見出し画像

不登校問題は問題だ②

夏休みに入ったにもかかわらず、リアル仕事が忙しくて間があいてしまいました。(学校教員は意外と夏休み暇じゃないってのはもはや常識。)

前回は不登校が社会的問題であると再認識するのが目標でした。個々のケースの良し悪しではなく、全体としての問題ですね。

今回はその問題に対してどういう制度とか対策があるのかを概観していきます。まずは義務教育年代(小学生中学生)から。

フリースクールという選択肢

義務教育年代で(積極的ではなく)不登校になった場合、「なんとか元の学校に通わせよう」と教員や保護者が必死に対応します。

教員はある程度慣れているためそこまでではありませんが、保護者の心労は相当なもののようです。「ウチの子だけ勉強遅れちゃう」というプレッシャーと「ウチの子が集団生活になじめないとその後の人生困るかも」というプレッシャーに襲われます。そのうち前者は学習塾などで解消できますが、後者には効果的な対策がありません。

まあ、後者なんてどうでもいいというのが私の考えなんですけどね。

前回長々と述べた通り、不登校問題は学力低下だけです。前者、すなわち勉強遅れちゃうのを何とかすべきです。そして、そこさえ解決すれば他はあんまり気にしなくていい。

教室になじめないから友達付き合いが下手だとか、そんなのはどうでもいいのです。こういうのをコミュ力といってことさら重要な指標であるかのよう主張する人も多いですが、そういうのは無視しましょう。コミュ力の定義は極めて恣意的です。

そういえば、日本のオフィスが個人部屋でなく大部屋で、しかも仕切りがないのが一般的なのは、世界的にみると珍しいそうです。日本の教室にフィットしないのは世界的にみればそんなに珍しいことではないのかもしれませんよ。集団適応なんてその程度のものです。

話を戻します。

不登校への対策として、フリースクールに通わせるという選択肢があります。ただしこれは全国どこにでもあるわけではありません。(オンライン型のフリースクールもありますが。)それに、フリースクールに出席したり試験を受けたりしても、公立の小学校中学校に出席したり試験を受けたりしたことと同じ扱いにはなりません

この辺り、国や自治体は方針を転換しています。出席扱いについてはだいぶ緩和されています。学校長や教育委員会が認めれば出席扱いとなるそうです。(所属自治体によりますので各自でご確認を。)

とはいえ、中学校の次に待っているのは高校です。中学生が本来の学校で受けるべき定期試験を受けていないなら、成績(内申点)のところがどうにもならないので、高校側は入学を許してくれません。(高い学力さえあればどうとでもなりますが。)ですから、フリースクールに通っている中学生は学校に通っている生徒と完全に同じ扱いを受けるわけではありません。

まあ、保護者は悩むでしょうね。学力上位層なら高校なんかいかなくても自分で勉強して高認から難関大行けばいいじゃんっていえますが、全員がそうではないし。何とかしてウチの子をまともな高校にいれる方法を考えないとって。

経済的基盤の弱い母子家庭なんかだと本当にかわいそうだなあと傍目にも思います。

不登校生徒が全日制高校に通うとどうなるか

意外に思われるかもしれませんが、小学校中学校と不登校だった子どもは、ごく普通の高校生活を送りたがるんです。普通のというのは、全日制普通科ってことですね。ありふれた高校。青春。そういうものに強烈な憧れを抱くようです。

でも学校側としては、「不登校自体は悪いことじゃないけど、全日制の高校は不登校だった生徒向けに設計されていないので、通信制の高校に通いなよ」と思っています。そこに意見の食い違いがあります。

高校も少子化のあおりを受けて定員確保に必死ですから、正直いって不登校の生徒でも受け入れてくれるところはあります。公立なんかは逆に不登校枠などを別に用意しているところもあるくらいです。そんなことで、不登校だった生徒もわりと全日制の高校に入学しています。

で、それってうまくいくんでしょうか。どうおもいます?

私、結果を知っています。多くの事例をみてきましたから。小学校中学校と不登校だった子どもが全日制の高校に通うとどうなるか。この目で多くの事例をみてきました。

私の経験上では、2割というとこでしょうか。2割くらいは高校になったら普通に通えるようになってそのまま卒業していきます。ですが、8割くらいはやはり通えずに通信制高校に転学していきます

だったら最初から通信制高校に行けばよかったんじゃと思うかもしれませんが、それは仕方のないことです。教育で最も優先すべきは本人の意志。本人が一度きりの人生でどうしても「普通の高校生活」なるものに憧れているのなら、親も可能な限りでその願いを叶えてあげたいと思うのは自然です。(ただし、大半は叶いません。それでも無駄じゃなかったとおっしゃる保護者もいらっしゃいますし、遠回りしちゃったという保護者もいらっしゃるので、難しいところですね。)

言うまでもないことですが、全日制の高校は単位制です。十分な出席がなされていないと単位がとれず、留年してしまいます。中学時代の不登校状態が変わらず、欠席が続き、留年するくらいならと通信制高校に転学していくわけですね。

