見出し画像

セカンドチャンス by アニー ⑹

11.私の仕事
Responsibilities

家がなく路上に住んでいたところ、ある家に行くことになり第二の犬生を始めたアニーのものがたり。最終回です。

ナレーション:アニー🐶

私はただのペットではなく、ちゃんと仕事もできます。子猫の面倒はずいぶん見て来ました。猫と犬を一緒に飼っているというだけで驚く人もいますが、うちは全員仲良しです、前述したしろみとデュークの問題を除いては。犬と猫の問題は最初から全くありません。それには私も一役買っているのですよ。

たとえばネコは子供の頃お腹をよくこわしますが、おしりが汚れていることは飼い主はあまり気がつきません。だから私がいつもきれいにしてあげていました。私の赤ちゃんが6匹産まれた時もそうしていたので、違和感はありませんでした。子猫達もまた気持ちよさそうにしていましたし、おしりだけでなく、からだ全体をグルーミングしてあげました。また外から帰った時に雨で濡れている時も、乾かしてあげるのはお得意です。大雨なら飼い主がタオルで拭いてあげますが、小雨の時とかは飼い主が気づかないでいることもあります。でも私はいつも気がつきます。同じように、飼い主がお風呂から出てくると濡れた足を舐めてあげるのですが、飼い主は困ったような顔をします。どうしてなのでしょう?

子猫が大きくなっても、グルーミングはしょっちゅうしてあげます。猫たちもそれが大好きなので私のところに甘えて来ます。人間の使うブラシより気持ちいいに決まってますもの。デュークも私が毛繕いをします。彼は大きな子供ですから。

その他の仕事はといえば、人が来たら吠えてそれを教えます。お客がドアベルを鳴らすよりずっと前に私たちの方が気が付きます。これは3匹共通の仕事です。他の2匹の方が声が大きいので私の声はかすみ気味ですが、ちゃんと吠えています。
私は吠えるべき人とそうでない人を区別できますが、他の2匹は誰でも彼でも吠えます。特にデュークはちょっとやり過ぎでよく怒られています。例えばドライブ中に道を散歩している犬を見ると、彼は車の中からけたたましく吠えます。いつも怒られますが、やはりいつもやります。

人間以外の外敵に吠えるのは重要な仕事です。都会では必要ないことですが、この辺りにはコヨーテが生息しています。コヨーテの鳴き声はなんとも気味の悪いものです。いったい何十匹いるのだろうと思えるようなすごい音量で、犬やオオカミの遠吠えとも違い、言ってみればお化け屋敷の笛のような音です。コヨーテは猫や子犬を襲うので、彼らが近づいてくると私達は全員で吠えて、ここへは来ないように警告します。私達くらいの中型犬以上になると襲われることはあまりなく、むしろ犬がいるとコヨーテは近づいて来ないと言う人もいるので、少しでも気配がすると私達は庭へ全員出動して、コヨーテを追い払うように吠え続けます。その時もしネコが外に出ていたら、私達の声がすれば、ネコは安心して帰って来れるのです。でももしコヨーテの鳴き声だけがしていたら、ネコはその場を動かないか、どこか遠くへ行ってしまうかもしれません。

画像3


デュークはある時とんでもないことをして、飼い主にとても怒られました。公園内を散歩していた時に、すれ違った小さな子供に近づいて行き、子供が手に持っていたキャンディーの匂いをクンクンと嗅いでしまったのです。ちょうど子供の手の先がデュークの鼻の高さにあったようです。飼い主は必死にリードを引っ張りましたが、デュークが理性を失うと飼い主の力では制御できません。子供はびっくりしてキャンディーを地面に落として、大声で泣き出しました。犬に手を噛まれると思ったのでしょう。デュークは今度は落ちたキャンディーを勝ち取るべく、飼い主が黄色い声をあげて必死に引っ張っているのに、あと一歩の所に落ちたキャンディーを拾おうと踏ん張っています。

これだけのことなのですが、人間同士の間では大事件でした。幸い子供は怪我もなく、子供の親もデュークが子供を襲うつもりではなかったことがわかり、裁判などの大騒ぎにはしないでくれました。でもこのような場合相手によっては、飼い主は逮捕され、犬は殺されることもあるらしいです。アメリカは怖い所だといつも言っています。

画像2


12.「そしていつまでも幸せに暮らしました。」
We lived happily ever after.


