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『歩道橋』


 かれこれ四半世紀前に、我が街裾野市の隣町である沼津市の東名インターチェンジにつながる通称『グルメ街道』と呼ばれる道が拡張された。それに伴い、横断歩道が半減され、歩道橋や地下道が造られた。

 しかし、歩道橋にも地下道にもスロープはあるものの、自転車を押して上り降りするだけの幅60センチのものである。車椅子を利用している僕の操作がいくら巧みであっても、そのスロープを上り降りするのは無理だった。幅はほんの数センチ逸れれば脱輪するし、何しろ階段と同じ傾斜なので、いくら力のある僕でも、とても登坂に挑む気になれなかった。

 僕は車椅子を利用している障害者やベビーカーなどはどうやってその歩道橋や地下道を渡るのか聞きたくて、沼津市に電話をした。

「あの通りは場所によって管轄が違うんです。歩道橋がある場所なら、国土交通省ですね」      
 沼津市役所の建設課の職員はそう言った。

 僕は職員に教えてもらった国土交通省の電話番号に連絡をしてみた。
「グルメ街道を車椅子で渡る場合、どこを渡ればいいのですか?」
「歩道橋と、地下道にスロープがあります」
「あのスロープの幅は、車椅子の車輪と車輪の幅の分だけしかなく、とても車椅子で上り降りできませんが…」
「一応、建築基準に則っています」
「その基準がおかしいと思わなかったんですか?」
「あの付近には学校も多いので、地域の方と会合を持って、検討をしました」
「その会合に、障害者や赤ん坊を持つ親はいましたか?」
 事務的に回答する国土交通省職員に苛立ちながら、僕がそう尋ねると、職員は平然と「いませんでした」と答えた。

 それから数年して、我が街裾野市の隣町である駿東郡長泉町の国道が新しくできた伊豆縦貫道と交差するので、横断歩道は完全に廃絶され、大きな歩道橋ができた。しかし、グルメ街道の歩道橋と同じ型の、広い階段を二分するように60cmのスロープが真ん中にある歩道橋だった。そこには地下道はない。やはり僕は国土交通省に問い合わせをし、グルメ街道の歩道橋について尋ねたのと同じことを尋ねた。すると驚くべき答えが返ってきた。

「車椅子やベビーカーの方は、迂回してください」
 国土交通省職員は、やはり平然とそう言った。

「迂回!?」
 僕は驚愕して、電話口であっけにとられた。



 我が街裾野市側から歩いていくと、その交差点の先にレストランやショッピングモールがある。そちらへ行くために交差点を迂回するとなると交差点から300メートルほど外れ、裏道を下り、更に細い道に折れて下った分を登らなければならない。そしてその細い道には、歩道がない。それを迂回しろというのだ。しかも、「歩道橋を渡るときは自転車は降りて下さい」という注意書きはあっても「車椅子とベビーカーは迂回して下さい」という注意書きもなければ、その案内図もない。



 ところが、伊豆縦貫道の側道を下っていくと、長泉インターチェンジの歩道橋の下にもう一つ大きな歩道橋あるのだが、その歩道橋は階段ではなく、全面がスロープになっていた。僕はそれを見て、一度は感嘆したものの、すぐにやるせない気持ちになった。


「何が建築基準だよ!作ろうと思えば、歩く人も自転車も車椅子もベビーカーも便利に使える歩道橋が作れるんじゃんか!」



 仮に構造的に建築面積が足りなかったとしても、建築のプロが集まる国土交通省で、そうした難関を乗り越える知恵を出せたはずだ。エレベーターを設置するには建築費もかかるし、その後のメインテナンス経費もかかるから無理だとしても、素人考えでも、傾斜の緩くて長いスロープが作れなければ、螺旋状にできたのではないかと思う。

 今年の夏には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるが、国土交通省の言う建築基準というものやバリアフリーへの取り組み方が四半世紀前と何ら変わらないようでは、果たして競技が行われる各会場だけでなく、そこまでの交通や宿泊するホテルのバリアフリーが行き届くのか心配になる。

 もちろん1から10までまんべんなく行き届かせることは難しいが、せめてバリアフリーを検討する会合から障害者や高齢者を排除したり、本来一番便利でなければならない障害者やベビーカーを迂回させるような思考回路では、安心して海外からの選手や観客を迎えることはできない。

 テレビでは、組織委員会会長の失言に騒いでるが、そうした我が国の体質が、国土交通省の時代遅れの体質を反映しているようで、なんだか情けなくなった。

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