何故、マスコミはそこまで日本が憎いのか?

2023年8月12日(土)、TBSの「報道特集」、番組終了間近にMCを務める日下部正樹氏が麻生太郎氏発言を取り上げた。
下リンクの記事を書いた事から、折角なので日下部氏発言に関して論評を行おうと思う。


日下部氏発言までの経緯

この日の報道特集では
「台湾の”元日本兵たち”」
との特集が組まれ、現地の取材で第二次大戦に日本兵として参加した台湾人の思いを紹介するVTRが流されていた。

VTR中では日本を悪し様に語る台湾人はいなかった。
また、日本が去った後に大陸で中国共産党に敗北した中国国民党が台湾に逃げ込み、軍事独裁体制に入った事を表現する言葉
「犬が去って、豚が来た」
を紹介するなど、日本だけを悪く言う為の構成では無かったと思う。
但し、台湾の歴史、国民党独裁時代、本省人と外省人、国民党の中国接近と「一つの中国」イデオロギーの指し示すものの変化、更に経済界の大陸依存とメディアの対中姿勢の変化など、台湾にまつわる事情を知らない視聴者にとっては、番組がそのVTR構成によって暗に指し示す結論へ容易く誘導されてしまうだろうな、との印象を受けた。要は、メディアの望む結論「とにかく日本が悪かった」への誘導したい気持ちが透けて見えると言う話だ。
特にこの番組に関しては高齢者層の平均的な対日感情を知らないと、インタビューを受け、辛い過去を語って下さった台湾人の真意を十分に汲む事が出来ず、台湾がどのように日本を見ているのか?について誤解を生じさせる懸念を抱いた。

トータルで言えば、テレビ局の作るドキュメンタリーとして、それなりに評価出来るVTRとなっていたのではないかと思う。
構成から漂う臭いには嫌悪感を抱くけれども、旧日本兵だった台湾人の証言集として貴重なものになっただろう。

問題はこの後だ。

日下部正樹氏による麻生太郎副総裁の台湾発言への批判

VTRの締めとして、現地インタビューも行った日下部正樹氏が最後にコメントを語った。
そこで、麻生太郎副総裁の台湾での発言への批判を始めた。
「戦う覚悟」との発言単体もやはり批判的に捉えている口ぶりだったが、更に「日本と台湾は仲間だ」との趣旨の発言を論(あげつら)った。

VTRでは、終戦から29年も経った1974年にインドネシアで発見された台湾人元日本兵の件にも触れていた。
彼に対して日本政府から渡されたのは、未払いとなっていた俸給分、6万円程度だった。
そこを引き合いに出し、日本は戦後、一億総懺悔と言う曖昧な表現で戦争責任の所在を誤魔化してきたんだ、台湾や朝鮮半島などへの戦後補償をおざなりにしておいて、「ずっと仲間だ」と言う言葉に怒りを覚えた、と言うような内容を語った。

先に結論を言う。
日下部氏の発言は、日本の戦後補償の在り方、相手国の事情を全く考慮出来ていない。
さらに元日本兵にどのような待遇を与えるか?は各国ごとの判断に任せられるべき社会保障制度の話だ。
特に、日本は戦後に国交回復する際、戦時の賠償金を相手国に対して支払う事で個々人に対する補償については相手国の行政に委ねる事にしている。
(韓国に対しては、わざわざ個々人への補償を申し出た上で、個人への対処は我々がやるから纏めて渡してくれと求められた。そうして、個人への対処をろくにせず、経済発展の為の資金に使ったのが朴正煕大統領であり、これで成し得たのが「漢江(はんがん)の奇跡」だ。)
国交を回復した際に国として為すべき補償は終えている訳で、そこから更に何かを行うのは「足りない補償を穴埋めする」のではなく、善意によって特別な取り計らいを行う旨申し出るとの形式になる。
社会保障制度の設計は国家の専権事項であって、他国が口を挟む性質の物ではない。そこを安易に乗り越え、勝手に特定の属性を持つ者に外国政府が何らかの制度を始めるのは、相手国政府の法治への介入であり、内政干渉に他ならない。まともなプライドのある国なら、「くれるものなら何でも受け取る」式の対応を取らない。
つまり、相手国側の同意を得ない事には、日本側にどのような用意があっても何も出来ないのが現実だ。

