#30日物書きチャレンジ day13 恋愛 時代物で400字


 神社の境内で茂みの中に隠れながら太一は昼時だなぁと思っていた。
 太一の頭上で、茂みを掻き分ける音がする。枝葉を割って覗き込んできたのは、遊び相手の梅子だった。
 「太一みーっけ!」
 「見つかった」
 負けを認めた太一が出てくる。全身に葉っぱを引っかけたその様子がおかしくて、梅子はたまらず笑った。
 「なぁに?」
 「ううん。それより、昼ごはんだよ。うちに帰ろうよ」
 「そうだね。あ、あの人」
 太一が指をさす。そこには天秤棒を肩に「ひゃっこいひゃっこい」と叫ぶ男が居た。
 「お水屋さんだ」
 「前はお侍だった」
 「ああ、お侍を売った人なんだ」
 二人は初めて侍の身分を売った人を見た。浦賀にも黒船が来た。徳川様は衰えたと大人たちは言う。時代が変わりだしていることが、梅子には不安だった。
 「ねえ太一」
 「ん?」
 梅子が太一の手を握りしめる。
 「一緒にいようね」
 「……うん」
 太一はぼんやりと返事をしながら、しっかりとその手を握り返していた。

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