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とある元メイド喫茶常連の忘備録<その23>

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

たなかメイドからいきなりイベントがあると告げられた。

常連にイベントに来てくれと言うことはまず無い為だ。黙っていても常連は店に来る。わざわざ言うことでは無いからだ。

「初めての試みなんですが、文化祭チックなイベントにしたいと考えています。お客様参加のゲームとあもあるので」

「へー。いいんじゃないですか? 店も三年目だし、周年イベント以外にもお客さん感謝デーみたいなのあってもいいと思いますね」

たなかメイドが心底驚いた表情をしている。また何か企んでいるのか?

「どうかしました?」

「いえ、お褒め頂けると思ってなかったので励みになります!」

「まぁ……自分も好き好んでしかめっ面してたりしてるわけではないので。店が面白いに越したことはないんですよ」

今思うと余計な一言だった。自分はたなかメイドを絶望的なレベルで"誤解"していた。たなかメイドは頻繁に客をいじっていた。自分にはただ不快だった。しかし闇雲にいじるのではなく無口な客であったり一見面白くなさそうな表情をしている人ばかりであった。店を楽しんで貰いたいという一心の行動だったと思う。これはすごいことで当時店はかなりの人数の客が押し寄せており、目の前の仕事をこなすので精一杯のメイドが殆どだったように自分には見えた。メイドは飲食経験者を優先的に採用していたが、それでもほとんどのメイドが「接客」することだけが精一杯だったであろう状況で「接客の質」を向上させようとしていた様に見えた

よく言われるのが「ホールが何出来る? 所詮ホールだろ」と言われがちである。しかしホールが出来る事は多く、例えばラーメン屋でも店員は元気があればあるほどいい。ラーメン屋なんて沢山ある。同じような価格帯、味だったとしたら店員の感じが良い店に自然と足を運ぶようになるからだ。

しかもホールが接客のレベルを上げるのには立ち振る舞いや商品知識を向上させる事がメインになるため費用を掛けること無く店自体の質を向上させられるということとイコールである。たががホールなどというのは素人考えなのだ

ということをゆりあメイドが言っていた「たなかさんはまさしく強敵(とも)なんですよ」と北斗も拳のケンシロウの名セリフを引用し口酸っぱく言っていた。しかし当時の自分は聞き流してしまっていた。しかもゆりあメイドは高校生の時分からずっとラーメン屋で働いている設定では永遠(とわ)の一七歳らしいが……

話を元に戻すが昼はメイド、夜はラーメン屋でダブルワークだ。それだけ接客業の経験があるゆりあメイドから見てもたなかメイドは凄いと言うことなのだ。しかし当時の自分は聞き流してしまっていた。理解をする努力もしなかった。未熟で愚かしいことこの上なかった。

「イベントの詳細は先ほどお店のホームページに公開されたので是非見て下さい」

「楽しみにしてますよ」

帰宅した後に店のホームページを見た。十一時開店で九〇分二〇〇〇円で完全入れ替え。フードドリンクは食べ放題。メイド手作りのフード有り、出し物としてライブあり、寸劇? あり、クイズ大会ありらしい。プログラムは一切公開されていなかった。当日のお楽しみである。

当日は一七時まで仕事だが、出来る限り参加しようと思った。長丁場になるだろう。早速尾崎氏に連絡を取ってみた。

<つづく>

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