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国連人権高等弁務官事務局の人権弁護士辞職後インタビュー

国連人権高等弁務官NY事務局、国際人権弁護士クレイグ・マカイバーが「教科書通りのジェノサイド」を国連が看過している事を理由に辞職。彼は1992から国連の職員であり、90年代にガザで暮らした事もある。

公開辞表の一部。


ガザでは一般市民の住居、学校、教会、モスク、医療機関が無差別に攻撃され、市民が大量虐殺にあっている。占領下エルサレムを含むヨルダン川西岸区域では住宅が収奪され人種によって振り分けられ、暴力的入植者の虐殺が軍隊によって幇助される。全土に渡ってアパルトヘイト制度が支配する。。。加えて米国を始め欧州の多くの国がこの恐ろしい加害を支援している。これらの国々はジュネーブ条約の施行を放棄しただけでなくイスラエルの暴行を経済的に支援し、政治的外交的な擁護をしている。


デモクラシー・ナウで辞職後初めてのインタビュー。



国連がすべき事


グッドマン
:辞職の理由は?

マカイバー:ヨルダン川西岸の虐殺を理由に辞職することは3月に決めていました。当時の国連の臆病な反応や国連を人道問題の上で批判する内部の声(自分も含む)を抹殺しようとしている様子を目の当たりにしました。フラストレーションが高まり、10月いっぱいで辞職する事を決めました。それ以降事態は急速に悪化し、ガザの惨状を見て高等弁務官宛にこの手紙を書く事を決めました。占領地区で起こっていることに関して甚大な憂慮を書き記しておきたかったのです。

グッドマン:国連、米国、英国はどう対応すべきと思いますか。

マカイバー:西側各国は国際法、国際人道法による義務に従って対応すべきです。オスロ合意を後押しした時点で我々は国際法を効率よく放り投げた。政治的便宜を国際法の上位に据えた。それがパレスチナ人の人権を損害することに繋がりました。

世界の国全てが国際人道法、国際人権法を自ら尊重するだけでなく、ジュネーブ条約に則りそれを(他国に)尊重させることが義務だと考えます。米国含む多くの国は影響下にある国(イスラエル)にこれらを尊重させる努力をするどころか、共謀、武装幇助、外交政治扶助、諜報協力をしています。国際人道法違反です。必要な事と真逆な事をやっています。全ての国、国連のメンバーは持つ影響力を総動員してガザ市民への攻撃をやめさせ、加害者の罪を問い、被害者を補償し、弱者を守べきです。

国連には世界中全ての紛争に関して適用される方程式があります。しかしパレスチナーイスラエルの問題になると違うルールが適用されるのです。そこに大きな苛立ちを感じます。一貫した公正手続きはどこにいきましたか?全ての市民のための国連の保護はどこに?法廷の裁きは?占領地区保護の力を持つ唯一の機関である安全保障理事会は何をしている?(今回のパレスチナーイスラエル情勢に関しての)全ての安保理の努力は米国一国の反対で御破算になっている。これが今述べた米国の共犯性です。

国際社会は政治パラダイムに流されすぎた。根本である国際法、国際人権法に立ち返るべきです。オスロ合意、二国家解決などと言うのは単なるまやかし。それに隠れて更なるパレスチナ人からの収奪、膨大な残虐行為が行われて来ました。今現在私達が見ているのと同じものです。住宅と土地の喪失、入植活動。国連内部では二国家解決など不可能だと言うことは皆心得ています。パレスチナ人にとっての国家と言えるものなど残っていない。そしてパレスチナ人の基本的人権は守られていない。新しいパラダイムは全ての人々への平等に基づいて構築されるべきです。平等な権利、キリスト教徒、イスラム教徒、そしてユダヤ教徒です。それが新しいアプローチとなるべきです。

