「沖縄反基地運動」をすればするほど、日米地位協定改定は難しくなる、と言うお話

反基地運動上層部は分かってないのか、それとも分かっててやらせてるのか。


「地位協定」の本当の意味

日本のメディアは反基地運動界隈に寄り添う為、反基地運動に疑問を抱かせるような不都合な真実を視聴者・読者に教えてはくれない。
日米地位協定」と言うと、まるで現代の不平等条約かのように語られる。
イメージとして「日本がアメリカに無理やり飲まされた不当な協定」と思ってる人も少なくないだろう。
本当にそんな性質のものなのか?

自衛隊も「地位協定」を結んでると言う事実

実は、自衛隊がPKO活動に出る度、派遣先の国との間で地位協定は結ばれている。

PKO活動とは?
「国際連合平和維持活動」の事で、英語では
United Nations Peacekeeping Operations
であり、日本では”P”eace”K”eeping ”O”perations からPKO、またはPKO活動と呼ばれる事が多い。
紛争で混乱した国に対し、復興や復旧を支援する。
民間人派遣は危なくて勧められない場合に、ある程度の装備品を伴って軍人が派遣されるものであり、身の危険が全く無いPKO活動は基本的にあり得ない。

時間泥棒・作

別にその裏で相手国を不当に圧迫し、無理やり結ばせた訳では無い。
外国の求めに応じる形で派遣される軍隊(「自衛隊は国際法上の軍隊に当たる」が現在日本政府の正式見解)は、基本的に地位協定を結ぶのだ。
何故か?

地位協定を結ばない事で起こり得る問題

外国人は誰でも入国に際して現地の法を遵守するよう求められる。
現地の法体系が母国と大きく違っていて、うっかり法を犯してしまった場合でも、「知らなかった」は基本的に通らない。
そこを了承した上で「入国させてください」と相手国にお願いし、許可を出してもらっているのだ。
つまり、相手国の法の支配を全面的に受け入れて入国している事になる。

では、PKOで派遣された軍人(自衛隊員)はどうなるか?
彼らは別に相手国の法の支配を全面的に受け入れる事を前提に入国しようとしている訳ではない。
※これは「相手国の法の支配を踏みにじって良い」などと言ってる訳では無い事に注意。
国の命令、指令に基づき、相手国へ赴くのだ。彼らはまず、自国の軍人として、自国の軍法または法律に縛られた状態にある。

相手国の為に国際的に協力してなされるのがPKO活動であり、この目的に合致するよう国連自身も地位協定のモデル協定案を策定している。
外国で活動する軍人」に対し「地位協定」を適用するのは、国際標準なのだ。

逆に、PKOで派遣された軍人(自衛隊員)が相手国の法治に組み込まれるものだとしたら、それによって「自国民の各種権利が、自国にいる場合より制限を受ける可能性がある」との理由で参加を拒否する国が続出するだろう。
国からの命に従ってある国に赴く軍人と、自ら好んでその国に行く旅行者・留学生で違いがあるのは当たり前の話だ。
(社命に従うビジネスパーソンの場合も、本人の思いは別にして、経営判断として好んで派遣を決めた訳だから勿論、後者になる)

「日米地位協定に問題が無い」訳じゃない

ここまでの話で私がしたかったのは、「地位協定は特別なものではない」と言う事だ。
別に「現行の日米地位協定をつべこべ言わず受け入れろ」などと言うつもりは無い
論理的に正しく問題点を指摘し、妥当性のある改定案を提示し、日米両政府に求める事は是非やったら良いと思ってる。

しかし、世界標準の「地位協定」を知る事無く、現行の日米地位協定について語ろうとしても、妥当性のある主張など出来るはずが無い。
沖縄の反基地運動界隈や日本のメディア報道を見て思うのは、
「とにかく日米地位協定は不平等であり、今すぐ撤廃されるべき代物なのだ」
との主張を一方的に押し付けるばかりだな、と言う事。
国民にも沖縄県民にも、正しい理解を深めてもらおうとは思ってないように見える。

上述したように、「地位協定」自体は自国の軍人が外国で活動する際に結ばれるものであり、日米の間だけ特別に協定が存在する訳ではない。
この事実を広く国民に周知しなければ、まともな議論は出来ない。

その上で、改定すべきポイントを指摘し、運動すべきだろう。
一応、沖縄県はその観点で他国の地位協定との比較を行っていて、それを纏めた資料を作ってもいる。
※「他国地位協定調査報告書」で検索すれば沖縄県作成のPDFファイルが見付かるはず
この点では、まともな議論をする気が全く無い反基地運動界隈よりはずっとマシだ。
ただし、これも「見直しありき」で作られている為、これを読んだとしても地位協定改定の何が難しいのか?を正しく理解する事は難しいだろうが。

日米地位協定改定が進む訳無い理由

第二次大戦後、日本と同じ枢軸国側だったドイツ(西ドイツ)とイタリアにも米軍基地が作られている。
そして、ドイツ、イタリア共にアメリカとの間で地位協定が結ばれた。
実は、この両国の地位協定は、ドイツ、イタリア両国優位に大きく改定されている。
これを以て、「日本で十分な地位協定改定が進まないのは日米両政府の怠慢」だの「沖縄差別が根底にあるのでは?」などの極論が飛び交う事になる。
これは「地位協定改定」の本質を敢えて無視した為に発生する誤解だ。

ドイツ・イタリアで地位協定改定が実現したのは、冷戦終結のおかげ

小見出しがそのものズバリなのだが、ドイツ・イタリア両国が日本より交渉力があったから地位協定を改定出来た訳じゃない。

また、ドイツ・イタリアが優位になったと言う事は、アメリカが劣位になったと言う事でもあり、単純な二国間同盟の話であればこれは同盟の結束力を損なわせる動きだ。
アメリカと欧州はNATOと言う強力な同盟で結ばれている為、そんな単純に同盟関係が毀損されないと言う事がまず一点。
そして、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年にソ連が解体した事で、冷戦構造が一旦終息した事、つまり両国にとって脅威のレベルが下がった事がもう一点だ。

