大野次郎
開発者が語る「培養肉とは」。#00 「培養肉は最新の『産業革命』」 100年どころか、人類のある限り必要となる技術。
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開発者が語る「培養肉とは」。#00 「培養肉は最新の『産業革命』」 100年どころか、人類のある限り必要となる技術。

大野次郎

 ダイバースファーム㈱の大野です。#4まで執筆したところで、大きいビジョンがある程度言語化できそうになったので、#00として書いてみることにしました。

 産業革命とは「暮らしを変えてしまう技術」

 ググりますと、産業革命は第1次から第4次まで分類されています。要約すると下記のとおりです。

第一次:蒸気機関(大量生産が可能に)
第二次:鉄と電気(物と情報の移動が可能に)
第三次:デジタル化(インターネットとスマホの登場)
第四次:上記を基礎とした高度複合技術
(人工知能 (AI) 、バイオテクノロジー(生物工学)、量子コンピュータ、3Dプリンター、など)

 要は暮らしを根本から変えてしまう技術革新といえます。すでにバイオテクノロジーは入っていますね。培養肉はこのバイオテクノロジーの一つといえます。ではどのように生活を変えるのでしょうか。

消費者からの観点、「現在の食物は一方通行」

 私たちが食する食物は、動物細胞や植物細胞が結合して、肉や野菜になっています。「結合した細胞を食べている」わけです。

 私を含めた一般の人は何でも食べます。ベジタリアンの方は「野菜」のみを選択して食べています。

 ここで「ベジタリアンが野菜しか食べない理由」を考えてみると
 ・味
 ・低カロリーの為
 ・持続可能な食物だから
 ・動物愛護の為
 ・屠畜に反対だから
 ・信条的な側面
等があげられます。(他にもたくさんあると思いますが、すみません。。)それを現状入手可能な食材としてあるのが「野菜」しかないのでそれを食している、ということで無いかと思います。

 つまり、ベジタリアンの方々は「野菜を食べる」ことが最終目的ではなく、野菜が持つ低カロリーや持続可能、動物を屠畜しないなどの背景・属性に対して選択を行っているのではないでしょうか。

 「美味しくて、低カロリーで、持続可能で、動物愛護になって、屠畜もしておらず、宗教でも禁じられていない 動物細胞で作った培養肉」ができたら、ベジタリアンの方々に、多様な食べ物の選択肢を与えることができるようになる、のではと考えています。

多様な選択肢が可能に 「細胞を選ぶ」

 原料となる細胞は動物細胞に限らず、植物細胞でも可能です。これらを組み合わせることで、多様な選択肢が可能になります。

  つまり、消費者が「売られている食材を食べる」という受動的な立場から、「自ら細胞を選んで、希望の食材を作り、食べる」ことができるようになります。

 今でも、産地や生産者を指定して食材を購入するケースは多々あります。これをさらに一歩進めて、細胞や培養手法を指定して、所望の食材を創り上げる、ことが可能になります。

 消費者に飛躍的に多くの選択肢を提供することができます。

 人類はひとたび手にした食材は、手放すことは無いと思います。人生は「愛して、歌って、食して」です。

細胞を選ぶことで可能になる夢の食材


 畜産肉では「霜降り肉」が最上級とされていますが、脂はある程度食べると飽きてしまう、胃もたれがする という意見も聞かれます。

 培養肉は下記のような「胃もたれのしない霜降り肉」、も可能になります。

 わかりやすい一例をご紹介しましたが、この一例から、様々な培養肉の可能性を感じていただけたかと思います。

 原料となるタネ細胞と、付加する食材の組み合わせで、無限の種類の食材の可能性があります。

 若干アトラクション的ではありますが、ライオン、シマウマ、トラなどの細胞を用いて培養肉を作るベンチャー企業が海外で出てきています。

 更に、ジュラシックパーク的ですが、恐竜のDNAがわかれば「ティラノサウルスのステーキ」も可能になるかもしれません。

やっぱり従来の「お肉」が食べたい

 ここまで、消費者サイドの視点から、培養肉の未来を御紹介しましたが、やはり「普通のお肉」が食べたい、と感じる方も多数いらっしゃると思います。

 当然ですし、従来の畜産からの「普通のお肉」は無くならないですし、無くしてはならないと考えています。

 ただ、普通のお肉のコストは上昇傾向にあるので、量としては減ってきてしまうのではないでしょうか。

 私は下記のように想定しています。従来の畜産肉はある意味「ブランド肉」として残るが、高価で特別な日に食べる物。培養肉は日常の晩御飯や、ちょっと良い外食で食べる物。植物由来肉は、朝や昼食などに簡単低コストで摂取できるもの。このように市場は併存して、残っていくと考えています。

