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残酷で抜け感のある童話

■ガブリエル・ガルシア=マルケス『エレンディラ』

「お祖母ちゃん」と涙声で言った。「わたし死んじゃう」(p.135)

悲惨で、時に救いようがなく、なのに美しく心を捉える短編集。

間違いなく、すべての人にお勧めできる本ではない。あまり詳しくないけれど中には「グリム童話」に近い残酷さがあるものも。表題作の『エレンディラ』──正式には『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』は、タイトル通りの悲惨さだった。

でも、なぜだろう……まだうまく説明できないけれど、例えば恐ろしく悲しい夢の世界がいつまでも気になって忘れられないように、エレンディラ(主人公)の最後の姿が脳裏にこびりついて離れない。

ガルシア=マルケスの物語のテーマは一貫して〈死〉にあると感じた。

それも、三途の河の向こう側にあるような得体の知れない〈死〉ではない。日常のすぐ隣に〈死〉がある、という描き方をする。

〈死〉を主題に据えながらモチーフとしては、花の香り、砂漠と海、少年少女……といったものを用い、〈美〉や〈恍惚〉を感じさせる描写が漂ってくる。


文学史のことはあまり把握していなくて恐縮ですが、ガルシア=マルケスが築きあげたとされるジャンル「マジックリアリズム(魔術的リアリズム)」は、一読するとエドガー・アラン・ポーの「ゴシック」に似ているように感じられる。

両者ともに、現実とはやや異なる世界を描いている。両者ともに、物語のキレがあり時に残酷で恐怖を誘う。だから素人の私には最初、両者の違いがよくわからなかった(今もわかってないけど)。

しかし……誤解を恐れずに言えば、ガルシア=マルケスの物語はポーのそれよりも“美しい”と感じた。

出来・不出来の話ではない。そうではなく、ガルシア=マルケスの用いるモチーフ(花、海、砂漠、少年少女など)が、ポーの用いるモチーフ(死刑囚、病、監獄など)に比べて幻想的である──ということだ。

今、私の能力ではその程度しか言語化ができない。「マジックリアリズムとはなんぞや」と調べてもいいのだけど、調べて得られる知識よりもまずは、もう少し読んでみたいと思っている。

実は私はガルシア=マルケスとは誕生日が同じという縁があり(他にミケランジェロも同じ!)、「絶対に読まねばならない」と思っていた。

しかし『百年の孤独』があまりにも難しそうな雰囲気を醸し出しているので笑、ずっと手が出せずにいた。

読んでみると意外にも、難しくはない。文章としてはまったく難しくない。難しさがあるとすれば、カフカやカーヴァーと同じく「作者は何を意図しているのだろう」という不明瞭さにあるのかもしれない。

でも個人的な感想として、ガルシア=マルケスはあまり深読みせずに素直に読んでいい気がした。

この短編集のうち、インパクトでは『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』が最も強烈だったが、好きだったのは一作目の『大きな翼のある、ひどく年取った男』だ。

──ある日とつぜん、庭に「大きな翼のある、ひどく年取った男」が現れる。その正体はなんなのか?「生と死に関わりのあることならなんでも心得ている隣家の女(P.9)」を呼び、見てもらうと──

その女の一言がとても好きだった。うん、キレというよりは抜け感かな。ガルシア=マルケスの作品には意外にも抜け感がある。グロいのにゆるい。それが新鮮。


残酷なものが嫌いな方にはお勧めできないけれど、ギリシア神話が好きな方なんかはいけるかもしれない。

私は近いうちに『百年の孤独』を読みたいと思っています。

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