見出し画像

江の島旅 -番外編-

 2回目の江の島チャリ旅から4年後。僕とコウタローは再び江の島へ行った。3回目はチャリではなく、原付きと単車だった。

 僕は、高校を卒業した後すぐ普通自動二輪の免許を取った。そして、人生初めての単車を中古で購入した。その相棒はヤマハSR400だ。道路で運転する経験がまだ乏しかったので、身体の感覚をバイクに慣らすためにも僕はまたコウタローに声を掛ける。

 「江の島、行こうよ!」

 この誘いにコウタローが断ることはない、ということを僕は知っている。「江の島」とだけ言えば、もはや伝わるのではないかと思うくらいだ。

 厚手のジャケットをしっかり着込まないと、バイクで江の島まで走るのは厳しい季節だった。チャリと違って、当たり前だがサイクリングロードを走ることはできない。ただ、行き方はとてもシンプルだ。国道467号をひたすら南に下るだけである。正直、僕はまだスピードを出して走るには不安があった。もちろん、すり抜けさえもまだ怖かった。

 コウタローは原付である。もう運転にも慣れていたし、車の横をスイスイ抜けて行くのは容易いものだ。だが、最終的にはお互いのバイクの排気量や車体の大きさの違い、そして運転に対する”自信”の違いなど様々な要因がピタッと重なり、コウタローを罠に落とし入れたのである。

 大和市から藤沢市に変わり、国道467号の両側に田園風景が広がり始めた頃、すでに僕の視界からコウタローの姿はいない。僕もコウタローに追いついて一緒に走りたい気持ちはあるものの、運転技術がそうさせない。

 車の流れが鈍くなり始めた時、前方に白バイが止まっているのが見えた。そして、まさに僕がその横を通り過ぎようとした時、警官の横に冴えない表情の青年が一人立っていた。コウタローである。僕が低速で走りながらコウタローと目が合うと、彼はニヤッと笑った。そして僕も、ニヤッと笑いながら彼の前を走り過ぎて行った。

画像2

 江の島に到着した後、コウタローの後姿はどこか寂しげだった。そこまでぶっ飛ばして走っていたわけではなかったと思うが、法律では原付は法定最高時速が30kmである。50㎞で走行していたら、仮に前の車が同じ速度で走っていたとしても、原付側は”20㎞オーバー”ということになる。

 そりゃあ、白バイにとって捕まえやすい格好の標的になるわけだ。

〈江の島旅 番外編 完〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?