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【読書】のマガジン

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#数学

読書感想文一覧【随時更新】

noteに投稿した読書感想文が増えてきたので、自分の整理も兼ねて一覧にしてみました。随時更新します。脱線している場合も多いですが、気になる本があればぜひ読んでみてください。 2022年■アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』 ■有元葉子『レシピを見ないで作れるようになりましょう』 ■ジョージ・オーウェル『一九八四年』 ■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』 ■日高敏隆『ネコの時間』 ■加藤文元『人と数学のあいだ』 2021年■志賀直哉『暗夜行路』

📕「無限という概念には、人を怯ませるものがある」

■アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』 「無限」の恐怖 私が無限をはじめて知ったのは、宇宙であった。「宇宙は無限の広さをもつ」──この表現が現在の物理学において正しいかどうかは微妙だが、少なくとも私の幼い頃はそう教わった。 しかし、何かの大きさが無限である、という言葉の意味がどうしてもわからなかった。その状況を頭の中で描くことは不可能だった。本気で描こうとすれば、身体が四方八方から引っ張られるような不快感が襲い、恐怖心が想像力を制止するのだった。

【読書】数学者が抱く孤独と夢

■加藤文元『人と数学のあいだ』 新刊本はふだんあまり読まないのだけど、以前から著作を愛読している数学者・加藤文元さんの新作ということで、買ってみた。 数学者(加藤さん)と、数学者「ではない」4人との、一対一での対話をまとめた一冊である。4人はそれぞれサイエンス作家(物理学専攻)、小説家、精神科医/脳科学者、IT関連企業の社長──という肩書きをもつ。 すらすら読める分量と内容なので、もし文庫化するなら急いで読まなくていいかも……というのが正直な感想。でも、「数学者×異分野

数学と情緒

■岡潔『春宵十話』 著名な数学者であった岡潔の随筆集。数学者が書いた本を何冊か読んできたけれど、いずれも(おそらく世間一般的なイメージとは違って)言葉が簡潔でわかりやすいという点に感銘を受ける。頭の中がスッキリしているのかな、という印象だ。 岡潔の言葉は、とりわけわかりやすい。……というか、あまり数学者っぽくない。 記事タイトルにもあるように、岡潔という人は「情緒」を大切にしていた。日常生活、人間教育、そして数学にも通ずる「情緒」というもの。その思想が前面に出ている一方

数学でモデル形成を鍛え、推論を育てる

■市川伸一『考えることの科学 推論の認知心理学への招待』 私たちの毎日は、推論の積み重ねと言っても過言ではない。 「推論」という言葉は「不確実性を含むもの」という印象を与える。実際に「100%確実な推論」というものはほとんどないうえに、より「もっともらしい推論」にすら到達できていない不確実性の高い推論(=誤った推論)も存在する。 それは例えば「コイン投げで連続して5回表が出たから次はそろそろ裏だろう」というようなものである(これは統計学的に誤った推論だ)。 私たちは無

数学は解きながら創造する

■加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』 「数学は問題を“解く”ものである」 私は、ずっとそう思っていた。もちろんそれは中学や高校で習う数学が、問題を「解く」点に主軸を置いていたからだろう。というか「解く」以外の経験がなかった。 しかしこの本を読んで、IUT理論の概要を知って、私が感じたのは「数学は解きながら“創造する”のかもしれない」──ということだ。 (以下、すこし長めです。) ◎ 私は今までに、この本の著者の加藤文元氏が書いた本を数冊読んだ。一

ダイナミックな数学|「正しさ」は絶対か?

■加藤文元『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』 「論理」は必ず「流れ」を伴って現れる。いや、それだけではなく、そもそも論理と流れとは同一のものだ。 素晴らしかった。 加藤文元さんの本をこれまでに(ガロアの伝記も含めると)3冊読んで、その面白さと読みやすさに疑う余地はないと思っていた。 で、4冊目に読んだこの本。私にとっては最も興味深く、なおかつ最も完成度が高いと感じられる1冊だった。 これまでの『数学する精神』『数学の歴史』と根本的にスタンスが同じで、内容も

「この証明を完成させるための方法がある。でも私には時間がない」

■加藤文元『ガロア 天才数学者の生涯』 この証明を完成させるための方法がある。でも私には時間がない。 ー 284ページ ガロアは弱冠20歳で死んだ。彼はすでに大きな視点で数学の未来を自らの内に描き、世に伝えんと必死だった。が、その短い生涯のうちではガロアの理論はついに理解されなかった。 冒頭の引用はガロアが死の直前に残した言葉である。この言葉を知らなくても、数学好きな人ならばちょっと既視感を覚えるかもしれない。 「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭

数学の「美しさ」と芸術の「美しさ」

■加藤文元『数学する精神 増補版-正しさの創造、美しさの発見』 数学とは「する」ものである。すなわち「人がする」ものである。人がするものであるから、それは時間と手間と労力がかかる。しかし、人がする(仕出かす)ものであるから、それは楽しい。 ー 239ページ もし、数学が好きな人、数学の根幹に興味がある人、それでいて自分は大して数学に詳しくもないし……と思っている人がいたら、間違いなくおすすめできる一冊です(難しい数学は出てこない)。 「数学とは何なのか?」 「数学は何の

数学という玩具

■加藤文元『物語 数学の歴史』 数学するという行為においては、直観の重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。数学の進化とは、正しさの直観能力の進化である。それは人間の悟性が、より抽象的な世界の中に新たな正しさを見出すことである。そして数学における抽象化とは、対象やパターンに対する意図的な健忘を通して、人間の感性を洗練することに他ならない。 ー 34ページ 一つ前に読んだ岡潔『数学の歴史』に比べて、10倍ぐらい読みやすかった。ほとんどの人にはこちらをお勧めしたい。