見出し画像

家に住めない人との旅  9

自己愛性人格障害の被害に遭う人のタイプは似ています。人が良く、他人を「可哀そう」と思ってしまう理由を見つけてしまう人。いろいろあるかもしれませんが、これが一つ。

ある専門家は言います。

「自己愛の人を変えることはまずできない。あなたは200年かけてそれをトライするかもしれないけれど。でもあなたがもし去れば、彼はその代役を15分以内に見つけるでしょう。」

彼らはバンパイアであって、血が吸える人なら誰でもいいのです。私が彼を変えようとするなら、バンパイアを普通の人間に矯正しようとするようなもので、やはり無理でしょう。

それでもバンパイアから去ることが難しいのは、これは被害に遭った人でないとわかりにくいかもしれませんが、彼らは命がけで引き留め作戦にかかります。彼らとしてはある程度投資して、従順になるように訓練してきた大切な獲物ですので、簡単には逃すまいとします。ただ中には、

「ふざけんじゃねーよ」

「やってられっか」

と言える強い女性もいるので、そういう場合はまず追われないでしょう。これは間違って網に引っかかってしまって、双方とも本性を発揮するのが少し遅れた場合だと思います。

しかし元々その「素性」があった人は、この引き留め作戦にNoと言うのは結構大変です。私も以前は、たとえば夫に殴られ続けているのに別れないでいる女性のことを理解できませんでした。「私なら絶対・・・」というのは、本当にその人と全く同じ境遇にいない限り、実際には言えないものだと思います。

そして私のような「弱点」も持っていれば尚更。。

彼は私を真剣に愛しているでしょう。これが彼の唯一の人を愛せる方法だからです。健全なものではないかもしれませんが。本当のところは誰かを愛する余裕などないのです。自分のことで手一杯なのです。私の彼への愛もまた健全なものではないでしょう。つまり私達は不健康同士どろどろして、納豆のようにねばねばして、離れそうで離れられない関係なのです。

✴︎

自己愛の人は自分が利用できるタイプの人だけをターゲットにします。彼は当初から私のヘルプを当てにしていました。なので「可哀そう」「助けてあげたい」という人は彼にとって報酬に近く、見つけたらまず手放しません。私は当時車があったので、足がない彼の用事をあちこち済ませるのを手伝い、キャンプができるサイトを探し、トレイルに行く時は2時間運転して送り出し、途中で下山したと言えば2時間かけて迎えに行き、数日後にまた送り出し、など色々しました。
 
また、アメリカではバックパッカー(登山者)を助けるのが当たり前、というカルチャーが特にこの辺ではあり、トレイルでは私でなくても道行く人に、多ければ一日10人くらい出会って助けてもらうそうです。車に乗せてもらったり、ランチを買ってもらったり、キャンプサイトの料金を払ってもらったり、ハイキング用のギアをもらったり。。。なので、私も郷に入り従ったわけです。そして最初にトレイルに送り出した時は「なんと手のかかる人」と思い、送り出してホッとしたのを覚えています。一方彼はその後何マイルも泣きながら歩いたということで、ママと別れた5歳児に戻っています。

✴︎

ろくに感謝の言葉がないのも、自己愛に多い特徴です。自分が受ける好意や親切は当然のもの、と考えているところがあります。母親にあまりありがとうって言わないですよね、5歳児は。

付き合いだしてからの彼は、私のお金を当てにするようになりました。私はその頃はまだ貯金が少しあったし、彼は病気のため仕事ができず、障害者保険も5か月も入って来なかったので。彼は会うたびに、

”I need $60 / $100."

と要求するようになりました。そして感謝の言葉はありません。

“Can I borrow〜 ?”

という風に、人にものを頼む言い方ではなく、どちらかというとピンプ(売春組織の元締め)のような言い方です。

時には、お金が入ったら返す、と言いますが、大抵は忘れているか最初からその気はないかもしれません。返って来たことは滅多にありません。

彼のお金の使い方はこれも6歳児同様で、お金が入金されたら欲しいものをまず買ってしまいます。彼の場合ですと、クールに見えるための車のパーツなどで、彼の話すことは「あれが欲しい」「これが欲しい」ばかりです。そしてお金がなくなると、翌月入金されるまでじっと待っているのです。食べるものがなくても、ガソリンがなくてどこへも行けなくても、シャワーに2週間入れなくても、暖房がなくても、原始人のように我慢ができるのです。

時にはお兄さんやお母さんや私がカンパをします。

ここは本当にバカなところですが、私は貯金をつぶしてしまいました。それは彼がいつ死ぬかわからない、というのがいつも脳裏にあったためです。多くの人は目の前の愛する人が死ぬと思ったら、お金を惜しまないでしょう。そして彼はまた(これも自己愛の特質)相手からお金を出させる才能にそれは長けているのです。つまり、人を利用するのがとてもうまいのです。私もその身の上話をことある毎に、うま~いように聞かされ、彼は味を締めていったのでした。私が特別お人好しなのもあるでしょうが、それは本当の話でもあり、かつ白々しさのない本当に微妙なワザなのです。そしてこういう人たちは、助けてあげている相手を心理的に満足させるような術さえ知っています。

✴︎

これらの事は距離を置き始めた後でわかったことで、目の前で起こっている時には気づきません。馬鹿な女といえばそれまでなのですが、「こいつまた演技だな」とは思いつかないのです。

そういう訳でも自己愛の人を見たら、
”Run, don't walk.” (歩いている場合じゃない、走って逃げろ)
と巷では言われているのです。


(次回、最終回へつづく)

もしもサポートを戴いた際は、4匹のネコのゴハンやネコ砂などに使わせて頂きます。 心から、ありがとうございます