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小説 ちんちん短歌 第29話『セックス刑』

 小舟には、建だけが乗ることになった。常陸娘子の遺体の入った行李と、建が、ぽん、と船に置かれる。
 船頭もいない。ここまでついてきた異民族のケロケロの二人も、ここでお別れだ、という。

「あの浮島がそう」

 と、ケロケロのケロッピが指をさすと、もうちょっと、本当、20メートル先に、葦が茂っている。

「別に、船でなくても渡ろうと思えば渡れるけど、ところどころ、川底、ヘドロで、足元取られちゃうから、小舟がいいんだよね」

 と、小舟。ただ竹の棒があり、これで川底をついて行けばいいらしい。

 体調の悪さは極まっていた。さっきからずっと、吐いている。吐きながら、ここまで歩いてきた。だから、小舟にようやく座れるとあって、でもあれだ、ここで座ると、もう二度と立てないのかもな、と思う。

「浮島まで行けば、たぶん出迎えがくるから、大丈夫」
「たぶん我々の動きももう、知られていると思うから。なんだったら迎えに来てくれるよ、きっと」

 その、迎えに来る人たちによって、俺は死ぬんだよなあ、と建。
 でも、いいか。ようやくこうやって、安らかに座れたんだ。

 ケロケロの二人は、小舟の持ち主である老人に、銀と干し肉? みたいなのを渡して談笑している。渡し賃みたい。それを、もうぼんやり見ている。遠くの世界。そうか、現世には肉とカネが必要なんだな。もう死ぬ俺には必要ない奴か。人と人とが話している姿を見るのは、もうこれで最後なのかもなあ。

 船が、ゆらりと。

 小舟の老人が、最初だけはと、船を棒で突いてくれると、浦に流れがあり、ゆっくり、動き出した。

「そのままでいいから。そのままで。」

 老人の声が聞こえる。

「止まったら、棒で、なんとかするんだよ、棒」

 老人の声が、霞の中に混じっていく。

「途中で、何があっても、舟から降りないようにね。下、どろどろだからね。」

 これが、最後に死ぬ時に聞く声かあ。温度、肌の感じは、こんな感じかあ。

「がんばるんだよぉ。がんばるんだよぉ。なんか死ぬっていってるけどさあ、わしはおじいさんだけどさあ、こうみえて、がんばって生きたからさあ……」

 そうなんだ。

「死なないのはいいことだよぉ。いきることは、いいことなんだよぉ……まちがえるなよぉ……」

 だったら、歌にしてくれればいいのになあ。
 そういう、おじいさんの、個人的な感じ方とか感受性を事を歌にしてくれたなら。歌だったら、俺、覚えるのに。

 でもそうか、東国だもんな。短歌なんか関係ない、ヤマトから遠い、生活しかない場所だもんな。

 短歌奴隷になってから、歌を覚える以外の事はあんまりやってなかった。余計なことをすると歌が覚えられない、と思ったからだ。
 結婚も、染物仕事も、セックスもしたが、それはあくまで、短歌奴隷のため、短歌を覚えるため仕方なくって感じで、自分の意志を持つ事とか、自覚的になるとか、あんまりしてなかった。

 短歌以外の事って、この旅を始めたからやってたなあ、と思う。

 旅に出て、そして、あれだ。全然短歌、集めらんなかった。というか、無かったよ、短歌。何が短歌ブームだよって。
 あんなのは、都や、都に憧れている人、関係したい人、都に知人のいる人の小さなコミュニティの、ごく一部で起きていることで、こんな遠い場所に俺を派遣することなんてなかった。

 地方は、みんな死んでる。
 病気で、貧困で、生きる気がそもそもなくて、やる気が無くて、みんな死んでる。
 生き生きとしたものは、この時代、この世界には何もない。
 それは、仕方ないのかも、異常気象だし、ご飯食べてない。東へ行けば行くほど、暴力を振るう人が強いって感じになってる。
 そこに歌はなかった。
 あったとしてもつまらなかった。覚える価値があんまりなかった気がする。
 主君の家持は、それでも希望、持ってたのかな。だとしたらその希望、甘すぎないかな。家持さん、武官で、他の貴族よりは下っ端の兵士や、もっともっと下の奴隷と話とかしてるんだから、そいつらが歌を持たない感じって、分かんなかったのかな。

 それとも、いたのか。

 明らかに底辺で、中央から遠いところに居て、生きる価値が全然なくて、死んだほうが社会にとって有用で、神仏からも早く死なないかなと思われているような者に、歌を持っていた人が。

