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短歌ブームのさなか、今ブームになっているマンダラチャートを、ちんちん短歌のために作った

 短歌ブームだ。

 人生で、ブームに乗ったことが、数度あった。一番古い記憶だと、サッカーブーム。Jリーグである。オーレーオレオレオレ的なものに、極幼少期、腰をふり、ボールを蹴った記憶がある。あれはブームだった。訳も分からずブームに乗ってたなあ。

 三国志ブームにも乗ったことがある。三国志ブームは『真・三国無双2』というゲームと『蒼天航路』という漫画の刊行くらいで火が付いた気がする(2001年代くらい)。
 というより、あの時は腹立った。「ブームになる前からおれは三国志だったのに!! 幼少のころから三国志だったのに! 光栄の『爆笑三国志』シリーズのころからの三国志だったのに!」と怒り散らし、一時期三国志から離れ、各地を放浪していたこともあった。

 ブームになる前から好きだったものが、ブームになり、ブームに乗っている人を見ると、すごい怒りが湧くのはなぜなんだろう。

 「短歌ブーム」
 私は、結社に所属せずインディーズでちんちん短歌を作る人である。そして私は、短歌に関してはあきらかに後発組で、いま、短歌ブームに乗ろうとしている勢であることは間違いない

 憎悪されるだろうなあと思う。

 三国志ブームの時、「お、お前のはゲームで得た三国志知識だろうが!」って、噛みついてたもんな。ゲームで出てくるような三国志の女性武将全部嫌ってたし、「は? 「趙雲の得意武器が『槍』」? 【正史】に記述があるんですかあ? 三国時代の地層から「槍」の出土例があったんですかぁ? てか、「矛」と「槍」と「戟」の区別ついてますぅ?」と、三国志好きを口にする弱そうな小学生相手に暴れ散らかしてたわけだから。

 だから2023年、いま、短歌がすきになった僕は、
「お前なんて、どうせ本で得た知識で短歌語ってるんだろ?」
「結社に入って歌会で無点のまま自作の解題をしなくてはいけない体験なんてしたことないんだろ? 令和の若造め」
「お前の万葉集の理解なんて折口信夫の受け売りだろ? 俺なんて賀茂真淵から万葉やってんだから、おーん?」
 みたいに、ちゃんとした短歌の中の人からは憎悪されることは覚悟しなくちゃいけない。だって、こういうことを今まで僕自身が他人にやってたんだもんな。

 それでもだ。憎悪を背負ってちんちん短歌を作り「やー「ちんちん」と「短歌」を融合すれば、もっと面白いものができると思ったんですよねぇ」というノリで「面白店名を付けたおしゃれパン屋さんブーム」に手を出す脱サラ中年男性ような顔をしながら、ブームを背に受けて生きていこうって、決めてしまったのだ。
 なぜか。
 作ってて楽しいんだもんなあ。ちんちん短歌は。

 で、「マンダラチャート」を作った。

 これ、↑でもあるように、あの、「大谷翔平」も作ったという、自己啓発の、なんかいろいろ、あれであるというあれなのである!

 今、2023年3月。「大谷翔平ブーム」である。
 俺は大谷翔平ブームにも乗りたい。ブームに乗りたいのだ。
 その大谷が、マンダラチャート……「目標を一つ書き、それを達成でするために必要なキーワードを8つ周囲に書き、さらにその8つを実現するためにする近々の行動指針を8つ、計64個のキーワードをマンダラのように配置するやつ」というのをやったのだそうだ。

※ネットで検索したものを転載しています。こうしたものは著作権てあるのでしょうか……?

 ↑これ……大谷翔平、すごいまじめだなあと思った。
 よく見ると、右下の「変化球」の部分のマンダラは、具体的で文字数が多いけど、右上の「キレ」という、……なんかよくわからない、あいまいな目標の部分だと「可動域」という謎のワード、しかも「可動域」は左上の「体つくり」にもあったりするような、いまひとつよくわからないけど……。でもまじめだ。全部埋めてある。偉い。そして全部実行したんだろうな。本当えらい。

 聞けば、この大谷のマンダラチャートは、今自己啓発界隈でとてもブームなのだそうだ。みんなやってる。みんなやってる。みんな「気づき」のため、「引き寄せ」のため「自己理解」「願望」「マインドフルネス」「OJT」「アドラー」「こうした研究がペンシルベニア州立大学にあって」……みたいな感じらしいじゃないか。
 まさに今、世は、自己啓発ブームなのだ。ブーム。やはり乗らなくては。

 で、やったのがこれです。

ちんちん短歌を1000部配布したいマンダラチャート

 やりました。

「ちんちん短歌を1000部配布したい」という目標に対して、マンダラチャートを作成してみました。
 そんなに時間かけず、ヒョイホイと作ってしまったので、どうなのか。
 なるべく具体的に「行動」を書くことにしました。「可動域」ではなく「関節の可動域をタコくらいすんごいことにする」みたいな書き方で。

