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開発者が語る「培養肉とは」。#2培養肉の作り方「自分で作って、自分で食べているからわかること」をお伝えします。

 ダイバースファーム㈱の大野です。今回は培養肉の作り方を各段階でご説明します。

大枠の製造フロー

 下記に培養肉の作り方のフローを示しました。各段階に沿ってご説明します。 

1:細胞採取

 まずは家畜からタネ細胞を採取します。ウシやブタなどの大型動物と、ニワトリや魚などの比較的小型の動物は取り方が異なります。
 
 ウシやブタの大型動物は、簡単に言うと「太い注射器」で細胞を採取します。これは獣医資格が必要で、当然麻酔をして家畜の負担をできるだけ減らすやり方で行います。ヒトも病理検査などで生体組織を採取することがありますが、それと同じやり方といっていいかと思います。(ここでは研究段階でのやり方をご説明しており、食用に向けては別途さまざまな規制が必要になるかと考えています。)

 ニワトリ・魚などの小型動物は、上記の手法が使えない場合が多いため、通常の屠畜の手法で解体時に、所望の部位の細胞を採取するケースが多いです。

 採取する細胞の量は培養する量によって決まりますが、基本的に少量です。数㎜角あれば実験には十分ですし、量産時は容器サイズによって決められることになります。

採取されたウシの組織片


 2:単離

 簡単に言うと細胞をバラバラにすることです。細胞は組織のまま(細胞同士がくっついたまま)では安定しているので、あまり増殖しません。(体内で勝手に増えては困りますしね)

 細胞同士は細胞間結合と呼ばれる特殊な結合をしていますが、それを溶かす酵素があります。その溶液内に採取した組織片を投入して攪拌することで、細胞同士が離れ、細胞が一つ一つの個体になります。

3:増殖

 培養容器にいれて 細胞を増やす段階です。

 細胞は適した環境において培養すると およそ5日間で10倍程度になります。2回繰り返すと100倍、3回で1,000倍になります。タネ細胞が1gあれば 15日で1kgになるわけです。

 増殖に重要なポイントは ①培養液、②培養容器です。

 世界中で培養肉メーカーはこのどちらかに技術優位性をもって開発を進めています。

 ①培養液は、アミノ酸、ビタミン、塩類といった基礎的な養分(以下基礎培地)に、増殖因子を加えたものです。基礎培地は簡単に言うと「栄養ドリンク」のようなものです。とあるスポーツドリンクを用いて細胞培養できることは知られています。

 しかし、基礎培地だけでは細胞は増殖しません。「増えろ!」と指示をする「増殖因子」が必要となります。これは通常は血液内に含まれているので、血清を使うことが多いです。血を使わずに人工的に製造された「無血清増殖因子」も世界中で開発が進んでいます。

 日本ではベンチャー企業のNUプロテイン社(http://nuprotein.jp/ja/)が頑張っておりかなり性能が良いものを開発しております。

 ②培養容器は 簡単に言うと「ビール製造機のようなもの」です。培養槽(タンクですね)の中に培養液+増殖因子を満たし、細胞を投入。攪拌したり、何かに接着させたりして細胞を増殖させます。細胞は 37℃程度、Ph 7.0程度で効率よく増殖します。

 容器の手法に関しても千差万別で、各社オリジナルを競っています。弊社でも独自の手法を開発しております。各社のHPで発表されていますが、イメージ的には下記のような大型培養槽を使うケースが多いようです。


浮遊培養槽のイメージ図

4:凝集

 凝集とは細胞生物学の専門用語ですが、主として細胞が小さい塊(<数㎜)になる現象をさします。つまり「ひき肉」に近いといえます。

 細胞は何かに接着しようとする性質を持っています(血液などの細胞を除く)。培養液内で増殖しながら、細胞同士が接触するとそのままくっ付いて凝集します。

弊社で作った凝集塊。きれいですね~

 これをこのまま「ひき肉」として調理することが可能です。下記はつくねにしてみた一例です。


5:組織化

 ここで おさらいですが、 動物細胞を使った培養肉には①組織化した肉 と ②組織化しない肉 があります。

 簡単に言うと ②は 上記で得られた凝集塊をつなぎ材(ゲル状の物)にいれて固形化する手法になります。つなぎ材を使うことで、固形化が簡単なことと、シンプルにコストダウンになる(つなぎ材は安価)ので特に低価格向けの培養肉には有効な手法です。

 弊社は①を目指しています。細胞同士が直接結合することで、肉本来の食感が得られるのではと考えています。

 この細胞同士を結合させる技術がネットモールド法(日米欧特許成立済)です。

 簡単に言うと、「ザルで細胞凝集塊を保持しながら培養して、組織化させる」というアプローチで、究極にシンプルな手法だと考えています。

 この手法で作った培養トリ肉の一例が下記です。本物の肉のようなしっかりとした感触があります。

50x50mmの培養トリ肉

 上記を炭火焼にしてみると、香ばしい焼き鳥の匂いがします。

培養トリ肉の炭火焼

 まとめ

 培養肉の作製手法の基本的流れを説明しました。これを応用して様々な「デザインミート」が可能になると思いますが、別にご説明させていただきます。


 執筆予定

#01  概要(発表済)
#02  培養肉の作り方(今回)
#03  培養肉が解決できる課題
#04  原料となる細胞
#05  畜産業と共存
#06  培養手法の課題
#07  培養肉の調理法
#08  デザイン・ミート
#09  再生医療へのつながり
#10  ダイバースファームについて



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