 だとしたらそれは、そいつはどんな奴だ。

 どんな顔して、どんな教育受けて、どんな話をして、どんな飯食って、どんな息吸って、吐いてんのか。
 同じ、ヤマト民なのか。同じ人間なのか。同じ? 同じって、なんだ?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 建。建物の中にいた。
 武骨な木を、横に倒し、タテタテヨコヨコみたいな感じで組んで壁って事にしている建物。
 だが、その木ぃ一つ一つが、すげえ太い。そして長い。50メートルくらいある。それを、組み組みして、正方形の空間になっている。

 その中に、びっしり、女性たち。密室だからか、女の匂いがすごい。もうんて感じ。皆、棒持っている。全員黒い服を纏っていて、下半身は全裸。まんこが見える。

 建は全裸にされていた。目を覚ますと、部屋の中央で苫の粗い茣蓙の上で正座させられ、後ろ手に縛られている。
 目の前には、真紗……しゃわしゃわでスケスケな、幕みたいな服を着た髪の長い中年女性がいた。

「お前は我が一族のおとめを殺した」

 偉いっぽい、スケスケ真紗を着た女性が告げる。あれは、ケロケロの劇に出てきた、聡明で夫を謀殺した「真紗(マーシャ)の方」だろう。

 てか、殺してないんだけどなあ、と建。意識がぼんやり戻る。
 小舟が対岸につくと、すぐに女性シノビがニンニンとやってきて、建を二人かがりで抱きかかえると、服を剥ぎ、この部屋に連れ込まれ、そしてこの集落中の集合を促される笛を吹かれて、みんなやってきたのだ、ここに。
 女性たちは全員、建を見ている。
 皆、敵意がすごい。

「なので、あなたを殺します。そんなわけで、裁判しました。野蛮ではありません。我々は文化的です。東国だからって、なめんな、ヤマトの民。わかったか」

 ひどいなあ。こっちの言い分も聞いてほしいなあ、そもそもヤマトの民じゃなくて在ヤマト百済人なんだけど。そう思いながらも、建、毒が回っているし、疲れているし、前々からこうなるとは言われていたし、なんかもう、生きる気力もなかったし、どうでもいいやと思っていた。

「春日井戸の守、公孫、染め部赤、建。あなたをセックス刑に処します。」

 ……は?

 島の娘子たちはまず、建の傷の治療と、毒の手当てをした。
 患部に薬草を塗られ、過剰な熱になっている体温の箇所に水に漬けた黒曜石を当てられる。傷が化膿している所は逆に、よく熱された金属ゴテを当てられる。痛い、熱い、つらい。建、じたばたしようとするが、娘子数名に関節にのしかかられて動くことはできない。

 どろどろに腐ったようなマメを潰したものを食わされた。あと異様に臭い乳……鹿の乳だというが、すごくまずい、腐った獣の死体の匂い、それ、飲まされる。
 つらい。苦しい。なんてつらさだ。でも、これも治療らしい。
 それで最後に、祈祷だ。一人、気の狂いやすい娘子をトランス状態にさせられ、暴れ回る。布のついた棒で、ばしばしと建、殴られる 口から泡を吹き、しょんべんをまき散らしながら、巫女は建を棒で殴り続ける。

 殴られ、何度も気を失いかけるが、その都度サポート巫女が冷水をかけて建を起こす。

「意識を保ってください。全部あなたが悪いんです。意識を保ってください」

 そこに、天井に、へんなボンボリが用意されだした。
 四方の柱に紐が括られており、東西南北のサポート巫女たちが、紐を使ってクラゲのように建の頭の上で房付きのぼんぼりを動かす。

 その下で、狂った巫女にぶん殴られ続ける建。
 だが、そのぶん殴られのおかげだったのか、建の身体から毒が消えた。消えたのだ。建、復活。建、毒から完全回復。建、傷口は真っ黒だけど、建、だるさが消えた。健康になった。全然健康になった。こんなことで、完全回復してしまったんだ、建。

 この浮島には、99人の女性たちがいる。全員、捨てられて、身寄りがない女性たち。この地方で、男性は、体力があるから生かされるが、女性は生きる価値がないと判断され、小舟に縛り付けられて流されてしまう。
 こうして、この浮島にたどり着く。
 
