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【読書】のマガジン

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2020年2月の記事一覧

蠱惑的で愛おしい存在というものがある。フェティシズムを刺激するような。私にとって『ロング・グッドバイ』はそんな存在の一つになっていた。あからさまなタイトルも、ギムレットというカクテルも、顔面の傷も、メキシコの地も、すべてひっくるめて胸をぐっと握り潰す。それこそが真の芸術だと思う。

探偵と相棒の新しい形?

■エラリー・クイーン『ローマ帽子の秘密』 これが小説家エラリー・クイーンの、そして探偵「エラリー・クイーン」のデビュー作。 突然ですが、クイーンのミステリーは「数学の証明問題を解くのが好きな人」に向いているかもしれない。 その理由は二つ…… (1)クイーンの謎解きは、数学の方程式のように、イコールの左右を完全に一致させることに心血を注いでおり、曖昧な部分を残さないから。 (2)数学の中でも証明問題を解くのが好きな人は、複数の公式を組み立てて論理的一貫性をもつ「文章」にす

「良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである」

■ショウペンハウエル『読書について 他二編』 本屋でみつけ、気になって購入。面白かった!薄い本だけど、一語一句に無駄がないので、ななめ読みはできない。 この本について感想を書くのは恐ろしい……。何を書いても、天国(?)のショウペンハウエル先生(??)に怒られそう。小言というより誹謗中傷に近いような辛辣な言葉がバシバシ並んでいて、読みながら縮み上がってしまう。 けれども、やはり面白い。そして素晴らしく簡潔で明瞭で無駄のない、本当にお手本のような文章だった。読書好きな人だけ

「男は」「それも特に芸術家は違うんだ」

■アガサ・クリスティー『五匹の子豚』(最下部にネタバレあり) 「男は」とポアロは話をつづけた。「それも特に芸術家は違うんだ」 これまで、アガサ・クリスティーは7作読んだ(『スタイルズ荘の怪事件』『ナイルに死す』『ポアロのクリスマス』『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』『アクロイド殺し』『五匹の子豚』)。今のところ、私はこの『五匹の子豚』が最も好きだ。 なぜこれが好きか……たくさんあって、うまく文章化できる気がしないので、箇条書きにしてみる。 ● 16年

「人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもない」

■ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』 「でも僕は知ったんです、あなたがたが見逃しているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです」 三度目か、四度目ぐらいかの再読(三回読む、というのが気に入った本のバロメーターになってきました)。なんだか無性にわーっと泣いてみたくて読んだ。1ページ目から泣きそうだった。途中は違ったけれど、最後はまた、いつぶりかというぐらいにボロ泣きした。 IQ70、知的障害をもつ32歳の男性が、手術を受け

「私は冒険がありそうだと見ると、つねに押さえがたい誘惑を感じる」

■アーサー・コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』 私は冒険がありそうだと見ると、つねに押さえがたい誘惑を感じる。(P.73) しばらくホームズをお休みしようと思っていたのに、つい読んでしまった。四つある長編のうち三番目がこの『バスカヴィル家の犬』。 このストーリーでは語り手ワトスンがメインで動く。 ちょっと辛辣な言葉になるのだけど、『ポオ小説全集4』で江戸川乱歩がこんな風に語っていた。 天才探偵デュパンはこの物狂わしき夢の国から生まれて来た。それ故に、共にエクセント

暗号作成と暗号解読の行く末は…

■サイモン・シン『暗号解読(下)』 サイモン・シンは本当に面白いです。 シンの才能は、高度な内容をわかりやすく説き明かすだけにとどまらない。より素晴らしいのは「そこに感動がある」ことだ。(略)本書を読み進めるにつれて、暗号そして暗号解読は、人間の欲望や生き抜くための必死の努力から生まれたものであることに気づかされるだろう。そしてシンの手にかかると、血なまぐさい謀略や裏切りの連続であるはずの暗号の歴史が、卑小も偉大もひっくるめた愛すべき人間の営みとして浮かび上がってくるので

論理的推理の、その後…

■エラリー・クイーン『Yの悲劇』 軽い気持ちで書いているnoteでも一つ気をつけていることがあって、それは、たとえイマイチだと思った本でも紹介する限りは悪く書かないこと、良いところを探すこと、です。 でもこの『Yの悲劇』に関してはどうしても本当の気持ちを書きたい。 だからもし、エラリー・クイーンが大好きで、悪いレビューを読みたくないという方がいたら、申し訳ありませんが回れ右してください。ネタバレはしませんが、まだ本作を読んでいない方はできれば読まないでください。先入観を

江戸川乱歩の語るデュパンとホームズ

■エドガー・アラン・ポー『ポオ小説全集 4』 一方は夜の夢、一方は昼の実務、デュパンとホームズの性格は、似たるが如くにしてはなはだしく異なっていた。両方共通するところは、朦々たるパイプの煙の中に思索する性癖くらいのものであろう。(P.430) ポオ小説全集は全部で4巻あるのですが、『モルグ街の殺人』『マリー・ロジェの謎』が収録された3巻と、『黄金虫』『黒猫』が収録されたこの4巻が全盛期だろうと考え、先に読みました。 3巻もよかったけど4巻も盛り沢山の一冊。 ・怪奇小説

E.A.ポー『黒猫』の翻訳文について

ちょっと気になって、『黒猫』の翻訳文を比較してみようと思いました。翻訳者によって全然違うことに驚きます。 (「お前は一体どこを目指してるんだ?」というツッコミはご容赦ください……私にもわかりません。笑 本当にただの興味で……汗) 原文は以下の通り。太字は、翻訳による特に違いが感じられた部分です。 For the most wild, yet most homely narrative which I am about to pen, I neither expect n

The Final Problem

■アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの思い出』 「ワトスン君、これからさきもし僕が、自分の力を過信したり、事件にたいしてそれ相当の骨折りを惜しんだりするようなことがあったら、ひとこと僕の耳に『ノーバリ』とささやいてくれたまえ」(P.97) 色々と書きたいことはあるのだけど、”The Final Problem”「最後の事件」を読むと、なんだか元気が出ない。しかし(有名とはいえ、一応)ネタバレになってしまうから、そのことに詳しくは触れないでおきます。 収めら