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「小さき声が尊重される社会へ」 意見陳述書全文


1 はじめに

産経新聞社に「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」という記事を書かれたのが2017年3月22日。3年半後に私は提訴し、もうすぐ5年になります。


このWEB記事が出てすぐに、私は事実と異なるということで産経新聞社に対して抗議文を出し、削除を求めたにも関わらず、ネット上から消されることはなく、今も検索すればすぐに見られる状態のままです。

2 私が県営住宅に入居した経緯


私が県営団地の申し込みをしたのは、2016年7月です。抽選は9月7日でした。この抽選に落選し、その後は申し込んだ団地の空き待ちになりました。

11月16日、委託業者である住宅情報センターから、空きが出たと電話で連絡がありました。この時点で、業者からは、県営住宅には翌2017年2月1日に入居できると聞かされていました。私は、2016年11月28日、県営団地の入居のための「県営住宅入居申込書」を提出しました。

所得は、前年度の所得ではなく、審査当時の給料を元に計算されました(前年度の所得申告をした後に転職した場合は、その時の給料をもとに計算することになっています)。「県営住宅入居申込書」に添付された収入証明書(甲4号証)によれば、「申し込み者と同居親族の所得の合計」(年間総所得額)は172万9600円であるところ、私の場合、ここから金38万×4人(扶養家族人数)を控除した額が所得となり(甲5)、世帯の年間所得は20万9600円でした。これを12ヶ月で除したものが認定所得(政令月収)となり、私の世帯の政令月収は金1万7466円でした。

また、私の世帯は小学校就学前の児童がいるため「裁量世帯」となり、県営住宅の入居資格は月収21万4000円でした。後述のとおり、2017年1月22日、私は市議会議員補欠選挙に当選しましたが、1月26日、私は、入居のための誓約書を提出し、2月1日、入居が許可された県営団地に入居しました。

当選後、入居前に県の土木事務所から私に連絡があり、私は、土木事務所に行き、入居に関して法的に問題ないという説明を受けました。仲介業者である住宅情報センターとはこの件に関して全く話しておらず、連絡もありませんでした。

3 宮古島市議に当選したこととネット炎上の経緯

私が宮古島市議会議員になったのは2017年1月22日です。市議補欠選挙で、宮古島への陸上自衛隊のミサイル基地建設反対を掲げて当選しました。今年2月22日に陸自用地の収賄事件で有罪判決が下された元宮古島市長、下地敏彦氏を批判する立場であり、26人中たった一人の女性議員でした。

3月9日、私はフェイスブックで陸上自衛隊がカリフォルニアで米海兵隊の演習に参加した記事をシェアして、「海兵隊からこのような訓練を受けた陸上自衛隊が宮古島に来たら、米軍が来なくても絶対に婦女暴行事件が起こる。軍隊とはそういうもの。沖縄本島で起こった数々の事件がそれを証明している。宮古島に来る自衛隊は今までの自衛隊ではない。米軍の海兵隊から訓練を受けた自衛隊なのだ。私は娘を危険な目に合わせたくない。宮古島に暮らす女性たち、女の子たちも。」と投稿し、この投稿が批判を受け、ネットで炎上しました。

当時私の頭の中にあったのは、2016年4月28日に沖縄県うるま市の二十歳の女性が、元海兵隊員軍属の男性に強姦され殺された事件でした。彼女の死は沖縄県民にとって大きな悲しみとなり、基地の存在がある限り事件が起こり続ける沖縄で、どうしたら軍隊による女性への暴行事件をなくせるかという問いへの答えは、基地をなくすこと以外にありませんでした。

3月12日、産経新聞社は「宮古島市議のフェイスブックが炎上『米軍に訓練された自衛隊が来たら婦女暴行事件が起きる』」という記事を出しました。


全国紙である大手メディアの産経新聞社が取り上げたことにより、私は全国的に批判を浴びることになり、他のメディアからもコメントを求められました。

同日、私は「米軍による事件事故が多発していることへの強い不安と、陸上自衛隊が海兵隊の訓練を受けていることを結びつけ、不適切な表現をしてしまいました。」として、謝罪と撤回をしました。私への誹謗中傷は手に負えない状況になっており、精神的に追い詰められ、きちんとした自分なりの釈明もできないままに、殺された二十歳の女性に対してなにもできなかったという申し訳ない思いの中、謝罪コメントを出しました。