 この島にいるのは、だいたい17歳くらいまでの女の子。それ以上になると、三分裂している蝦夷の各集落に「常陸娘子」というブランドを着せられて、諜報活動と性奴隷を兼ねた遊行女婦(うかれめ)という仕事を任される。
 若く、容姿のいい女性たちはかなり早めに集落に派遣されるが、素行に問題があったり、容姿が悪い女性たちはこの島に隔離され、女王の「真紗の方」が中心となって、教育を受け、ニンニンとシノビの訓練を施されしている。

 その訓練が過酷なのは、女たち、みんな筋肉むきむきであることからも分かる。
 すごい腕と足。そしてすごい顔。全員一人一芸を持ち、裁縫上手から手裏剣上手まで兼ね備えている。全員、毒を中心とした自然科学知識が冴えており、科学的な知識も伝承されている。

 科学忍者村。
 この島は、いつしかそう呼ばれた、ここは。そんな感じの場所だ。

 それで、セックス刑に処された。建。

 毎日、セックスをさせられている。99人の女性たちが相手だ。この島に未だにいるという事は、女王や外の世界の男性・女性たちから見初められることなく、容姿が悪いとされ、ひたすらつらいシノビニンニン修行をさせられている女たちだ。
 男性経験がない女性もいれば、レイプ被害者もいる。この島に男性はいない。

 たまに流されてくる男は、ちょうどいいセックス練習相手だった。殺してもいい男。同胞を殺した男。どうでもいいちんちん。
 女シノビとして、セックス連は必要で、とりあえず数、行っとかないと、シノビ活動、ならびに性奴隷としても活躍できない。
 そして普通、たくさんセックスさせられると、男は衰弱して、死ぬ。

 そんな感じで、容姿の悪いとされる、精神が限界に参っている女性たちに、命令されながら毎夜セックスさせられる建。
 やけくそにセックスを楽しむ女性もいたが「嫌だ、こんな男……」と、嫌がる女性もいた。でも、命令だから仕方ない。ちんちんをまんこにいれる。

 建は、なんだかもう、よくわからなかった。
 ただでさえ東国の女の言葉のなまりが強く何言ってるかよくわからない。そのうえ、コミュニケーション能力に難があり、すぐに不機嫌になったり、泣いたり、死のうとしたりする。でも筋肉むきむきの女性たちに、毎晩ちんちんを触られ、ちんちんを入れられ、殴られ、蹴られ、しかし、ごくまれに、優しくされる。泣かれる。ありがとうと言われる。

 助けて、とも言われる。
 私をここから出して、とも。
 妊娠してさっさと子供産んでどこかへ行きたい、とも。
 あんたなんかと絶対にセックスなんかしたくない、と泣きながらちんちんをいれる女性たちもいた。

「何か話して」という女性もいた。

 建は、地獄の話をした。あと、アフリカの話をした。「サタンに連れられてアフリカに行ったら、まんこ丸出しの女性が踊りを踊って、雨が降った」と話した。

 「お話上手なのね」と彼女は言った。「明日も聞きたい」と彼女は言った。「今日より面白い話じゃないと殺す」とも言った。
「俺はセックス刑に処されてるから、殺したらいけないんじゃないの?」と建は言うと、その女性は「むぅ」と言い、引き下がった。
 その女性は妊娠したらしく、しばらくするとセックス刑には来なくなった。どうやら、ケロケロの上毛野に遊行女婦として派遣されるらしい。そこでケロケロの蝦夷たちと、建に精を受けた子を育て、生きていくらしい。

 そうか、妊娠したんだ。どこか知らないところで、俺の子供が生まれて、育てられるんだなあ。

 なんか、ちょっと、つらいなあ。

 99人とセックスしたところで、女王の真紗の方に呼び出しを貰う、建。

 建は赤の韓服、青のアフリカンパンツという正装の他、女性たちからもらった黒の腰布を巻いて、真紗の方の前に跪く。手を広げ、武器の無い事を示す。
 女王が「はいありがとう」的なサインを出すと、建、パンツを脱いでちんぐり返しの格好になろうとするが「いい、いい、今日はセックス刑じゃないから。てか、私にちんちん入れられようとするな、ばーか」と笑われる。

 女王お付きの娘子たちからもクスクス笑われる。照れる建。正座になる。

「それはさておき、セックス刑、お疲れさまです。そろそろ死ぬかと思ったら、まだ生きてますね。みんなあなたを殺すつもりでセックスしたのに」
「いえ。おかげさまで、毒も治療いただき、ありがとうございます」
「この科学忍者村も、あなたのセックスのおかげで、みんな活力がみなぎってます。あの子……ウラクンテコ(宇良勲手子)の償いも、なされましたし」