世界人権宣言は1948年に採択されました。同じ年にナブカ(ユダヤ人のパレスチナ(現イスラエル)入植)が起こり、南アフリカでアパルトヘイトが適用されました。国際法、国際人権の国連でのアプローチ、国際的な一般市民からの圧力で南アフリカのアパルトヘイトが終了したのはご存知の通りです。私達は同じ事をパレスチナにできていません。政治的動向を尊重したのです。その結果パレスチナ人への圧政がなくなるどころか、私たちの目の前で悪化の一方を辿って来た。



イスラエルの違法性

グッドマン:イスラエル軍のジャバリア難民キャンプ爆撃についてのCNNのインタビューを見てください。


爆破後のジャバリア難民キャンプ。数百名が犠牲に。


<CNNからの引用>
司会:あなた方は多くの難民が、無垢の市民がそこにいると分かっていたのですよね。?男性、女性、子供達。違いますか?

イスラエル軍中佐:戦争とは辛いものです、私たちは彼らに南に逃げるように、ハマスと関係ない人は南に逃げるようにと伝えて、、

司会:もうちょっと具体的な答えをお願いします。あなた方は市民があそこにいたと知っていた。知っていたにもかかわらず「ハマスの司令官」を殺すために爆弾を落とした訳ですよね。因みにその司令官は死んだんですか?

中佐:まだ確認できていません。最新情報が必要です。彼はちゃんと仕留めたはずです。市民については、私たちは犠牲を最小限にする出来る限りの努力をしています。
<CNNからの引用終>

グッドマン:イブラハム・ビアリ、ハマスのジャバリア部隊の指揮官の事を話しています。彼を空爆により殺した、ハマス高官を仕留めるための空爆であり、市民を狙った訳では無い、との主張ですが。

マカイバー:法廷の場でとても重要になるイスラエル政府の「意図」に関するインタビューです。一人の戦闘員を殺すために、人口密度の非常に高い難民キャンプを壊滅させた。国際人道法違反です。この戦争が非常に特徴的なのは彼らがその意図を公的に発言している、という所です。私はこれはジェノサイドであると辞表書簡に書きました。ジェノサイド、との言葉が非常に政治的であり乱用される、と言うことはご存知の通りです。ジェノサイド認定に関して一番のキーとなるイスラエル政府のジェノサイド的意図。これが今回政府高官によって公に語られています。首相、大統領、閣僚、軍関係者、全員が「戦闘員と市民の区別はつけず、全体的な虐殺を実行する」意図をはっきりと公的ステートメントとして語っています。

一人の戦闘員を消すために全く不均衡な数の市民を砲撃の対象にするのは国際法において正当性がありません。更にこの「南に逃げろと警告したんだ。それに従わない市民は殺しても良い。」との主張は非常に危険で違法なレトリックです。まず、ガザがいかに小さいかを私たちは知っています。230万人が所狭しと住んでいます。そしてインフラも整っていず、過去の戦争により多くの建物は既に崩壊してそのままです。大量の市民がイスラエル政府の言う通り大移動することは物理的に不可能です。そして報道にもあるように南に逃げたところで南でも爆撃を受ける訳です。これは法廷では「一応有利(prima facie case、反論を必要としないほど明らか)」と判断される戦争法の違反です。


イスラエル国連大使の茶番

グッドマン:イスラエル国連大使の発言です。

<イスラエル国連大使ギラッド・エルダン>
(ハマスの奇襲は真空管で起こった訳ではない、と言った国連長官に対して)国連長官、国連はハマスのような野蛮な虐殺を防ぐためにあるのではないですか。国連は機能していない。国連長官、あなたは倫理も道徳も失った。あの奇襲が真空管で起こった訳ではない、と言いましたね。それはテロリズムを容認する事と同意です。テロを正当化しているのです。
<引用終>