その他の私の役目は、飼い主をハッピーにすること、かな。飼い主は私達が楽しそうにしていればハッピーらしいので、毎日楽しく生きることが私の仕事かもしれません。飼い主は私のことが大好きなので、いつもそばにいてあげます。

うちの飼い主は完璧ではないけれど、ひとつだけ信頼できることがあります。それは、私はもう二度と捨てられないだろうということです。私は彼らがなぜ何回も引越しをするのかはわかりませんが、何度引越してもいつも全員を連れて行きます。だから何時間飛行機に乗って離れ離れになっても、その後で会えてまた新しい家へ行くだけだとわかっています。

画像4



この家に引き取られてから、早10年が経とうとしています。私の人生の殆どは彼らと過ごしているのに、ここはやはり私にとっては第二の家です。そして私の場合、第一の家では辛い思い出が多く、それを忘れることができません。たとえ怖い飼い主でも、捨てられるのはもっと辛いことです。だから人に置いていかれるのが怖く、昔よく車の傍にいるのを好んだのも、車から離れては置いて行かれるという不安があったためでした。でも幸いもうそれは心配していません。私には第二の人生が開けてラッキーでした。生涯同じ飼い主だったしろみにはわからないでしょうが、デュークもまた第二の家を見つけることができて、ラッキーだったということをよくわかっています。デュークもまたここに来る前、しばらくホームレスをやっていたからです。彼がここに来た時は、全身に切り傷やアザがあり、毛並みはとても硬く、体は痩せ、顔つきは怖く、人間でいうとチンピラのようでした。でも次第に健康状態は良くなり、毛並みも柔らかくなり、目の上にあった大きなできものさえも消えてしまったのです。これは飼い主がとても喜んで、また驚いていることの一つです。私もここへもらわれた頃の私を知っている人に会うと、表情がやわらかくなったとよく言われます。

多くのペットにとって、初めの家が何らかの理由でうまくいかなかった時、またはどこかに捨てられた時、それを引き取ってくれた人とうまくいく例は数限りなくあります。二度目の家が見つからないために生涯を終えてしまう犬やネコが一匹でも減るような社会になるように、人間の皆さまにお願いしたいです。

終わり

画像4



< あとがき by 飼い主 >

この話をここまで読んだ下さった皆さま、ありがとうございました。
アニーはうちにやって来た時は推定1歳で、その後15年の歳月を共にしました。当初、ムダ吠えをしないように声帯を切られているとのことを、以前に世話をしていた人達から聞きました。その手術の跡もありました。他にも人間を怯える様子が見られ、悲しい人生の始まりを経験したようです。

何年も経ってから、カラカラながらもなんとか声が出るようになりました。コヨーテを追い払う任務を遂行するために、ガラガラ声で発声練習をしてくれたのかどうかはわかりませんが、それ以外は病気にも無縁で、たくさんの犬と子猫のナニー役を見事にこなしてくれました。一家のしっかりものぶりは読んで頂いた通りです。

私達が日本を去った頃、シェルター的なものは日本社会にはありませんでした。または誰も知りませんでした。殺処分する保健所があっただけでした。今では保護センターやボランティア、保護犬、ネコという言葉も普通に使われ、犬を家の中で飼うことも当たり前になり、たくさんの心優しい人々が、動物達によってさらに優しくなれる社会となりつつあるようで嬉しいです。
 
犬やネコを引き取ってくれた多くの飼い主さま、自分では飼えないためにボランティアを選ぶ方々、毎日本当にありがとうございます。
彼らのおかげで私達の人生も何倍も豊かになりますね!


もしもサポートを戴いた際は、4匹のネコのゴハンやネコ砂などに使わせて頂きます。 心から、ありがとうございます