思わざるを得ません)

もちろん目の前の試合で一喜一憂するし、ああだこうだ言うと思うのですが、だからこそ一方で一足飛びに「J1昇格」などと大風呂敷を広げず、確実に堅実にクラブを大きくすることが必要なフェーズにザスパはあると感じています。(ちなみにクラブ側の事業計画は30年度のJ1昇格となっています)

ここまでクラブの話になってきましたが、ピッチ上に目を移すとすでに畑尾、内田、高木、山田の4名の契約満了、退団が発表されています。特に畑尾はキャプテンとして昨シーズンの残留に貢献し、今シーズンも体調は万全ではない状況だっと思いますが、チームのために必死に戦っている姿は感動すら覚えました(町田戦のシュートが決まっていれば、ハイライトになっていたでしょう)

大槻監督が続投となれば戦い方のベースは大きく変わらないでしょうから、守備の安定は一定程度担保されると思われます。大きな課題となっているのは得点力です。44得点はJ2で下から7番目でした。チーム得点王が佐藤亮の6点ですから、得点の取れるアタッカーが最優先でしょう(そんな選手がザスパに来てくれるかは難しいところですが…)。

外国籍選手の獲得のスタンスは6月に開催されたサポカンに松本強化部長のコメントにあるように優先順位は高くなさそうです。確かに慣れない異国の地で、しかも通訳の方も雇わなくてはならないとなると経費面でも負担になりますから、まずは日本人選手でというスタンスのようです。

また移籍していく選手も間違いなくいます。上述した櫛引、中塩、岡本らが移籍となれば、その穴埋めをすることで精いっぱいになってしまう可能性もあるでしょう。ファン・サポーターはこれからオフシーズンのマーケットに一喜一憂して、踊るしかありません。

またサポカンでも質問が出ていましたが、ホームグロウン選手の問題もあります。今シーズンザスパのホームグロウン扱い選手は山中のみであり、条文を読む限り、来シーズンは1名登録枠が減らされるはずです。大勢に影響はないでしょうが、決して褒められることではないでしょう。(来シーズン岡本が契約延長してくれれば25シーズンにはホームグロウン扱いになりますが…)

私の父親は年に数回機会があったら見に行く程度なのですが、やはり岡本や細貝といった地元出身選手はより応援をしていた印象を持っています。可能であればチームの中軸に地元出身がいることは望ましいといえるでしょう。その点でほとんど出場機会のなかった細貝や清水、相模原へ期限付き移籍となった岩上、なかなか数字の結果が出せなかった白石ら群馬県出身プレーヤーがどうなるかは興味を持っているところです。

そして大槻監督の去就はどうなるでしょうか。2年間常に記者会見でポジティブで、ファン・サポーター・スポンサーの皆さんへ非常に配慮されたコメントを残してくれています。何よりも今シーズン明確な結果を出してくれました。より条件の良いオファーがある可能性もあります。どちらに転んでも大槻監督には一ファンとして感謝しかありません。

最後に

さて、長くなりましたが、最後に今シーズンの私のザスパ現地観戦記録です。仕事の都合で西のほうに住んでいるため、基本的にアウェイが中心なのですが、

17節 岡山vsザスパ 2-1 負け
23節 徳島vsザスパ 0-0 引き分け
30節 仙台vsザスパ 0-2 勝ち(帰省のついで)
34節 長崎vsザスパ 2-1 負け
36節 山口vsザスパ 1-0 負け
42節 大分vsザスパ 2-1 負け

1勝1分4敗です。大変申し訳ございませんでした。

選手、スタッフの皆さん、本当に一年間お疲れ様でした! ファン・サポーターの皆さんもお疲れ様でした! また来シーズンも一喜一憂しましょう!

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