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【インタビュー】映画プロデューサー・福間美由紀さんに聞く②

みなさん、こんにちは!
東京国際映画祭学生応援団です🎬

今回は、映画プロデューサー・福間美由紀さんへのインタビュー後編をお届けします!

福間さんは、是枝裕和監督が率いる映像制作者集団「分福」に所属し、『真実』(日仏合作)、『ベイビー・ブローカー』(韓国)のプロデュースを行うなど、国際的にご活躍されている映画プロデューサーです📢

後編では、福間さんの考える映画プロデューサー像ついてお聞きしていきます。ぜひ、最後までお楽しみください💁‍♂️

«Profile»

福間美由紀 Miyuki FUKUMA
プロデューサー。島根県出身。東京大学大学院修了。映像制作会社を経て、2014 年に制作者集団「分福」所属。是枝裕和監督作品の企画開発・海外展開に継続的に携わり、『真実』(日仏合作)、『ベイビー・ブローカー』(韓国)のプロデュースに参画。早川千絵監督・石川慶監督らが参加したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』、中村佑子監督『はじまりの記憶杉本博司』、ピエール・ユイグ『Human Mask』など国際共同製作や美術関係の映像作品も手掛けている。

«Interview»

≫映画プロデューサーとは

ーー福間さんが思うプロデューサーの仕事・役割について教えてください。

プロデューサーにも色んなタイプやスタイルがありますし、作品の規模や座組みによって仕事の範囲も変わってきます。私が所属する分福は、是枝・西川から若手まで監督たちを中心とした企画制作会社です。私が分福でプロデュースする時には、「監督の企画を 1 番よい形で実現できるように併走しながら、戦略をもって、作品や作り手の可能性を最大化させていく」ことが自分の役割だと考えています。

監督が企画の何を面白がり、どこに悩んでいるのかというのを寄り添いながら理解して、監督が企画に込めようとしているものを外に引き出せるようにしていくことまた、チームやプロジェクト全体の様々なバランスを見ながら環境を整えていくことが私の仕事です。

【小津安二郎の言葉をヒントに…】

ご存知かもしれませんが、例えば、小津安二郎は、40 年代ぐらいに書いている本の中で、「映画の企画を実現していくプロセスでは、作品の企業性という流れと、芸術性という流れが大事」という言い方をしていました。

1人の発意から生まれた企画の種が、やがて実を結んで、最終的に無数の観客に届くまでに、作品の内部と外部で色々な問題に直面して行きます。外部は、ファイナンスや収益配分、労働環境、契約などですね。このような作品の外側にある商業性、小津の言葉を借りれば、企業性の部分を整えていくことがプロデューサーの仕事だと思います。

逆に、作品の内側にある芸術性は、もちろん脚本や編集にも率直に意見しますが、基本的にはクリエイターの才能を信じ、クリエイターがイニシアチブを持って進めていくのが 1番だと思っています。

【短期ではなく、長期的な視点を持つ】

また、作品も作り手も短期的に捉えるのではなくて、2年後、5年後、どういう風になっているかということも併せて考えることが重要です。

例えば、デビュー作は監督のオリジナリティが色濃く出やすくて、面白さや評価の一方で、広がりに欠けることもある。1 本目はこういうものを作ったら、2 本目はもう少し間口を広げてみようかとか。あるいは、成熟期にある監督が、その方法論や作風を確立して継続させながら、いかに新しいチャレンジを取り入れていくかとか。

そんな風に、1本単位で短期の目先の利益だけを考えるのではなく、時間軸をおいて複数の作品を視野に入れながら、ちゃんと次に繋がるように、息長くよい形で作り続けられるように、フィルモグラフィ全体の中での位置づけまで考えていくことが重要じゃないかなと思います。

