江の島チャリ旅3
2回目の江の島チャリ旅は同じ年の秋だ。今でも不思議に思うのは、どうしてまた行きたくなったのだろうか、ということである。あれだけ苦労して江の島に着き、帰路に至ってはほぼ無言で一心不乱にペダルをこぎまくり、往復の移動だけで約6時間も費やしているのだ。
しかし、コウタローも僕も2回目の時の方が興奮していた。
「せっかくだから、ノムさんも誘うか!!」
残念ながら、この一言によって”ノムさん”の悲しい運命は決まってしまった。ノムさんは、我々が所属していた野球チーム”町玉(マチタマ)”のエースである。あだ名に”さん”と付くのは、チームの中でもその存在感、野球技術、センスも別格だったことと無関係ではない。そして、それは当時のメンバーが36歳のオジサンたちになっている今も変わっていない。
当時、友達と遊ぶといえば携帯もないから基本的に家に押し掛ける。大抵は家にいる。だから、玄関から出てきたらその場で誘う。中学生といえば、基本的には暇だ。だから、押し掛けられた側もそのまま一緒に遊ぶことになるわけだ。僕とコウタローは、”チャリ”でノムさんの家に到着した。
今回、コウタローのチャリのカゴには、海パンはない。その代わり、電池式のラジカセが一個入っていた。これは僕たちの1回目のチャリ旅の経験が生かされていた。音楽があれば、あの道中で気分が晴れるに違いないだろうと。
「ノムさん、江の島行こうよ!」
「はっ?」
「行くでしょ?江の島」
「どうやって?」
「えっ、チャリだよ。行こう!」
この時、ノムさんが怪訝な顔をしていたのは言うまでもない。ただ、その5分後にはもう出発の準備が整っていた。行き方は1回目と全く同じ、境川をひたすら走るだけだ。
こうして2回目の江の島チャリ旅が始まった。だが、この2回目の江の島チャリ旅の道中のことをそれほど細かくは覚えていない。行きは3時間、江の島滞在時間はたったの1時間、そして帰りは間違いなく2時間半くらいだったいうことは覚えている。
そして、江の島でノムさんの身に降り掛かった出来事と、帰路にコウタローを怒らせしてしまったトラブルの印象があまりに大きく残っているからだろう。
(江の島チャリ旅4 続く)
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