 建たちが殺したあの女性の名前はウラクンテコという名前らしい。

「償い?」
「あなたはこの島の娘子の6人を孕ませました。1人の死に対して、6人の生で報いた。よって、5、ってことで、手打ちって感じにします。お疲れさまでした」

 真紗の方はペコリと頭を下げる。建、恐縮して頭を下げる。

「ブスばかりでしょう。よく抱きましたね、公孫建」

 女王はけらけら笑う。お付きの女性たちも笑う。ここの島の皆は、自分の事をブスと自虐して、よく笑いを取る。

「ブスとか容姿とかってよくわかんないんですよね。極端に病気してて激ヤセしてるとか、激太りしてたら、ちょっとやだなと思いますが。あと、臭いとか」

 そういうと、女性たち、ヒュー、イケメーンみたいなからかい感出す。
 でも本当、そんな感じ。建としては、セックスそのものが結構楽しかったし。
 死ぬかもしれないところから、セックスさせてくれた、というありがたさもあった。死を意識するとちんちんがすごい立つし、途中からかなり気持ちよかった。女性たちも99人分バリエーションがあって、ひとりひとり、まんこの位置や形も違う。反応も、痛みも違う。
 セックス嫌いな女性もいたが、その場合は、ちんちんを入れることはせず、「入れた」っていう儀式みたいなフリで、したっていう、その合意を考えるのも楽しかった。

 結局、その娘子とも最終的にちんちんをまんこに入れた。建は、ちんちんをまんこに入れるのが上手だった。
 夜ごと、ちんちんは、女たちのまんこの中に、淡雪のように消えていく。
 しかし、消えられなかった建の、ちんちん以外の残った部分は、いつもそこに残った。消えられなかった。

「ここにいる女たちは全員メンタルがヘルですから。99人のメンヘラを抱いた男は、きっとこれから、なんか、いいことありますよ。」

 それで建。常陸娘子養成所であるこの島――科学忍者村に、建は逗留を許された。

 セックス刑の縁もあって、島の女性たちと仲良くなった建は、農作業やシノビ修行にも参加し、あと普通にセックスもした。
 容姿の悪いとされ、つらすぎるシノビ修行でメンタルがぶっ壊れた女性たちとセックスするが、99人中、一人だけ、ちんちんをまんこに入れる式のセックスをしなかった女性と、しだいに建は長い時間、話すようになった。

「何? ちんちん疲れたの。舐めたげよっか?」

 トエタマッコ(十重田末子)という常陸娘子は、女たちの中で一人背が高く、声が低く、胸はなく、そして、建と同じくちんちんがあって、まんこがなかった。

「いいよ、さっきセックスして来たから、まんこの匂いがとれてないし」「風呂浴びろよ、風呂。風呂キャンセル界隈かよ、建」
「何それ。トエタマ。俺、まだこの村の方言、わかんないところあるわ」

 トエタマは、さわやかな笑顔を向ける。
 トエタマは女として科学忍者村に迎えられていた。
 顔だけ見れば、トエタマは異様に美しい女顔であった。そのため、下界に居た頃、トエタマの尻穴はまんこと同じ扱いを受け、ヤマトの男たちに凌辱され続けた。犯される際、ちんちんは残されたものの、睾丸は変態によって切り取られ、売られてしまった。
 不具になり、死にかけたところを流され、科学忍者村に流れ着き、その科学力によって、一命はとりとめ、以降、トエタマは常陸娘子として育てられることとなる。

「歌、探してるんだろ、建」

 トエタマは、建を背中から抱く。トエタマの厚い胸板が、建の背中にくっつく。

「あー、どこから聞いたの」
「風の噂。というか我らシノビって事忘れてる? ニンニンしてんだよ私ら。建にやさしくされたメンヘラたち、君の事知りたがって、けっこう情報集めてるんよ」

 トエタマは建の耳を齧る。いい味がするらしい。

「耳、好きよな、トエタマは」
「君はこの村で歌を見つけたら、ヤマトに帰るつもりなのかい?」

 耳をかじりながら、トエタマは建の首をそっと絞める。

「苦しいよ、トエタマ」
「苦しいのが、美しいんだよ、建」

 建の位置からは、後ろから耳を噛みながら首を絞めるトエタマの表情は分からない。
 でもきっと、いい顔してるんだろうなあ。見たいなあ、と思いながら、建はゆっくりと意識を失う。

 こうやって、殺されかけ、セックス刑が続いてる感じされるのが、けっこう楽しいんだよなあと、建。
 そう、思うようになってしまったんだよなあ。

(つづく)


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