そういう意味では、監督以上に俯瞰的、包括的な視点を、プロデューサーとして持っていたいという思いはありますね。

≫海外での映画制作について

ーー『ベイビー・ブローカー』の様に、日本の監督が海外で映画を作る場合、日本のプロデューサーとしてどのようなことが大切だと思いますか。

海外で制作する場合、海外のプロデューサーと、日本のクリエイターの「間」に立って、複数の視点をうまく作品に活かせるように戦略と意識を持つことが大切です。

海外でも、映画づくりの基本の形は同じなんですが、それでも、物作りの価値観であったり、映画製作をめぐる商習慣や現場習慣が、日本のクリエイターの流儀や方法論とは異なることが多々あります。その違いやズレを放置しておくと、現場で落とし穴になりかねない。日本のプロデューサーは、予めその点を把握して、監督がアウェイの現場でもやりやすいようにギャップを最小限にできるよう、海外のプロデューサーと密に連携して、実務的に環境を整えていきます。

この時に、たとえ作品のメイン出資やメインマーケットが海外であったとしても、日本のプロデューサーがきちんと対等な発言権を持って意思決定に参画することがやはり重要なんですね。対等に話し合える関係性を丁寧に築いておくことが、最終的に、クリエイターのビジョンをチーム全体が共有して尊重しつつ、複数の視点を取り入れながら作品の強度やポテンシャルを高めていくことに繋がると思います。

≫目標にしている映画作りとは

ーープロデューサーとして、どのような映画作りを目標としていますか。

まずはよい映画を作って、1 人でも多くの人に楽しんでいただくことですね。そして、しっかりとリクープして作り手にリターンがあることは本当に大きな目標で、実現したいと思っています。

そのために、収益をより大きくするというビジネスモデルをきちんと立てて映画制作に臨みますが、仮にヒットしたとしても、クリエイターたちが満足しないでプロジェクトが終わった場合、その作品は幸せな成功だとは言えないと私は思います。1本の映画に、収益以上の財産や価値が残る場合もあるんですね。収益を大きくすることはプロデューサーの責任です。ただ、私がやっている映画作りというのは、それが一番の目的や喜びではないということです。バランスが難しく、大事ですね。

私だけでなくたくさんの監督やプロデューサーがそうだと思いますが、今年の 4 月に亡くなられた佐々木史朗さん(映画プロデューサー)が仰っていた「10 本作って、6本は赤字、3本トントンで、1 本大ヒットすればいい。」という言葉は大きな支えになっています。それだけ映画の興行を成功させることは難しい。打率を上げる努力もしながら、それだけではなく、作品のクオリティであったり、その映画の志であったり、国際的な評価であったり、新しい才能の育成であったり、数字には還元されない部分もとても大切で、重視していくべきだと考えています。

だから、まずはクリエイターに本領を発揮してもらえる土壌を作って、とにかくよい作品を生み出すこと。それをどうビジネスと芸術の両面で成功させるかはプロデューサーの戦略が問われてくることだと思います。

≫映画の多様性・日本版CNCについて

ーー是枝監督が中心となって進めている日本版CNCについてどのようにお考えですか。

やはり、日本版 CNC は必要です。フランスと韓国で作ってみて、映画の文化と産業の両面を牽引しながら守っていく中央組織というのは必須だと実感しました。ヒットした商業大作だけが潤うのではなく、業界全体の興収の1%を、チャレンジングな企画や若手の作品にも製作支援として、あるいは、労務対策・人材育成支援として循環させる仕組みは、日本映画の豊かさを支えていく上で不可欠だと思います。

今まで日本映画の多様性は、作品に関わる方たちの情熱と献身に甘えて成り立っていたところが大きいです。映画の世界には労働を超えた魔法のような魅力があるのも確かなんですね。ただ、今後は一人一人が経済的にも権利的にも守られた環境で、良い作品を生み出していかなくてはなりません。業界の未来のために火急の課題です。

簡単なことではないですが、若い人たちが夢をもって志せる、あるいは、子育て中のスタッフの方たちも安心して働ける、誰もが選んで良かったと思える映画業界にしたいですね。


以上で、インタビューは終了です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
映画プロデューサーについてや、福間さんの映画への向き合い方についてなど、多くの学びがあったのではないでしょうか。

次回の記事も、ぜひお楽しみください💁‍♂️

取材日:2022年10月30日
取材・執筆:相馬、舩橋

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