開発者が語る「培養肉とは」。#03 培養肉が解決できる課題 「自分で作って、自分で食べているからわかること」をお伝えします。
ダイバースファーム㈱の大野です。今回は培養肉が解決できる様々な課題についてお話させていただきます。
大前提:畜産業との共同作業
まず大前提となるのが、畜産業・水産業との共存です。
食は文化であり、「肉を食べたい」という欲望を持つ消費者が消えることは無いと思います。
また、通常の細胞は永遠に増えるものではないので、一定の数量の家畜を飼育することが必要です。
下記の図のように、原料供給元となる畜産業(下図にはありませんが、水産業も)から継続して、細胞を供給してもらうことが前提となります。畜産業・水産業との協業については 大切なところでもあるので、別にお話しさせていただきます。
安心、安全、安定、そして「美味しい」
培養肉がなぜ 安心、安全、安定、でさらにおいしくなるのか、いくつかの項目別にご説明させていただきます。
可食部のみ生産
家畜は処理されて食肉になるわけですが、重量としてはおおむね半分ぐらいが可食部となります。それ以外は牛革、羽毛など利用されるものもありますが、廃棄されてしまいます。廃棄されてしまう部位(血や、頭部、骨髄など)はその処理にもコストがかかってしまいます。
これに対して培養肉は食べられる部分だけを生産するので、ロスがありません。これが培養肉の最大のメリットであると思います。
無菌生産
培養肉は細胞を培養することで作製されますが、基本的に「無菌状態」であることが必須です。最近の増殖スピードは細胞のそれよりはるかに速いので、少しでも細菌が入るとあっという間に細菌が支配的になってしまいます。つまり「腐って」しまいます。
よって、投入されるすべての細胞や培養液、容器は無菌状態であることが必須です。無菌にすることは相応に大変な手順がかかりますが、それにより多々のメリットが出てきます。
食中毒がない
前提として「食中毒は食肉の処理・流通後に発生」することがほとんどであることをご理解ください。家畜の体内は基本的に(健康であれば)無菌ですので。
上記に述べたように、無菌状態で培養されるので、培養肉自体も無菌です。それをそのまま工場内でパッケージしますので、食中毒リスクはおおむね排除できると考えています。
長期間保存できフードロスにつながる
缶詰やレトルト食品は「密閉後に加熱殺菌」することで、容器内部を無菌状態にすることで長期間の賞味期限を達成しています。
培養肉は「そのままで無菌」なので、加熱殺菌しなくても(したら調理済になってしまいますね)長期間保存できると考えています。
これは、直接フードロスにつながり、さらに 小売店や料理店の廃棄率を下げ利益率を上昇させることになります。仕入れ頻度も下げられるので、業務削減にもなります。
環境負荷が少ない
下記は東京大学公共政策大学院ワーキングペーパーシリーズ「培養肉に関するテクノロジーアセスメント」のデータをお借りして、グラフ化したものです。
水 90%削減
日本は水資源が豊富な国なのでさほど問題になりませんが、世界で見ると水不足が深刻です。畜産は動物に直接というよりも、飼料となる穀物の消費が多いです。
培養肉になると 90%の削減ができるという試算です。
土地
畜産業には広大な面積が必要となります。これは飼料を含めた面積でもあります。培養肉にすると、工場での生産になりますので、必要面積は99%減と大変少なくて済みます。
しかしながら、畜産業・水産業は広大な国土の隅々で事業をしており、その地域経済の柱です。単純な使用面積の削減を指摘するのは意味がなく、むしろ国土保全を担ってくれているという視点が必要と考えています。
当方が目指すのは「各地域の畜産・水産業の負担を下げ、培養肉展開により売上向上を達成し、持続可能な地域経済に貢献する」という点です。
温暖化ガス
CO2やメタンガスなど、畜産業から生じる温暖化ガスが相当量あるといわれています。
ただ、同じ牛でも、飼料が牧草と穀物では産出されるメタンガスに大きな差があるともいわれ、もう少し調査が必要そうです。
培養肉は直接温暖化ガスは産出しませんが、電気や使用材料の生成時などに相当数の温暖化ガスを産出していると思われます。
このように、温暖化ガスの計算は大変複雑なので、まだまとまった見解が出ていないのが実情です。ただ、培養肉により減る方向ではあるのではと考えています。
安定的な生産
下に従来型畜産と培養肉の対比をしましました。
従来型の畜産は 餌となる穀物を作ってそれを家畜に与えています。すなわち、穀物生産時と飼育時にそれぞれ気候リスク、疾病リスクがあります。
疾病リスク
最近は鳥インフルだけでなく豚コレラなどの伝染病がたびたびニュースとなります。保険があると聞きますが、事業者にとっては大変なリスクでこれを機に事業断念せざるを得ない方も多いと聞きます。ただでさえ第一次産業従事者が減っている中で大変な問題です。
培養肉は屋内型工場で作られるので、基本的に外部環境には左右されません。(停電や津波などの大災害は当然除きます)
種細胞を取るために一定数の家畜を飼育しておく必要がありますが、少ない数をよりのびのびと育てることで、疾病にも強くなるのではないかと考えています。
天候不順・自然災害
同じ理由で、天候不順や自然災害に左右されるリスクは低いと考えています。
デザインミート (霜降り至上論にさらなる一石)
下の写真は、従来の畜産霜降り肉です。
牛肉は霜の入り方でランク分けされており、現在はその最上級のA5が流通量の多くを占めています。
ただ、霜降りは牛肉のおいしさの一面であり、食通の方になると「赤みをしっかりと味わう」のが多いと伺います。
培養肉では、この「赤身」と「霜」を自由に配置することができます。これにより、「さっぱりとした脂の霜降り肉」を作ることができます。
さらに 赤身となる細胞の種類を選ぶことにより、赤身の味わいをコントロールすることができるようになると思います。
動物愛護
大変デリケートな問題で、消費者や研究者などそれぞれの立場によって意見は異なるかと思いますが、基本的に動物にはリスペクトをもって扱うことが大前提です。
生物が生きるということは他の生物の犠牲の上にあることは否めないと思いますし、現在の畜産業は長い歴史の中で築き上げた仕組みです。
培養肉により、単純に屠畜される家畜数を減らすことができると思います。ただ弊社が考える動物愛護はそれにとどまりません。
畜産業が既存肉と並行して培養肉を作るようになると、飼育頭数の削減と同時に売り上げ増加が見込めます。すると、少ない数を丁寧に飼育できるようになるので、おのずと動物の環境は良くなるのではないでしょうか?
ブドウ農家さんがワインを作るように、漁師がかまぼこを作るように、畜産業が培養肉を作れれば、畜産業の選択肢が広がるのことを目指しています。
執筆予定
#01 概要(済)
#02 培養肉の作り方(済)
#03 培養肉が解決できる課題(今回)
#04 原料となる細胞
#05 畜産業と共存
#06 培養手法の課題
#07 培養肉の調理法
#08 デザイン・ミート
#09 再生医療へのつながり
#10 ダイバースファームについて
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