そこをまともに考慮せず、「日本が悪い」と短絡した結論を語るのは、事実軽視も甚だしく、情報の受け手に対して極めて不誠実な態度だ。
「日本政府批判ありき」の結論に向かって理由を集めようと思考するから、周辺事情を正しく勘案できず、主観的な主張をさも客観的結論であるかのように語れるのだ。

全く以て話にならない。
日下部氏のこの論評はジャーナリストと言うより、プロパガンディストのそれに近い。
詳しい事情を知らない視聴者は、ただ漠然と「とにかく日本が悪いんだな」とだけ強く印象付けられた事だろう。
放送法4条の求める政治的中立性を真っ向無視している。

propaganda : 日本語ではプロパガンダ
元々はローマカトリックにおける「宣伝機関」を指す。
ラテン語の propagare 「種をまく」「広がる」を語源とする。
転じて「情報戦」や「宣伝戦」を表し、狭義では政治的な宣伝活動を意味し、特に思想や世論を政治的に誘導する行為を指す。
propagandist : プロパガンディスト。プロパガンダを行う人。

時間泥棒・作

放送法
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二 政治的に公平であること。
 三 報道は事実をまげないですること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

デジタル庁・E-gov法令検索より

以下、何故、日下部氏発言に妥当性が無いのかを解説したい。

麻生太郎副総理の「仲間」発言

まず、産経新聞の記事のリンク。

「戦う覚悟」発言のあった8月8日、麻生氏は台湾副総統の頼清徳(らい せいとく)氏と会談した。
頼清徳氏は台湾民進党の現在の党首(役職名では主席)だ。
通常、台湾与党のトップが総統になるのだが、2022年に統一地方選挙で現与党・民進党が大敗し、その責任を取る形で蔡英文氏が主席を辞任(総統としては任期終了まで全うする予定)した。新主席を決める選挙に立候補したのが頼氏だけだったので、無投票で新主席に就任する事に。
2024年の総統選挙に与党民進党候補として出馬する事が見込まれている。

台湾の国政勢力図

台湾政界について余り詳しくない方に、ざっくりと解説すると、現在の台湾政界の勢力図は、現在の与党・台湾民主進歩党(民進党)と野党第一党・中国国民党による二大政党制となっている。

  • 台湾民進党 61議席(約55%)

  • 中国国民党 38議席(約34%)

  • 他の少数政党、及び無所属 14議席

    • 総議席数 113議席

台湾の政治現代史

元々台湾は、第二次大戦後、長らく中国国民党による一党独裁の軍事政権であった。
第二次大戦直後、中国国民党は中華大陸で中国共産党と内戦を繰り広げ、これに負け、逃げ込んだ先が台湾島なのだ。
なので、元から台湾に住んでいた人達(これを本省人(ほんしょうじん)と呼ぶ。大陸生まれで後から台湾に来た人達は外省人(がいしょうじん)と呼ぶ。)にとってみれば、日本統治が終わったと思ったら、中国国民党が入って来た事になる。
そして、日本以上に厳しい統制管理下での生活を強いられる事になった。

また、内戦で敗れて大陸を追われた経緯から、中国国民党は中国共産党と非常に強く反目していたし、国際社会においてはアメリカを中心とする西側諸国に所属した。

だが、中国が改革開放路線を取り始めたところから、この構図に変化が生じ始める。
その当時の中国は、他の東側諸国と比べても圧倒的に国家の開発具合が遅れていて、国民の生活水準も低い状態が続いていた。
東側諸国が経済発展しにくいのは、西側諸国のような自由経済を取り入れてない事が最大要因なのだが、中国は部分的に自由経済を取り入れる事で経済発展を目指そうとした。
その際、言葉が通じて(台湾は中国国民党の教育によって、中華民国が定めた国語を話す。元々あった台湾語も広い意味で中国語の一方言であり、中華民国国語は台湾語や日本語、オランダ語などの語彙を取り込んで作られた新種の中国語と言える。語彙的に大陸側の話者に通じない単語も多いが、他言語話者より意思疎通は容易)、既に相当程度の経済発展を遂げていて、人種的に近い台湾に対してのみ特例的に許可を与える形で外国資本の大陸側受け入れを始める事にしたのだ。
台湾企業は圧倒的に安価な労働力を手に入れる事が出来て大いに潤い、中国側も外貨入手の手段を得た事から経済発展の緒に着く事が出来た。