グッドマン:どう思われますか。

マカイバー:もちろんイスラエル国連大使は時計を10月(ハマスの襲撃)から始めたい。ガザでの、ヨルダン川西岸での、エルサレムでの数十年にわたるパレスチナ人への迫害は話したくない。それでは現場の状況を和平に導くことはできません。国連長官は彼の仕事をしたまでです。ハマスによるイスラエル市民の犠牲についても非難しました。その上でイスラエルの現在のガザの対応そしてここに至るまでの全ての出来事を非難しているのです。

私たちは失敗した過去のパラダイムから抜け出すべきだ、と私が主張するのは正にそのことです。国際法において人は人権を持っているのであり、国際社会はそれを保護、それに違反する者の責任追及、被害者への救済をする義務がある、との原点に立ち返るべきなのです。

このイスラエル国連大使の寸劇は今まで十分見て来ましたので、あまり驚く発言ではありません。こう言う茶番に惑わされず、ガザの無垢の市民が何千人も命を失っている事、何千人もの子供達命を失っている事に集中するべきです。即時停戦は必須です。そして新しいアプローチで本件を処理し、同じことが何度も何度も何度も起こるのを防ぐべきだ。


国際刑事裁判所

グッドマン:国際刑事裁判所の今回の対応、ロシアーウクライナの時と比べてどうでしょうか。

マカイバー:ウクライナの時と比べて裁判所、検察官の動きの速さに決定的な違いがあります。パレスチナの迫害については何年も引きずって来ました。国際刑事裁判所が批判されるのはイスラエル、米国含む北側の犯罪責任になると態度を弱める所です。責める訳ではありません。この裁判所はとても新しい機関です。政治動向から自らを隔離し影響力を高めるべきです。それができていなかったためにパレスチナの件を前進させられなかった訳ですから。

国際法に基づいた和平解決を望んでいます。それを実現するには国際刑事裁判所はイスラエルなど、強国への例外対応をやめるべきです。この裁判所がローマ規定を重じていると国際社会から認識を受けるまで、やる事は山積みです。


反戦プロテスターへの抑圧。イスラエルはユダヤにあらず。

グッドマン:ホワイトハウス報道官ジャン・ピエールが親パレスチナのプロテストを国内シャーロッツビルで起こった白人至上主義ラリーと比較しました。FOX NEWSのピーター・ドゥーシーとのやり取りです

<記者会見より引用>
ドゥーシー:大統領は国内の反イスラエルのプロテストを過激派と認識していますか?

報道官:ユダヤ人差別はあってはならないものだとの態度を一貫してお伝えしています。大統領は2017年のシャーロッツビル、あのネオナチのマーチを見て大統領選出馬を決めたのです。彼のユダヤ人差別に対する姿勢は当時もそして現在もはっきりしています。当選後もその信念を実行しています。ユダヤ人差別のような醜いレトリックは許されません。
<引用終>

マカイバー:欧米で起こっているこの現象は非常に由々しき事態だと考えます。パレスチナ人の人権保護を訴える人達への言論統制が過去にない規模で行われています。人権保護支援を公的に押さえ込もうとしている。人権保護支援を極右のネオファシストと比べるとはとんでもない事です。これだけではありません、連邦局、州政局、地方政局、そして各大学の職員が声を上げたことによって懲罰を受けている。今起こっている人権侵害、そしてそれに対する米国の役割を批判する声です。

しかし私はこの状況でも躊躇わず声を上げる人々に一縷の希望を見ます。逮捕、警察からの暴力、その他の危険を顧みず、多くの人がプロテストに参加しています。今の状況を続けさせること、人権侵害を許す事に反対するからです。多くのユダヤ人達が「Not In Our Name(ユダヤの名の下でやらせない)」と声を上げています。Jewish Voices for Peace, IfNotNowなどの団体です。彼らはグランドセントラル駅でイスラエル政府のプロパガンダを跳ね除けました。イスラエル政府が「ユダヤ人の安全のために動いている」などと言うプロパガンダです。