供給側からの観点、「培養肉、細胞農業の持続可能性」

 培養肉の最大のメリットは「食べる部分だけ作る」ことだと考えています。商業生産である限り、ロス率は下げるべきであり、最良の手法は「ロスは出さない」です。

 培養肉は密閉された容器内で細胞を培養し食肉とするので、食べる部分しか作りません。それをそのままパッケージするので、捨てる部分はゼロです。

  私たちが目指すのは下記のような世界です。

 牧場の中に培養肉工場があり、生産者は、従来の畜産肉として出荷するか、培養肉として出荷するか 選択ができます。

 各生産者は、自らの生育手法に必ず自慢できるところがあると思います。自前ブランドや地元ブランドを創り、それらを守っていくことで、地域経済の維持・発展ができると思います。

 畜産業・水産業は外部環境に左右される業種です。自然には勝てませんが、それに備える術を我々は考えることができます。その手助けを培養肉の技術でさせていただければと感じています。

 ワインは数千年前から作られていますが当初は「ハイテク」だったに違いありません。このワインのように、数千年後に培養肉が残っていることでしょう。

新技術は一般化に30年かかる

 ここで、ちょっと観点を変えて、培養肉の産業として大変重要なタイミングにあるという点をお話させていただきます。

 ここ数十年で暮らしを変えてしまう技術の例として インターネットや電気自動車があります。ごく簡単にその経緯をまとめてみました。

 インターネットで世界初のWEBサイトができたのが1991年です。私も最初はEメールとパソコン通信の区別がつきませんでした。Google創業が6年後の1997年。そしてFaceBook創業は13年後の2004年。2007年にアイフォン登場で、流れが決定的になります。16年後ですね。

 自動車産業では、ここ数年で自動車産業の雄に躍り出たのが2003年創業のテスラです。約20年前ですね。そして2020年には電気自動車は2035年に世界で標準となることが決定されました。これは17年後です。

 申し上げたいのは、地殻変動的な技術は、流れが決定されるのに15年程度、一般化するのに30年程度かかる、ということです。

 ビジネス的に言うと、仕組みが決定されてしまう15年後に初めても遅いわけです。プラットフォームを握られてしまうと、巻き返しは困難です。

 食は認可事業であり、かつバラエティに富む産業ですから、スマホや電気自動車のように特定のメーカーが席捲してしまうとは考えにくいですが、やはりリーダーシップをとるのが良いに間違いはありません。

培養肉は9年目 「いつやるの 今でしょ」

 培養肉を広く世に広めたのはオランダのマーク・ポスト先生です。これが2013年。9年前です。

そして7年後の2020年にいち早くシンガポールで培養鶏肉の認可が出ました。そして、約30年後の2040年には 培養肉の世界市場は70兆円になると予測されています。

 WEB,スマホ、電気自動車の例を見ても、培養肉産業はまさに今が分水嶺のタイミングだと感じています。まさに「いつやるの、今でしょ」です。

 欧米では、リスクマネーが数百億円単位で培養肉ベンチャーに投資をしています。国内はせいぜい10億円レベルですね。弊社は数千万円レベルです。

 海外勢が タンカーに乗っているのに、我々は カヌーに乗っているようなものです。

独自のブルーオーシャンを目指す

 ただ私たちが目指すのは 「タンカーがひしめくレッドオーシャン」ではなく、「独自のブルーオーシャン」です。カヌーにはカヌーの戦い方があります。それを考えるのが楽しい。

 夜ワインを飲むとき、「最初にワインを創ったのはどんな人だったのだろう」と思う一瞬があるように、数千年後の人が、初期に培養肉に携わった私たちについて思いめぐらせていもらえれば、これほどうれしいことはありません。




 執筆予定

#00  培養肉は最新の「産業革命」(今回)
#01  概要(済)
#02  培養肉の作り方(済)
#03  培養肉が解決できる課題(済)
番外編 なぜ株クラか?(済)
#04  原料となる細胞
#05  畜産業と共存
#06  培養手法の課題
#07  培養肉の調理法
#08  デザイン・ミート
#09  再生医療へのつながり
#10  ダイバースファームについて

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大野次郎
起業家。大学卒業後、素材系企業及び半導体企業で、日本の技術を立上げ、海外に展開に従事。その後、ライフサイエンスに転身。細胞培養技術を学び、再生医療と培養肉のスタートアップ企業を立ち上げ。人工皮膚と培養肉の開発を並行して行っている。自ら培養器具を設計し、細胞を培養する毎日。