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allo-HSCT後のS. maltophilia感染症

おさ菌です!
ちときんでは、血液疾患と感染症について記事を書いていきます。

本日のテーマは、「同種造血幹細胞移植後のStenotrophomonas maltophilia感染症」です。

Stenotrophomonas maltophilia感染症

Stenotrophomonas maltophilia感染症(SMI)のリスクとして、一般的にメロペネムなど広域抗菌薬の使用、好中球減少、中心静脈カテーテルの使用、長期人工呼吸器使用などが知られています。

血液疾患の患者さんでは、治療の過程でこれらのリスクを持ちやすく、SMIを発症しやすいポピュレーションです。

S.maltophiliaはメタロβラクタマーゼ(L1)を染色体性に持っており、メロペネム耐性です。メロペネムを使用すると、使用された患者さんの体にはメロペネム耐性の菌が残っていきます。その結果として、S.maltophiliaが定着してくることがあります。

実際にカルバペネムの累積使用量が多かったり、移植時にS.maltophiliaを保菌していると、S.maltophilia感染症を発症しやすいことが知られております(CID 2021; 72:1507-13, PLoS One. 2018;13(7):e0201169.)。

allo-HSCT後のS.maltophilia感染症

2023年にSaburi等がTRUMPデータを用いて、allo-HSCT後のSMIについてまとめられています(Annals of Hematology.2023;102:2507-2516)。

この報告によりますと、移植後day100までに2.2%の患者がSMIを発症しています。発症のmedianはday20です。SMIの内訳としては、65%がsepsis/septic shock, 26%が肺炎、9%がその他です。

好中球減少がリスクですから、生着までの期間が長い臍帯血移植はSMIの発症リスクとなっています(HR 2.89, p<0.001)。移植時の活動性感染もリスクであり(HR 1.55, p<0.001)、これは広域抗菌薬の使用が関連しているのかもしれません。

SMIは生着前に発症するとday30 OSが40.1%、生着後の発症であれば53.8%となっています。また感染臓器別で見ると、sepsis/septic shockのday30 OSは48.1%、肺炎は33.2%です。

治療

治療は一般的にはST合剤(SMX/TMP)がfirst choiceです。重症患者であれば、ST合剤にLVFXやMINOを加えたcombination therapyが推奨されます。

〈ST合剤の投与方法〉
ST合剤をSMIに対して使う場合の使用量は体重あたりのTMP換算量で使用します。ST合剤は内服も静注製剤も1錠または1アンプル内にSMXが400mg、TMPが80mg含まれています。

SMIには8〜12mg/kg/day8時間毎(CrCl>50)に分けて投与しますので、60kgの人であれば、
 8〜12×60=480〜720
480−720mgが1日のTMPの量となります。ST合剤1アンプルにTMPが80mg含まれていますので、
 480〜720÷80=6〜9
ST合剤 6-9アンプルが1日量となります。これを8時間毎で1日3回投与ですから、60kgの腎機能正常な患者さんに対しては、
ST合剤 1回 2〜3アンプルを1日3回 8時間毎(1日総投与量 6〜9アンプル)投与
となります。

PCP予防で使われる投与量と比べると、ずっと多い量のST合剤を使うことになります。ST合剤の使用量が多いほど、血球減少をきたしやすくなります。移植後SMIの発症のmedianはday20ですから、多くは生着前から生着後すぐの時期で、血球減少や生着不全が強く懸念されます。SMIも予後に関わりうる合併症でありながら、生着不全ももちろん無視できない移植後合併症です。生着前にST合剤を使用するのは躊躇されます。

ST合剤をさけるのであれば、LVFX+MINOでしょうか。LVFXやMINOに耐性であれば、最近日本で承認されたCefiderocol(フェトロージャ)も選択肢でしょう。ただCefiderocolの添付文書には好中球減少(頻度不明)との記載があります。

ST合剤の減量

虎ノ門から生着前にSMIを発症した臍帯血移植患者にST合剤を低〜中等量で投与したとする報告がでています(Transplant Cell Ther. 2021;27(3):269.e1-269.e7)。
一週間以上ST合剤をしようできたのは、9人でその内8人では無事生着を認めているものの、1人は好中球減少をきたし生着前に亡くなっています。

まだ症例数が少なく低〜中等量のST合剤の安全性や治療効果については不明ですが、今後の症例の蓄積が期待されます。

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