4 産経の記事が出された経緯

3月2日から3月議会が始まっており、3月21日、初めての一般質問を翌日に控えた状況でしたが、私への議員辞職勧告決議が、保守系および中立議員20人の議員によって提案され、可決しました。私のフェイスブック上の投稿は「断じて許すことのできない暴言」であり「市議会の品位を著しく傷つけるものである」として、「その責任を自覚して自らの政治的道義的責任を明らかにするため、 議員辞職を勧告する」というものでした。

決議に対する弁明文の中で、私は再度謝罪し、勧告に法的な拘束力はないため、辞職を拒否しました。

この件も、3月21日に産経ニュースで「自衛隊が来たら婦女暴行事件起きる」FBに投稿した石嶺香織・宮古島市議に辞職勧告 宮古島市議会、賛成多数で可決」と報道されました。

翌日の22日、私の一般質問が始まる直前に「反省の色が見えない」ということで保守系議員15人が退席し議会が流会、一般質問ができなくなりました。私の準備していた質問のほとんどが、ミサイル基地建設についてのものでした。

議場に戻る条件として再度の謝罪を求められ、既にマスコミを通しても謝罪し、議会でも謝罪をしたにも関わらず再度の謝罪を求められることはただのいじめ、嫌がらせであるため、応じる必要はないと考えましたが、最終的には、私が謝罪をしないことによりこのまま議会の期間が終了してしまい、まだ一般質問が残っている数人の議員の質問の権利を奪ってしまうことを避けるため、翌日謝罪しました。

産経新聞社の本件記事が出たのは、このようなことが起こっている最中の3月22日であり、決してこの記事単体で考えられる問題ではなく、全国的に私への批判が殺到している中でさらにバッシングを燃焼させる意図で出された記事であったと認識しています。県営団地に住んでいたことは当選した当初からホームページで住所が公開されていたため、周知の事実であったにも関わらず、あえてこのタイミングで記事を出した理由はそこにあるのでしょう。

当時の私自身の状況は、記事が出る度にネットでの誹謗中傷がひどくなり、なにが起こっているのか分からないぐらい混乱していました。この記事が出た時は、またバッシングの記事が出た…と不可抗力のような、半ば諦めの気持ちで眺めることしかできませんでした。

5 本件記事による影響

産経の記事が出た翌日には住んでいた県営団地の駐車場に鉄柱のついたブロックが置かれ、車が停められない状況になるという事件が起こりました。警察を呼んで移動してもらいましたが、犯人は見つかりませんでした。ネット上だけだった誹謗中傷が、住所が公開されており、団地に不正に入居したと思わせる記事が出たことで、現実の生活の中での被害に変わっていきました。カミソリが入った郵便物が届いたり、郵送ではなく直接届けたのであろう誹謗中傷の文書が投函されていることもありました。その部屋に住んでいることが怖くなり、家が安全な場所でなくなりました。

最初に出た記事による誹謗中傷の影響は大きかったですが、この記事は事実に基づかない内容であるという点で大きく異なりました。多くの宮古島市民に対して、また全国の人々に対して、私は不正を働く人物であるという印象が植え付けられたのです。

ほとんど気力がない中、周りの人に励まされながら、4月5日に産経新聞社に対して抗議文を送り、記事の訂正と文書での回答を求めました。ですが、産経新聞社からの回答はなく、事実と異なる内容の記事は、放置されることになりました。

元々補欠選の任期は10ヵ月しかなく、10月22日には市議選を控えていました。

9月4日に、産経ニュースから「石嶺香織・宮古島市議がまた問題発言 『自衛隊員がたくさん来たら居酒屋でバイトしてる高校生とか大丈夫かなあ、女の子たち大丈夫かな』」という記事が出されました。4月のシンポジウムの発言を、あえて選挙直前に出したのではないかと思われるタイミングでした。

10月の選挙で私は落選し、そのこともまた産経ニュースで「『自衛隊が来たら婦女暴行事件起きる』発言の現職・石嶺香織氏が落選 沖縄・宮古島市議選」という記事になりました。

その後も11月6日に「陸自駐屯地の建設準備を一時妨害 沖縄・宮古島『自衛隊が来たら婦女暴行起きる』の石嶺香織元市議ら」という記事が出て、この記事もまた取材も受けておらず事実と異なる内容でした。