NYグランドセントラル駅、ユダヤ人団体によるプロテスト

彼らは世界に向かって証明したのです。イスラエル政府が世界中のユダヤ人を代表していると言う言説は全くの嘘だと言うこと。事実でないだけでなく、それが非常に危険な言説であること。イスラエルは自らの犯罪に責任を負う一国家であると言う事を忘れてはいけません。その責任は全世界のユダヤ人全体にかかるものではないのです。多くのユダヤ人はイスラム教徒、キリスト教徒、と共に声を上げているのです。国内で、国外で。これを終わらせなければならない、と。

グッドマン:アン・バエフスキー(人権とホロコーストの専門家)はガーディアンの寄稿記事であなたを反ユダヤだと批判しました。国連の名を使ってイスラエルを抹消する事を勧めている、と。

マカイバー:アン・バエフスキーは人権擁護者の中では有名人です。イスラエルの人権侵害を批判する者を片っ端から攻撃する事でキャリアを気付いた方です。私はイスラエルの終わりを望むのでなく、アパルトヘイトの終わりを望んでいます。彼女が私をユダヤ差別と糾弾する際に私の書簡から引用した部分は私がキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒に平等な権利を、と主張する部分でした。それをユダヤ差別と言うのなら、対話はもう成立しません。

彼らは自動操縦でこの反論を繰り出して来ますがもうこのようなレトリックに騙される人は少ないかと思います。イスラエル政府の人権侵害を批判することはユダヤ差別では無いと、何度でも、何度でも指摘されれなければならない。サウジを批判するのはイスラム差別ではあに。ミャンマーでの人権侵害を批判するのは仏教差別ではない。インド政府の批判はヒンドゥー差別ではない。そうだと言うなら国際人権の枠組みなど不可能だ。イスラエルの件だけは特別だ、と言うならそれはパレスチナ人差別となるだろう。彼らの人権を認めていないことになるのだから。

多くの人はもうあのような誹謗中傷に騙されない。嬉しいことに人々はより大きな声でパレスチナ人の人権を訴えている。


これから

グッドマン:これからどのような活動をされますか?もう国連職員ではないですね。

マカイバー:これからも国際的な人権活動は続けていきます。1980年から携わっています。国連の名前やしがらみを捨て、自分の名前でやっていきます。私は、国連全体を、、、国連の中の人道職員、人権職員、UNRWA職員(何十人もイスラエルの爆撃の犠牲になっています)を批判している訳ではありません。彼らは素晴らしい仕事を世界中でやっています。国連の政治関連部署がもっと現実的で、原点に基づいたアプローチをするように働きかけて行きたいと思っています。国際人権、国際人道法に則り、実現可能なゴールです。平等に根差したパラダイム、アパルトヘイトの終了、そしてキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒への平等な権利です。

グッドマン:昨日ワシントンDCでブリンケン国務長官の$106Bのイスラエル・ウクライナ支援予算のための上院公聴会でプロテストがありました。Muslims for Just FuturesやDetention Watch Networkなどの団体がブリンケンの背後で血に染まった手を挙げて抗議、そしてCodePinkのメンバーが次々と声を挙げて公聴会を中断しました。元連邦政府職員でイラク戦争に反対して辞職した、アン・ライトも。


<アン・ライト氏の声>
ライト:3500人の子供が死んだ!私は元陸軍大佐で元外交官。今あなたが話しているイラク戦争に反対して辞職しました。あれは酷かった。そしてイスラエルのガザへのジェノサイドを支援するのも同じように酷い!戦争をやめろ!即時停戦を!
<終>

マカイバー:こう言う所に希望を持てます。私は長年の国際人権活動と通して政府の公的機関に失望して来ました。国際公的機関に希望は持てません。希望が持てるのは市民社会です。米国内外の一般市民、私たちは命を、人権を尊重せよと要求しています。議事堂で、市庁舎前で、ホワイトハウスで、グランドセントラル駅で、圧力に負けず声を上げている。変化は彼らから起こる。


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