この経済的な結び付きによって、中国国民党は次第に中国共産党へ融和姿勢に転換する。
しかし、台湾が中国共産党に近付く事へ強い危機感を抱く者もいた。
その筆頭が、李登輝(り・とうき)氏だ。
李登輝は、中国国民党のトップとなり、台湾総督府総統となった人物だが、それまでの一党独裁の軍事政権から、議会制民主主義体制への転換を実現した偉大な政治家だ。

総統に選ばれるまでは前任総統への忠誠を尽くす立場を堅持し、官僚的に副総統の役割を果たし続けた。
前任総統が後継者指名を行わず亡くなった事で、繰上り的に総統への道が開けた訳だが、これを許容した国民党幹部たちは李登輝の真意に気付いていなかった。世論を味方に付け、手練手管で議会工作を推し進め、血を流す事無く台湾を一党独裁から民主主義へと体制変換を成し遂げたのだ。
また、直接選挙によって選ばれた初めての総統にも就任している。
台湾国民からの支持も篤い、才能と魅力を兼ね備えた政治家であった。
李登輝のような不世出の政治家が存在しなければ、台湾の民主化、議会制民主主義体制への転換はずっと遅れていただろうし、もしかしたら今でも軍事独裁が続いていたかもしれない。

そう言う時代の変化によって、台湾の民主的政党として生まれた政党の一つが台湾民進党だ。
李登輝自身は国民党主席として現役政治家人生を終えているが、その後も台湾の新政党誕生に関わるなど、存在感を示し続けた。

現在の台湾総統である蔡英文(さい・えいぶん)(台湾民進党主席でもあったが、直近の地方統一選挙で大敗した責任を取って、党役職から降りている)氏は、李登輝が中国と台湾の二国間関係を新たに規定した「二国論」策定に行政官として携わった人物で、李登輝を高く評価していたし、李登輝もまた、蔡英文を評価していた。

ここで、もう一つ台湾の政治状況に関して知っておくべき情報として、
「台湾国民は、基本的に中国と一体化する事は望んでいない」
と言う事実がある。
現在の中国国民党は非常に中国共産党に接近していて、中国国民党政権へと政権交代した場合は、国家としての台湾が消滅しかねないと危惧されている。
この中国国民党を支持している台湾国民ですら、今の生活が奪われ、中国の一部としての生活が始まる事を望んでいる訳では無いのだ。
中国国民党支持者は、現在の中国との関係によって得られる経済的利益を最大化すべきと考えていたり、逆に両国関係が冷え込む事で経済的不利益を被る事を恐れる人達が中心だ。根本的な部分で人権を制限されたり自由な経済活動自体が許されなくなる事を受け入れるつもりなど全く無い。

また、上述したように、直近の地方統一選挙で与党・台湾民進党は大敗したのだが、この事も「過半数の国民が台湾民進党を与党に相応しくないと感じている」と解釈する事も間違いだ。
台湾民進党に対する不満は事実としてあるのだが、「国政選挙と違うから」と言う理由で民進党への投票をしなかった人が相当数いるのだ。落選候補にとっては嬉しくない事だが、「不満を示す場として丁度良かった」為に与党が大敗してしまったと解釈する方が事実に近く、実際に日本メディアの取材でも「国政選挙だったら民進党に入れたんだけど」と選挙の性質と投票行動について語る有権者の話が聞かれた。

