見出し画像

自粛中の散歩で得たもの

「プロッギング(Plogging)」という言葉があるらしい。

語源がスウェーデン語のようで、僕のような純日本人には「エコーウォーク」と言われた方がまだしっくりくる。

いずれも初めて聞いた言葉だ。

妻が、それがブームになっているとラジオで聞いたらしい。

今朝、小さなビニール袋と手袋を持って散歩に出かけた。

玄関に息子を連れていき、靴を履かせようとすると途端に喜びを爆発させ、さぁ俺を早く出せ!と言わんばかりに玄関のドアを叩く。

近所に流れる境川は、相模原、町田、八王子の3市にまたがる草戸山を源流として、最終的には湘南・江の島までそそいでいる。中学時代、友人とこの境川沿いを自転車でひたすらこぎまくり、江の島まで行った。

今日のような晴天の休日となれば、地元の人たちにとってウォーキングやジョギングを楽しむ最高の癒しスポットである。

1歳そこらの息子と一緒に散歩に行くと、良いこともある。

子供好きの老夫婦、ウォーキングをしている年配の女性、同じ子育て世代のファミリーなど、さまざまな年齢層の人々から声を掛けてもらえることがあるからだ。

川が流れる心地よい音に耳を澄ませながら、ベンチの近くでストレッチをしていたら、遠くからおじいちゃんが杖をつきながらゆっくりとこちらの方に向かって歩いているのに気が付いた。

一歩一歩、息子が歩くよりもはるかに遅いスピードである。歩き方を見る限り、足に障害を抱えているようだった。

やがて、そのおじいちゃんが息子のそばまでやって来た時、息子はおじいちゃんに手を振り始めた。おじいちゃんも笑顔になって立ち止まり、「こんにちは!」と声を掛けてくれた。

息子を抱えながらおじいちゃんと立ち話になった。

話を聞けば、数年前に脳梗塞になってしまったという。幸い、無事に退院することができたが、後遺症で左半身が麻痺してしまったのだ。

その話を聞いて、僕は祖母のことを思い出した。あれは祖母がまだ80代も最後の頃だったか、同じ脳梗塞で倒れたのだ。見舞いに行った時、祖母の意識ははっきりしていたのだが、言葉を上手く口にすることができなかった。

「おばあちゃん、わかるかー?誰が来たかわかってるかー?」

こちらを見てくれているのだが、言葉がなかなかでない。何度も声を掛けているうちに、ようやくたった一言だけ声を聞けた。

「わかるよ」

その後、祖母は退院した。そしてリハビリにも励み、驚くほど回復して喋れるようになった。もちろん、脳梗塞をする前の状態のようには戻らなかったが、それでも祖母は元気になった。正直、驚いた。その後、91歳まで生きた祖母の底力だと思った。

そのおじいちゃんは、運動障害があっても会話は何も問題なくて思考も鮮明だった。娘さんが二人いて、孫も6人いるという。

「まだ1歳か!年長さんくらいかと思ったけど、そりゃ頑張んなきゃなぁ」

「二人目は、女の子だといいな!」

僕もおじいちゃんに、無理せずに歩いてくださいねと声を掛けた。

「ありがとう」

おじいちゃんが、またゆっくりと杖をつきながら歩いていく。

一歩ずつ、一歩ずつ。

息子を抱えながら、しばらくその後姿を見送った。

息子を再び自由にさせると、川沿いからちょっとした緑地の中へ入って行った。息子にしてみれば、きっと深い森の中に見えるのだろう。

土や小枝をつかみ、落ち葉を踏む音を不思議がって一生懸命聞いている。

自然のものだけならいいが、息子の目に止まればそうもいかない。

時にベンチの下に落ちているタバコ、飴の包み紙、紙くずなども拾ってしまう。そこで、用意していたビニール袋のお出ましとなる。

息子の手の近くで袋の口を広げると、息子はよくわからないままポイっとその中に投げ込む。そして、自らパチパチと拍手をする。

このご時世でストレスがたまるのはやむを得ない。

散歩をする機会がずいぶん増えたという人も多いかもしれないが、こういう時こそ近所の人たちと心を通わせる絶好のチャンスかもしれない。

あのおじいちゃんとまた会えるかな。

奏志朗 4月_200502_0004





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?