6 産経の姿勢の問題点

2017年12月、産経新聞が沖縄タイムス、琉球新報について書いた記事が問題になりました。沖縄県内で起きた交通事故で「米兵が日本人を救出した」という美談を沖縄2紙が黙殺したと報じ、沖縄2紙は反論しました。その後、産経新聞は事実を検証し、2018年2月8日に謝罪し、記事を削除しました。新聞社という発言力を持つメディアが抗議すれば対応するのに、個人がいくら事実を主張しても見向きもされず黙殺されてしまいます。私はこの経緯を見ながら改めて、個人の力の弱さを感じ、個人とメディアの力の差を思い知らされました。

市議でなくなり生活が落ち着いてから、島で新しく知り合った人にこの記事について聞いてみると、やはり知っていた人、記事の内容を信じていた人もいました。こちらから何も言わなくても、「団地に住んでいるんでしょう?」と言われることもあり、私が不正なことをしたと思っているのかなと不安になることもあります。

産経新聞社は、私の10ヶ月の任期中に、私に関する記事を6本書きました。そのうち2本は事実と異なるものでした。

産経新聞社が、人口5万5千人の小さな島の市議会議員であった私をここまで執拗に攻撃したのは、私の主張が、沖縄の、そして女性の立場からこの国の軍事化に抗う声だったからではないでしょうか。

私がなにより問題だと思うのは、産経新聞社が自社の思想にそぐわない声を塞ぐために、事実と異なる記事を書くという手法を繰り返し、マスメディアの持つ権力を乱用していることです。産経新聞社の「不正入居ではないが、市議が入居することは不適切ではないかと問題提起する記事」「問題提起の記事を掲載したことは、まさに、公共性ある事項を公益目的に基づいて報じた」(第2準備書面)などという主張がまかり通るのであれば、全国の自治体議員は、どのような家族構成であっても、どのような事情があっても、今すぐ公営の団地から出ければいけないでしょう。しかし、産経新聞社は他の地域でこのような主張をすることはありません。これは、沖縄への差別を正当化するための詭弁であり、沖縄へのバッシングそのものです。

7 本件記事が事実と異なること

本件記事にはいくつも事実と異なる点があります。

記事は県営住宅の申込み資格は「申し込み者と同居親族の所得を合計した月収額が15万8千円以下」としています。ただ、私の世帯に小学校就学前の子どもがいたことから、申込資格となる世帯収入の月収制限の基準額は月21万4000円でした。また、記事は私の市議としての収入として「1月と2月の給与として」「約62万円が支給された」と記載し、あたかも世帯収入が申し込み資格の月収制限を超えているような記載をしています。しかし、住宅情報センターの担当者(甲43号証)に試算してもらった結果(甲44号証)によれば、2017年度の私の世帯の認定月収は19万1168円であり、私の世帯の世帯収入が県営住宅の月収制限を超えていたという事実はありません。

また、記事には「仲介業者が市議の月収を確認し…入居するかどうか確認した」とありますが、すでに述べたとおり、私は、土木事務所に行き、入居に関して法的に問題ないという説明を受けました。仲介業者である住宅情報センターとはこの件に関して全く話しておらず、連絡もありませんでした。まして、私が「住むところがないので一年だけ入居させてほしい」等と言うはずがありません。

この点、2017年3月30日に友人としたメッセンジャーでのやり取りが残ってします(甲36、4頁目)。これによれば、私は当時住宅情報センターの担当者から以下の話を聞いています

「3月21日に産経新聞から、かなり嫌な感じで電話があった。上記の裁量世帯のことなど、詳しく説明したが、全く違うことを書かれて驚いた。『仲介業者が市議の月収を確認し~』の内容は事実無根。石嶺氏が言ったとされる内容について「1年だけ」とは言ってないとのこと。」

このメッセージは私の記憶とも合致していますし、当時に書いたものですから、信憑性があると思います。

8 まとめ

私が声を上げたのは、ネット上にも現実社会にも溢れる様々な差別に抗う声を、力を持ったものたちが容易く潰していくような構造を変えるためです。沖縄差別に抗う声をこれ以上潰させないため、軍事化に抗う声をこれ以上諦めさせないため、女性差別への声を泣き寝入りさせないためです。

そして、強大なメディアとひとりの個人という力関係の中で、いくら強大な権力を振りかざそうとも、その力の差をもって声を潰すことはできないということを、司法によって証明するためです。

小さき声が尊重される社会を望みます。

















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