このような事情から、2024年次期総統選挙において頼清徳氏が選ばれる可能性は非常に高いのだ。

頼清徳と麻生太郎の実際のやり取りと、日下部氏発言の概要

上掲、フラッシュの記事から引用する。

 頼氏が会談で『日本は信頼できるパートナー』と語ると、麻生氏は、人気漫画『ワンピース』を持ち出し、『主人公のルフィは20年、一度も仲間を裏切らず、長い時間をかけて仲間を増やしてきた』と強固な日台関係について触れたのです」(政治担当記者)

麻生太郎氏、台湾で「戦う覚悟」発言が波紋呼ぶも…『ONE PIECE』『キティちゃん』外交でネット民は歓喜・FLASH8月9日配信記事から引用

ここが正に、日下部氏や女性アナが問題視した部分になる。

「『仲間』と言うが、本当に日本は戦時中、共に戦った現在他の国籍となった旧日本兵たちに向き合って来たのか?そうではないだろう」

と言いたいらしい。
多分、この発言はVTR中で扱った台湾人元日本兵の話に限らず、朝鮮人、韓国人への補償問題(と向こう側やマスコミが強く主張する話)を意識してのものだろう。
元慰安婦の問題や、元”徴用工”(と自称する応募工)問題も含めて、
「総じて、日本は戦時、そして終戦に伴う混乱で発生した各種問題について、まともに向き合って来なかった」
と言う事が言いたいのだと推察する。

「日本が悪い」の結論ありきで論を組み立てようとした結果このような考えに行き着いたのだと思われるが、きちんと情報に当たり、それに対する妥当性の高い評価が出来ない人の典型だと言える。

女性アナが批判的に語った、台湾人元日本兵への俸給について

VTRの中では、台湾人元日本兵が終戦に至った事を知らず、派兵されたインドネシアにおいて30年もの間、潜伏を続けていて、発見された後に台湾に帰国する事になった事例を扱った。

彼に対し、日本から渡された恩給はたったの6万円程度であり、当時の物価レートから言っても全く不十分な金銭的補償と言わざるを得ない。
女性アナはここを取り上げ、日本に帰って来られた日本兵との扱いの差、特に横井庄一(よこいしょういち)氏や小野田寛郎(おのだひろお)氏らのように同じように30年近く潜伏した後帰国した人との補償が全然異なる事を問題視するような口ぶりで語った。

これには大きな誤認がある。
横井庄一氏や小野田寛郎氏も、帰国時の一時金としては、台湾人元日本兵と同程度の小さな額しか受け取っていないのだ。

横井庄一氏が帰国後に彼の軍人俸給、軍人恩給に関してなされた国会質問がある。

発言番号で28から35まで、横井庄一氏の軍人俸給、軍人恩給、国民からの見舞金などについて質疑応答がなされている。
俸給は給与の事であり、恩給は公務員等で職務上死亡した場合や、その職務上の働きに特に感謝し与えられる特別の年金の事だ。旧日本兵だった者、またその家族には実在職期間に応じて軍人恩給が支給される。

恩給制度が一度無くなった後、1948年に再開されるのだが、この時点で日本軍はGHQに解散させられており、軍人は基本的にいない状態だ。
シベリア抑留中だったり、帰国手段がほぼ無いような状況で終戦を迎えた日本兵に関しては、軍務解除がなされるまでは軍人としての地位にある事にはなるが、実際に軍人としての働きが想定されない為に俸給(給料)はこの時点で発生しなくなっている。
また、帰国時に払う事になっていた未払いの俸給についても、戦中に金額を定めたものであり、貨幣価値の変化に対応していない。
その為、横井、小野田両名のような事例においても、帰国時に受け取る未払い俸給は非常に小さな額になってしまう。
横井の受け取った未払い俸給も「39,170円」でしかないのだ。

さらに、軍人恩給についても「受け取る条件を満たした者に対し、手続き後の支給月から貰える」と言う仕組みだ。
軍人恩給は年金制度の一部であり、生活に困らないよう支給される性質のものであり、権利を有している期間を計算し、受け取れなかった分を後から一気に渡すような性質のお金ではない。
上リンクにあるように、国会質問時の横井の恩給は「年額で132,894円」となっている。