 で、作ってみたのだけど……
 自分で作成しておいてなんだけど、「やりたくねえ」という行動目標が出てきてしまったなあと思った。例えば、マンダラの上の項目。

 この、パッと思いついた「歌人にちんちん短歌を評価してもらう」という項目。

 作ってから気付いたが、あまりにも、歌人、というか、世の中に申し訳なさ過ぎてつらい目標だと後で気づいた。作ってしまった今、とてもつらい。おこがましいにもほどがある。その道のプロに褒められたい、という目標って、何様のつもりなのだろう。

 それを埋めるマンダラも、「普通の短歌も作ってます顔をする」とか「短歌に対して真剣ですよ感をちゃんと出す」とか……これ、失礼にもほどがあるのではないか。とても申し訳なさすぎる。

 俺は、顔も、真剣感も、出したくはないのだ。

 歌人の人に自分の創作物を見てもらうために、それ用の「顔」をするって、自分で思いついておいて、あんまりだと思った。しかもそれが、「自作の短歌同人誌を1000部売りたい」という目的で、真面目を装うとか……。

 だって、これは世の中に対して、嘘をつくわけになるじゃないですか。
 真剣を装うとか、普通の顔をするって、嘘をつくことになる。私は、「ちんちん」という言葉を短歌に入れる、という「冗談」「悪ふざけ」「冒涜」をやっている。
 これはどんなに取り繕っても、ぬぐえないことなのだ。
 悪事といってもいい。
 たしかに、真剣にはやっている。情熱をこめてやっている。だが、深堀すればするほど、「短歌に対する冒涜」であることは、絶対に逃れきれない。
 わたしは罰を受けるべきで、本来日向を歩いてはいけないし、毎日反省し、罪の償いをしながら、それでも、でも、やる。それがちんちん、それが、ちんちん短歌というものだと思うのだ。

 でも、マンダラチャートを作るうえで、「このジャンルの権威者、先行者から評価されたら、同人誌の売り上げも上がるに違いない」と分析し、そう、表に埋めてしまうのは、合理的な理由のある分析だと思った(「普通」の短歌を作っている、つまり従来の「慣習」「権威」に対して従順であることを表明することで、評価しやすくされる/情熱があることをPRすることで、その界隈の保守層に好感をもってもらう)。
 そのための手段として周囲8つの行動指針も、大枠を外れていない。

 でもさあ。
 気持ち悪いんだよ。マンダラチャートって。自己理解というか、「理想の書き出し」「目標指針の言語化」って、やっぱ。
 何もかも気持ち悪い。
 文芸の領域で頑張ろうとする人がやるべきものじゃないと思ったよ。

 マンダラチャートを作ってみてわかったのは、これは本当、人生の「A面」の話なんだなと思った。「A面B面」という、この言葉は田房永子さんのエッセイ漫画で出てきたワードなんだけど……

 この、「A面においての成功の達成」のために、このチャートって作られる気がするのですね。これを、B面の私がやるという……。

 そもそも「B面においての成功の達成」って……B面の成功ってなんだ。「病」はB面だが、「病からの回復」はA面に属してしまう気がする。

 そして、短歌――とか、「文芸」「サブカル」「悪意」「悪ふざけ」「地獄」「生き地獄」「どしゃ降り」「ドラえもんのいない世界」「容姿の悪い感じ悪い独身男性」の領域……つまり、「俺」って、やっぱB面でなくてはいけないんじゃないか。

 B面に属している人が、無理にA面の成功に照らされ、ねじ込むようなしんどさを、マンダラチャートに感じたんだよなあ。

一方、「食うべき詩」という考え方もある。

また諸君は、詩を詩として新らしいものにしようということに熱心なるあまり、自己および自己の生活を改善するという一大事を閑却してはいないか。

弓町より 食らうべき詩 石川啄木

 これは本当そう。
 そして、本当にそうだからこそ、啄木はしんどかったんじゃないか。こんな文章を残してまで。この文章は、啄木にとってのマンダラチャートではなかったか。 

 大谷翔平になれないことは知ってたけど。
 ブームに乗ることもできないことは知ってたけど。
 乗ったら死ぬことも分かってたけど。

 自己啓発をちゃんとやると、とてもつらいなあと思いました。

 NHKのクローズアップ現代の『短歌ブーム特集』に、ちんちん短歌がチラ映りしてしまった日記念で書きました。

わたしは「筋肉短歌会」というツイッタースペースの歌会によく参加していて、その中の人が取材されており、そこでのワンシーンに私が投稿したちんちん短歌がチラ映りしてしまった、という次第です。

 本当に申し訳ない。
 あとNHKの画面のキャプチャーも本来……よくない事なのだろうなあ。
本当に申し訳ありません。自慢したいという気持ちで載せました。
 わたしの精神性は、スシローとかで醤油差しを舐めた人と、ほぼ同じだとおもいました。

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