心の中にずっと在る人 | 『汝、星のごとく』
ふらりと寄った本屋で久しぶりにハードカバーの本を買った。本はどんどん部屋のスペースを食っていくので、できるだけ単行本を買うことにしているけど、装丁が綺麗な色をしていて惹かれたことと本屋のコーナーにかかっていたイラスト付きのポップが可愛らしいことが背中を押して、お会計。
いい思い出ばかりじゃないはずなのに「忘れられない人」の存在がとっても愛おしい、そんな一冊でした。
主人公は二人の男女で、彼らが瀬戸内の小さい島に暮らす高校生だった頃から物語がスタート。そこから30代に至るまでの十数年を描いている。どちらの両親もなんとも心が弱く、振り回される人生を送る。疲弊した二人が、傷を舐め合ううちに惹かれ合い、恋をして、傷つけあう。互いが何年も何年も心の中にいるのに、真っ直ぐに愛を伝え合うことができない、とても不器用な恋愛小説。
少なからず親に振り回されながら、田舎の息苦しい価値観の中で育った自分にとって、こういう話は同時に自分自身の苦労も思い出してぐったりしてしまうのだけど、共感とともに「物語の中でだけでも解放されたい!」という気持ちが相まって読んでしまう。お昼のファミレスで1日で読み切ってしまうくらい、夢中で読んだ。
この作品に、まともな大人は出てこない。不倫、恋人や子供への依存、過度な寄りかかり、お酒、金の使い込み……。そんな大人たちを、怒りを持って、普通じゃない、まともじゃないと読み進めていたはずなのに、途中で気付くのは「まともな大人なんて、存在しないのでは?」ということ。
読んでいる最中は、10代で自覚のないままにヤングケアラーとなった二人の高校生に胸が痛む。だけど、最も苦しかったのは、彼らが気づかぬうちにあれほど自分達を苦しめた親と同じことをしてしまうことだった。
「お母さんと同じことを、自分も大切な人にしてしまうのでは……」と怯える感情に覚えがある私にとっては身震いもの。あぁあやめてやめて。
主人公の二人も、長い時間をかけてようやくハッとした時、親には消耗され続けていて自滅も経験し、もはや彼ら自身のための時間はたくさんは残されていなくて、伝えたい愛情の形も信じられないくらい屈折してしまっている。そして、彼らもまともな大人からは程遠い。
自分が愛情を注ぐ対象が自分を愛してくれるとは限らないし、大事にしたいのに大事にできないこともある。完璧な人間ではないから、相手を傷つけて二度と元には戻れなくなることもある。それでも、心の中で誰かを思い続ける愛情のなんと柔らかいこと。その思いだけは、何にも縛られず自由だと思える。
大人をお手本にしているのではなく、自らを生きる。自らを生きることが世間の常識からは外れているかもしれないけれど、愛を伝えるために自らの意思で人生を誤る。
不自由な恋愛を続ける主人公がとっても苦いけど、心の中にずっとお互いを持ち続ける彼らは本当に愛おしい。そんな作品でした。
恋愛が下手っぴな人におすすめしたい本です。
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