金額の大きかったのは、横井氏に対して同情した国民から集まった見舞い金で、その額 22,053,635円 にもなった。
また、国民感情も考慮して、これに関しては所得税の対象としなかったようだ。

小野田氏に関しては、横井の出来事から2年後と言う事で、政府は最初から100万円の見舞金を用意したが、小野田自身はこれを拒否した。
しかし、政府としても一度出すとした見舞金を「はい、そうですか」と引っ込める事も出来なかったようで、無理やり渡したようだ。また横井同様、多額の見舞金も届けられた。
小野田氏はこれらを纏めて靖国神社へ寄付したと言う。

また、VTRで扱った台湾人元日本兵、中村輝夫氏がインドネシアで発見された事を端緒とし、台湾人元日本兵に対する補償問題が国会でも議論され、彼の発見から十数年後にはなったが、申請が認められた場合に旧日本兵遺族、または戦傷病者当人に対し、200万円の特別弔慰金が支払われる事になった。

このような事実を確認すると、女性アナの語ったコメントは「一体何の話をしているのか?」と思わざるを得ない。
女性アナのコメントを漫然と聞いていた視聴者には、「日本政府は自国の元日本兵には手厚い対応を行ったが、他の国籍所有の元日本兵へ十分な手当を行わなかった」との印象が残っただろう。
妥当性の無いコメントで日本政府への悪印象を視聴者に植え付ける。
これの何処に放送法で求められる公平性があるのだろうか?

日下部氏の発言はより露骨に日本政府の対応を糾弾するものだった。
私には、時代背景や相手国側の事情を全く考慮しない論評だとしか思えない。

日下部氏コメントの妥当性を考える

終戦によって、日本は外地の領土を全て失った。
領土だけでなく、政府、民間の動産、不動産も持ち帰る事が出来なかった物は全てそのまま失う事になった。

日本政府が失った分、誰かがそれだけ得た事を意味する。
その多くは当該地域を治める新たな統治機構が接収する事になるだろう。

敗戦国は敗戦時に失った権利について何も言えない訳ではない。
例えば、オランダはインドネシア独立戦争によって元々持っていた権益を失ったが、これに金銭的補償を求めた。
当時の為替レートで17億ドル超の債権を主張し、インドネシア政府に11億ドル超の債務を認めさせた。

「負けたのだから、何もかも諦めるのが当然」
と言うのは日本的な潔さを感じるが、別にそれが正しい訳でもない。

実際、戦後に日本と韓国の間で国交回復の為の交渉が始まった時にも、戦時賠償をどのような形に収めるかの議論で、「債務」と「債権」の話がなされた。
結果的に日本はそれら、接収された資産の弁済を求めなかったが、朝鮮総督府を始めとして、日本側が半島に残した資産の扱いをどのようにするのか?は当然のように諦めるべき性質の物じゃなかった事がここからも分かる。

台湾との関係でも同じだ。
台湾国民党政権が旧日本兵への補償問題に対し、余り乗り気でなかったのだが、その理由として日本側資産を勝手に接収した件について、清算を求められると仮に日本から旧日本兵への補償を受け取れたとしても、差し引きで台湾側として損になる可能性があったのだ。
元々、サンフランシスコ平和条約締結時に、日本は台湾と国交を結んでいて、この時に台湾人元日本兵の未払い給与や軍事郵便貯金などについては日本と国民党政府との間で「特別取極」によって処理する事が確認されていた。そして、日本側は3度も渡ってこれを推進するよう求めたものの、国民党政府の方が受け入れなかったと記録されている。
そして、この交渉が進まない中で、日本と中国の国交正常化が実現し、台湾との国交が無くなり、日本と台湾との間の平和条約も失効した事で「特別取極」の根拠も失われてしまったのだ。
この経緯を理解した上で、「日本の旧植民地に対する不誠実さ」を先ず考える人がいるとすれば、全く以てどうかしている。
事実をありのまま受け入れるべきだ。

