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 今日は雨降りの火曜日で、低気圧で頭はぐらぐらして、ゼミの発表があって、ヤクルトは雨天コールド負けを喫した。だから悪い一日だったかという別にそうでもなくて、どちらかというと良い一日だった。どのあたりがいい一日だったかと聞かれるとそれはあまりうまく言葉にできないけど、とにかく良い日にだったと思うから、今日はやっぱり良い一日だったのだ。よく、お気に入りの傘があれば雨も好きになる、みたいなことを言うけどそれは詭弁で、雨はいつだって人を陰湿でみじめで暗い気持ちにさせる。だけど、まあそんな日がたまにあったっていいじゃないかと思えるくらいには、今日は良い一日だった。帰り道に鼻歌を歌うほどではないけど、ほどよい石を見つけたら曲がり角まで蹴とばして運んでやろうと思えるくらいには、良い一日だった。
 先週末は天気が良くて、IKEAのサメのぬいぐるみを洗って干した。日頃抱きしめて眠っている相手を洗濯用ネットに押し込んで洗うのは当然心苦しい行為ではあるけど、こればっかりは本人のためと思って心を鬼にするほかない。相手が鮫ならこちらは鬼だ。人間だって風呂に入るのは億劫だけど、そしてその後のドライヤーやら保湿やらはもっと億劫だけど、すべてが終わった後は、まあ入ってよかったなという気になる。だからこの辺の人間心理を彼女も理解してくれたらと思う。この子の名前をサメ子という。サメ子というからには女の子なのだろうけど、本当のところはどっちかわからないし、というか正直なところどっちでもいい。名付け親は僕なので、僕としてはやっぱりその名前を本人に気に入っていてほしいけど、もし不服とするのならいつだって変えるつもりだ。ジェシーとかチェンとか青山とか。『シャークネード』という映画から名前を取って、シャクネなんていうのはどうだろう。きっと本人は気に入らないだろうけど。そういえば実家で飼っていたカメの名前はかめきちという名前で、カメの世界では役所の書類の記入例なんかに使われるような平々凡々な名前のはずだ。あるいは名付け下手は親譲りなのかもしれない。かめきちという名前も果たして本人が気に入っているかどうかは知る由もないけど、というか話は戻るけど、ハンガーに吊るされたサメ子は漁船から揚げられたサメのようで何とも愛くるしい。
 今は少し酔っていて、待ちぼうけている小学生みたいに椅子の上で体育座りをしながら、この文章を書いている。今は、と書きながら思ったこと、「今は」と「今際」はとても似ている。というか発音は同じで、調べてみると「今際」は「今は限り」の略らしい。「今際」は「死に際」とほとんど同義なので、今は少し酔っているとは、まるで死に際に酒を飲んでいるみたいで、それはちょっとどうかと思う。インスタグラムの通知が来て何かと思ったら、一年前の免許合宿で知り合った人からのDMで、これまで一度もやり取りなんてしたことなかったのにどうしたんだろうと思って開いてみたら、案の定というかなんというか、マルチの勧誘だった。彼はマニュアル車で交差点の真ん中で何度もエンストを起こしてぶるぶる震えていたけど、今や立派なマルチの勧誘員になっている。僕は今二十一歳で、お酒を飲んでいて、この文章を書きながら、マルチの勧誘をどうやって断ろうかと悩んでいる。

 


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