広域通信制高校ってどうなんだろう

さて、そんなこんなで不登校だった生徒は通信制高校に入学することになります。

通信制高校は一昔前からすると信じられないほどメジャーな存在になりました。通信制高校には全国から生徒を募る広域通信制というのと、近場の県からのみ生徒を募る狭域通信制というのがあるのですが、広域通信制の最大手であるN高等学校S高等学校は、なんと1学年に1万人程度の在籍者を抱えています。

100万人しか同世代の日本人がいない中での1万人、たった一つの高校で、です。通信制の在籍者がけっして少なくないことがわかると思います。

全体でみても、通信制高校の在籍数は猛烈な勢いで増えています。1980年代後半(平成初期)には15万人程度だったのが、じわじわと増え続けて2020年頃に20万人に達しました。そこまでは時間をかけて増えていたのですが、そこから勢いが加速し、2023年には26万人になりました。全日制高校の在籍数は300万人程度ですから、通信制高校に通う生徒は全体の10%に近づいています

なんで近年、急激に増え始めたんでしょうか。コロナがきっかけだという意見もありますが、それだけではありません。私は、ようするに、世間の見方が変わってきたことが主因だと思っています。

かつては通信制に抵抗のある家庭が多かったのですが、この頃はそうでもなくなりました。この辺りは家電の普及と一緒です。スマホなんかと一緒で、ある閾値を超えるまではかなりの時間を要するのですが、その閾値(体感的には5~10%くらいですか?)を超えると、様子見だった層が一気に購入するため急激に普及する。まさに今そんなことが通信制高校にも起こっています。


(参考:ロジスティック曲線)

曲線の画像は以下のサイトから拝借いたしました。
【マーケの解析に大活躍】Pythonを使ったロジスティック回帰分析を解説! | pipon AI Trend 最新AI情報をわかりやすく届けるメディア

普及率を説明する際などによく用いられるロジスティック曲線を参考にするなら、10%に近づいた通信制の在籍数は、ここからしばらく猛烈な勢いで拡大していき、80%程度に広がったらそこから再び速度を落としていきます。恐ろしいことに、全日制と通信制の人数比がここから数十年かけて入れ替わるといった予想も成り立ちます。


では、その通信制高校って実態はどうなってるんでしょうか。

私は全日制高校の教員ですから、この通信制高校の内情についてあまり詳しくありません。全日制の毎日通うスタイルに適応できなかった生徒の実情を鑑みて、多くがカリキュラム上は国の制度内のギリギリまで卒業しやすくしているようです。あまり登校しなくても、たいして難しいことを学ばなくても卒業できるようになっている

まあ、問題は明らかですよね。前回強調した通り、学力低下です。

私が語る不登校問題とは、集団に適応できない子どもが増えているということではありません。そうではなくて教育の質の問題、きつい言い方をすれば、学力不足の人材が増えていることです。それは結果的に社会の発展に大きな影響をもたらします。

そうしてみると、国が不登校生徒の増加を問題視するのは当然です。そのモチベーションは、学校通えないメンタル薄弱な子どもが増えているから何とかせねばとかそういったことではなくて、社会を維持するための優秀な人材が不足してしまったらまずいという危機感からきているのです。

私は勝手にそう解釈して、納得しています。

不登校問題の今後の展開

昨今、文部科学省は大胆な動きをしています。

学校教育法の施行規則という、学校にとって大切なルール(省令)を改正してでも、全日制学校に不登校生徒の教育をしてほしいというふうに要請しています。「学校に通えなくなっても遠隔授業をして単位を認めることでなんとか進級させて欲しい」と。これを書いている2024年ではまだ普及していないものの、本当にそのようなルール改正がなされました。

(参考)
高等学校等における多様な学習ニーズに対応した柔軟で質の高い学びの実現について(通知)(5文科初第2030号)
自宅でオンライン授業、単位認定…不登校高校生の中退防止へ文科省が4月にモデル校

高校は単位がとれなければ留年してしまうわけですが、全日制なのに学校こられなくても遠隔授業だけで進級させちゃうっていうのも適当な気がします。体育とかどうなってんだよと。

この制度に関していえば、現場サイド、つまり多くの学校では無視を決め込んでいます。端的にいってマンパワー不足、今の全日制高校には遠隔授業をしたりレポート課題を添削したりするだけの余力が不足しています。国からお願いされたって無い袖は振れません。

今後どうなっていくかはわかりませんが、それでも国のおおまかな方針には納得できます。猫の手も借りたい、なんとかして不登校の生徒に高校卒業程度の学力を見つけてほしいということでしょう。この遠隔授業で単位認定をという制度は少し実現が厳しいですけど。

ということで、不登校問題の概観でした。

noteを検索すると、小学生とか中学生の保護者が我が子の不登校問題を語る記事がいっぱい出てきますが、高校以降も不登校問題は続いているんですよ。語られないだけで。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?