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「魂がフルえる本」 その2《爆発せよ!— 『ヤマタイカ』 星野之宣》

『ヤマタイカ』星野之宣
『月刊コミックトム』(潮出版社)1986年11月号初出

「ヤマタイカ」という作品は、ざっくり言うと、沖縄の巫女の血を引く「神子(みわこ)」が主人公で、彼女は邪馬台国の「卑弥呼」の魂を受け継いでいます。   神子は、父や弟と共に、古代に火山と共に生きた「火の民族」の熱い魂を蘇らせようとし、敵と戦いつつ、本来のマツリ(祭り)「ヤマタイカ」を復活させようと奮闘。   沈んだはずの戦艦大和が神子の力で蘇り、日本中の火山が噴火したり、奈良の大仏が動き出したり・・・
壮大なスケールを持つ傑作長編漫画です。

「ヤマタイカ」をはじめて読んだ時、
「そうこれだよ! この解き放つエネルギーの輝きこそが、私にとって〝生きる〟なんだ!」と魂がフルえました。

とにかく全編にわたっておもしろいのですが、中でもなんども読み返してしまうシーンがあります。
蘇った戦艦大和が沖縄の米軍基地を突然砲撃し、日本と米軍は訳が分からずパニックに。 その時、とある広場に現れた神子が、集まった民衆に向かって演説をするくだりです。


「いまあのヤマトをうごかしているのは—あなたたちですっ!」

唖然とする民衆。
しかし、一瞬して正気に戻った民衆が怒鳴り返します。

「頭おかしいんじゃないの? どうしておれたちが — 基地の砲撃なんていつ頼んだ!」
「マツリだか何だかふざけるな? 知らない間に戦争に巻き込まれるのはごめんだ!」

神子は怒号をものともせず、

「うわっつらの理屈なんか 聞きたくないわ」
「見たものを信じればいい」
「自分の心の一番深い声を聞けばいい」

この間、広場にある大スクリーンでは、米軍がヤマトに攻撃を仕掛け、
沈みかける様子が映し出されると、民衆から声が漏れ聞こえてきます。

「・・・・ちくしょう・・・・・!」
「ちくしょ〜〜〜っ!」

神子がすかさず

「怒りを解き放ちなさい!」
「ヤマトは動く!」
「ヤマトを動かしているのはみんなだと言ったはずよっ」
「さあ ウソだと思うならためしてごらんっ!!」

「心の底でくすぶっているものに火をつけてごらん!タガをはずしてごらん!」
「その”力(パワー)”は誰にもおしとどめられないわよ—誰にも!」
「マツリだから!大いなる日本人のマツリだから!!」

この瞬間、神子の訴えが、ビリビリ〜ッ!!と群衆を震わせ、やがてその震えが人々の間に共鳴し、日本中を巻き込んだ巨大なマツリに発展していきます。


私は、爆発することに強く惹かれます。
〝爆発〟とは、その行為に身も心も投げ出し、すべてを〝大いなるもの〟に委ねてしまうことです。

和太鼓が私を〝爆発〟させます。
打ち込むほどに、カラダの中にチカラが駆け抜けるのです。
チカラが走り始めたら、いつまでも打ち続けられます。

もちろん爆発し続けると、肉体的にはシンドイし、キツい。
だから「休みたい・・」という気持ちも当然あります。
しかし、そんな自分の気持ちとは裏腹に、チカラは勝手にあとからあとから溢れ出てくるのです。
まるで真っ赤に燃え流れるマグマの様に。

そんな時、「ヤマタイカ」の登場人物、鉄さんの言葉が頭に浮かびます。

「落ち着くな! 冷静になるなっ!!」

肉体を爆発させること。
そして、それをギリギリのところでコントロールし続けること。

その振り幅を拡げていくことで、不可能が可能になったり、
新しい発見や視点がうまれるのではないでしょうか。

私にとって〝爆発すること〟は、〝シンドイ〟や〝キツイ〟すら乗り越えさせてしまうほど、最高にエキサイティングな体験であり、それが、生きていることを実感させてくれます。

「ヤマタイカ」のマツリも、やがて収束する時が来ます。
ただの爆発では終わらないラストも本当に秀逸です。

古代から日本で繰り返されてきた火山の大爆発 ——
人知を超えるそのエネルギーに、ぜひフルえてください。

『ヤマタイカ』光文社コミック叢書“シグナル” 版「レジェンド オブ ヤマタイカ」

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