誤解して欲しくない事なのだが、私は別に「日本の戦後補償はあらゆる面で素晴らしかった」などと主張したい訳じゃない。
この稿で主題になっている元台湾人旧日本兵に対する特別弔慰金にしても、物価スライドやその時点での自衛隊への対応との比較で、「額が一桁足りないのでは?」との声も一部からあったらしい。
そういう声を頭ごなしに否定するつもりは無いのだ。
「妥当なラインなのか、不十分なのか?」に対しては色んな視点から評価が可能だろうし、それら様々な意見を一個人が一刀両断するのは傲慢だと思う。
私はそういう事がしたい訳でもない。

また、台湾人元日本兵の方の中に、戦後補償の規模に落胆し、日本へ失望した方がいたとした時、その人の受け止めを否定する気も全くない。
それは完全に情緒の話であり、他者が立ち入り「こう思え」など押し付けられる領域でもない。
その方の生きて来た人生を振り返って出て来た言葉をそのまま受け止め、彼らの受けた苦しみに心を寄せる努力をするのが、後人である我々がせめて出来る事だと思う。
ただ、その一方で台湾人元日本兵には、戦後も一貫して日本への愛情を抱き続けてくださる方も大勢いる。
「高評価の人がいる分、低評価の人を差っ引いて考えても良い」なんて考え方をしている訳ではない。
その何方もが歴史の証人であり、等しく尊重されるべき対象だと言いたいのだ。
何方かにスポットを当てる形でもう一方を見えなくする事こそ、一番やってはいけない事だと考える。
ジャーナリストは今を生き、これからを生きる人達に情報を伝える使命を持つはずだ。
個人的政治スタンスから情報の選好を行い、自分の望む方向に結論を設定して、視聴者・読者の印象を誘導する事は決してやるべきじゃない。
だが、日本の中で、このような強い矜持を持って誰にも恥じないジャーナリズム活動を行えている人間が一体どのくらいいるのか?
日本の大手マスコミの報道を見ていると、残念な気持ちになるばかりだ。

日本のマスコミの常套手段

  • 日本にとって都合の良い話は極力しない。せざるを得ない場合は極力短くする

  • 日本の立場が不利になる方向に視聴者・読者の印象を誘導する。謝罪と賠償するのが当然なのだと刷り込もうとする

かなりネットでは広まった事実ではあるが、マスコミのこの手の印象操作を察知するには、予めその分野の知識を蓄えておく必要がある。
マスコミが積極的に誤認を誘導するのだから、より公平で妥当性の高い情報を探す事から困難に直面する。

TBSは全体的に満遍なく歪んでいる印象を私は持っているが、その中でも報道特集とサンデーモーニングは突出して歪んでる。
積極的にアピールしている内容は、大体その反対側からの主張が存在するし、客観的に見た場合に反対側の方が説得力を持ってる場合が多い。

まぁ、私自身、このように強い強度でマスコミ批判を行っている訳だが、ネットにおけるマスコミ批判については懸念も持っている。
それは、「マスコミが言っているから嘘だ」の過剰な単純化だ。「嘘っぽいな」との感想を抱く所までは厳密な検証を経ずになされても、あくまで「心象」の話であるから、そこまでの問題は生じない。
だが、「嘘だ」との認定を行い、それを拡散するには当然、事実関係の検証が必要だ。それが無ければ無責任な情報拡散を行っているとして、自分自身が批判を受ける事になる。

マスコミ批判だったら何でもOKの偏食家になってしまうと、結局自分自身で情報の精査が出来なくなり、陰謀論的な主張にも批判精神が働かなくなってしまう。
「嘘が多い」と批判するマスコミを笑えない状態に陥らない為にも、強く批判する前には十分に情報を浚う努力は必要だと考える。
「自分なりに頑張って浚ったが、誤認が生じてしまった」と言うのはある程度仕方ないと思う。(意訳:私の情報検証に対しても、これくらいの寛容さで受け止めて欲しい。)

本当は放送から間もなく投稿したかったのだけれど、確認する情報が多くて手こずってしまった。
報道関連の記事なのにタイムリーな話題じゃなくて申し訳ない。

<了>


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