ソ連の後継国家であるロシアは依然として数多くの核弾頭を所有し、ソ連より小さくなったとは言えアメリカと覇権を争う大国としての地位を完全に失った訳では無い。
それでも、ドイツ・イタリアの視点に立てば、脅威はほぼ去ったと感じられた。
冷戦中は東欧諸国との国境がそのまま敵対国家群との境界だった。それが、東欧諸国の民主化によって潜在敵国との境界線が大きく離れた事になる。
この時に両国は「もう自分達の国土が戦火に包まれる事は無くなった」と安堵したのだ。
実際、この時以来、両国は陸上兵力を相当縮小するようになった。

このような国際環境の変化によって、アメリカとの関係悪化もある程度なら許容出来る状況になったのだ。
仮に、今のウクライナ紛争が起こった状況下でなら、アメリカとの同盟関係を弱体化させる可能性のある地位協定改定を進ませる訳がない。

翻って日本を取り巻く環境はどうであったか?
冷戦構造が終結したと言っても、ロシアの軍事的脅威は全く減らなかったし、中国の軍事的脅威は経済発展と共に拡大する一方だった。更に、核開発を続ける北朝鮮までいる。
冷戦終結で仮想敵国が離れて行った西欧諸国と比べ、日本は軍事的脅威に変化は無いどころか寧ろ脅威は高まっていた。
これで冷戦を契機に地位協定改定を実現したドイツ・イタリアを引き合いに出し、「日本でも地位協定改定を」と主張するのはお花畑に過ぎる。

日米地位協定改定を決定的に阻む沖縄反基地運動

これまで述べたように、「地位協定」は国際標準の協定であり、国の命を受けて他国で活動する軍人の地位をいたずらに脅かす事の無いよう結ばれるものだ。
つまり、地位協定を改定出来るとすれば、「自国の軍人の地位を如何に守るか」と「相手国との二国間関係をどれだけ良好に保つか」のバランスの中で、「二国間関係重視」の方に相手国を引き寄せる事が絶対に必要だ。

今の沖縄の反基地運動を続けたところで、「日米同盟関係重視」を理由として地位協定改定が進む事は絶対無い。
何故か?
それは沖縄の反基地運動が、明らかな「アメリカヘイト」に染まっているからだ。

在沖縄米軍基地から出て来る車両に対し、中指を立ててfワードや「ヤンキー ゴー ホーム!!(アメリカ人は帰れ!! ※ヤンキーは米国人の俗称。NYヤンキースのチーム名の由来でもあるが、語源的にも侮蔑的ニュアンスが込められる事がしばしばある)」と叫んだりする。
これが年がら年中続いてるのだ。
基地を出入りする車に乗っているのは軍人軍属ばかりじゃない。彼らの家族、幼い子供たちも含まれる。
反基地活動家たちは子供がいようがお構いなしに大声でがなり立てる。
そして、沖縄県警がこれを制止する事も無い。
米軍関係者にこれがどのように映るか?

ここまであからさまな敵意をむき出しにして米軍をヘイトする日本人に対し、現在の米兵の地位を低める地位協定改定に乗れる訳が無い。
また、県警が全く仕事をしない事が輪をかけて印象を悪化させる。
警察官は犯罪捜査においては司法警察員または司法巡査として活動する法秩序の番人だ。
それが米国軍人への威嚇行為をさも当然のように見過ごす環境が常態化してるのだ。
米国が「日本の警察、司法を信頼し、日本の法治を完全に受け入れよう」となる訳が無い。
多くの日本人は外国人の国籍によって刑罰が変わるような不公平な制度を容認しないだろう。
だが、今現在も米兵に対するヘイトを全く取り締まらないと言う形式で、「アメリカ人だからと言う理由で刑を重くしないとは言い切れない」とアメリカ側に思わせている。

つまり、反基地運動が活発になればなる程、地位協定改定は遠のくのだ。
これをきちんと理解している日本人がどれだけいるだろう。
正直、多くはないと思う。

更に言うと、反基地運動の指導的地位にいる人達と言うのは、そもそも本心では日米地位協定改定が進む事を望んでないのではないか?と私は疑っている。
彼らの最終的な目的は、米軍基地の完全返還であり、米兵を一人残らず沖縄から追い出す事だ。
日米地位協定が日本にとって望ましい形に改定される時、それは一般国民にとっては「これで米兵に対する日本の司法権行使が容易になり、延いては以前よりも沖縄の人達が安心して暮らせるようになる」との受け止めになるだろう。
この受け止めは、在沖縄米軍基地の存在を今後も認める事に他ならない。
協定改定が進むと反基地運動を続ける意味が薄れ、国民からの支持を低下させる可能性をはらんでいる。
最終的な目標である「米軍基地の完全返還」を実現する為には、日米地位協定の進展は彼らにとって寧ろ邪魔なのだ。
そういう事情を理解すると、彼らの主張がより強烈で極端な物ばかりである事の理由も見えて来る。
実現の難しい要求を続け、それが受け入れられない状況を長く見せる事で、より広く国民から支持を得たい。
そして日米同盟が破棄され、米軍基地が完全に無くなれば良い、それこそが平和に繋がるのだと本気で思っている。
だから凶暴性の発露としか言いようのない、品性下劣な絶叫を続けられるのだ。

沖縄の反基地運動をやればやるほど、日米地位協定改定が遠のく。
これだけは確実だ。

<了>

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