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バックアレー・プラズマ・ヴェンジェンス 2

これまでのあらすじ
 親しい女と連絡を取り合っていた男は突如謎めいたロボットに襲撃される。主人公は果たして誰だ!

「ガラクタぁ、何を証拠に……!」

 俺は歯ぎしりした。今日という日に限ってわけの分からぬ胡乱なロボットに襲われるだと?

『ワジマ・タカユキ。4件の殺人幇助、3件の地上げ案件、そして2件の殺人だ。全て"インタビュー"と物証もある』

 ロボットは無機質に答えた。胸のモニターは表示が変わり、悪趣味な色遣いで”GUILTY”とある。

『ともあれ……』

 それ以上の言葉を無視し、俺は振り返り、床を蹴った。サイバネティックス改造の施された足は脳の意を汲みロケットスタートを切る。かしょん、かしょんという駆動音が足の触覚の代わりとなって動きを伝える。

 一瞬だけ振り向くと、奴は反応できていないようだった。しかしその目はこちらを捉えたままである!「クソッ!」2両ほど進んだ後、俺は窓を蹴破り、線路を飛び出し、線路のある陸橋から眼前の道路に身を投げ出した。風圧が俺を襲うが、気にもならなかった。

・・・
 ロボットはまたたく間に逃亡した男をただ見ていた。しばらく立ち尽くしていたのち、ロボットは手からレーザーを照射し、電車の床に複雑な文様を描いた。

『縁を辿るべし』

 ロボットの音声に反応したのか、文様が光を放った。その光を分析し、ロボットの視界は意味を読み取る。視界に男の足跡や体臭、エーテルの後が色濃く可視化される探知魔法だ。追跡ルートを吟味したロボットはうなずき、CRASH! 窓を破壊し、闇へと身を躍らせた。
 
 ロボットが去ったと同時に人払いの札は効力を無くし、灰となって散った。「焦げ臭いぞ!」「窓が割れてる!」「うわああ!」乗客は異変に気が付き、不可思議さに眠気をかき消されおののいた。

「待ってろよ畜生……ぶっ壊してやる」

 男ーーワジマは路地裏で仁王立ちし、ロボットが来るであろう方向を睨みつけている。ここを根城としていた浮浪者は物言わぬ体となって地面に転がっている。あの場で自身を仕留めなかったことが間違いだと、あのガラクタに思い知らせてやるのだ。そして、底なしのパライソでさらに成り上がり、カヨコと暮らすのだ。
 
 カヨコは自分がヤクザ者だと知っているのに愛してくれている。年齢の2倍近い、難儀な生業の男を。カヨコにワジマは入れ込んでいた。今日だって、敵対組織の幹部を暗殺してきたのだ。これで地位はより盤石になり……だというのにこの障害。あのガラクタを叩き潰し、ゆっくり寝るのだ。逃げてはいられない。

「来いよ、ポンコツ」

 ワジマは呟いたその時、後ろから物音。エーテルの励起する音が路地裏を響かせた。

『……待ち伏せというわけだな。気が利くじゃないか』

「ぶっ殺す!」

 ワジマは振り向きざまに手刀を振り抜く!しかし敵との距離は10メートル!いかに長い刀剣だろうと届くはずもなし!焦りのあまり無謀な空振りであろうか。否!その光景を目にしたロボットのモニターには”O_o”が映る。即ち驚愕の意味だ!

「ウオーオオ!」

 手刀が赤く輝きを帯び、振り抜かれたその先からは三日月状の赤いエネルギーが放射された!その速度は銃弾のごとし!これこそがワジマの切り札であり、丸腰の身でありながら暗殺任務に従事した理由でもある!”サンクチュアリ”から命名されたその魔法の名前は”紅月”。避けるスペースはほとんどない。路地裏を選んだ事による逃げ場の封鎖。戦場を有利に設定したワジマの策略である。

 ロボットはもはや避ける場所もない。モニターは”O_o”のまま変わらない。このままでは鉄くずのごとく引き裂かれるのみだ!紅月はカメラアイを叩き壊さんと迫る!ロボットは懐から棒を取り出し、何らかのスイッチを押しながら居合の構えを一瞬で取り、抜刀する。棒の先端から固形化したプラズマが伸び、刀の形を取った。そして紅月と噛みあい……弾いた!

『警告:プラズマ・ブレード形状不安定化』

 今までの音声とは違う音声がロボットから発された。プラズマが揺らめき、形が不安定化する。ロボットは胸のモニターを複雑な軌道でなぞった。青く幻惑的な光が現れ、ロボットの腕から棒へ纏わりついた。光に応え、プラズマは形を取り戻した。刀の形だ。

「んなっ」

 ワジマは驚愕するも、手を止めず再び手刀の構えを取る。ロボットはプラズマ・ブレードを手にワジマへと踏み出す。ワジマの一撃からわずか5秒。前哨戦は終わり、殺し合いが始まる!

続く

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