近代建築をめぐる 阪神編
世界三大建築家の一人と言われるフランク・ロイド・ライト。彼の作品群が今年、世界遺産に決まった。
その作品はすべてアメリカにあるものの、兵庫県芦屋市にあるヨドコウ迎賓館は彼の作品群として追加登録候補になっている。今年の春に改修工事を終えた所で突然の大きな話題。これは行くしかないと、今回のメインに考えていた。
旅の前日に知ったのが、なんと当日の夜に丁度ナイトツアーが開催されるというじゃないか!これは願ってもみない僥倖。大阪に宿を取ったものの、急遽阪急電車に乗って、高級住宅街と言われる芦屋に向かった。
ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)1924年
阪急の芦屋川駅で降りると、すでにホームからは丘の上にライトアップされた迎賓館が見えていた。静かできらびやかな住宅街、大阪の喧騒を抜け出してきただけにそれが一層際立って感じられた。坂を上ると、明かりに照らされて浮かび上がる邸宅。そしてツアーに参加したたくさんの建築ファンが集まっていた。
ライトは大正時代に来日し、帝国ホテルを代表作とするいくつかの建築を日本に残している。現存するのは4作品で見ることができるのはこの場所を含め、明治村に移築された帝国ホテルの正面玄関と、池袋にある自由学園の3作品のみ。
照明で浮かび上がる大谷石の陰影
ここでも使われているのが栃木県で採掘される大谷石。加工しやすいことが特徴で、ライト作品に使われる大谷石はこのような幾何学的な彫刻が施されている。
2階応接室
ガイドツアーはガイドから貴重なお話が聞けるのが嬉しい反面、人がいっぺんに集まるのでなかなか建物の写真が撮りづらい...
ツアーが終わって人が帰り始めるのを狙って、応接室を撮影。天井に照明は無く、日中は上部にあるたくさんの小窓から光を取り入れる。それだけ日当たりが良いのだろう。
模型を見ると、ずいぶんと急な斜面に建てられていることが分かる
4階建てで、1階は玄関と車寄せのみ
トレードマークにもなっている飾り銅板
銅をあえて酸化させて緑青を出すことで、植物の葉を表現している。ライトは有機的建築と言って、作品を通じて自然との調和や人間的豊かさを追求した。このあたり、ツアー中にガイドさんが教えてくれるのがありがたい。見るポイントが分かると建物巡りはもっと楽しくなる。
4階バルコニーから室内を撮影
迎賓館からの夜景
なだらかな丘陵とコンビナートの輝きが美しい
4階食堂 シンメトリーにこだわって作られた一室だ
建物が作られた大正時代にあって、照明やキッチンの設備はすべて電化製品が使われていた。一般的な家庭でそんな設備はまず存在しなかった時代。街にも電気は引かれていないはずだ。では、どうしてこの家では電化製品を使う事ができたのだろう?
答えはなんと、ここに住んでいた山邑家(灘の酒造家)が阪急電鉄と個人契約で鉄道用の電気を家まで引っ張ったという(!)
この話にはさすがに仰天、恐るべきブルジョワジーの発想だ。
大丸心斎橋を通じて見えた御堂筋の消費文化の華やかさ然り、輝かしいものを見ると一方で、大正・昭和前期の階級社会という陰の部分も浮かび上がってくる。近代建築にはそんな風に、時代性を可視化するアイコン的役割もあると思う。
1階入り口
この狭さには驚いた!木製のドアが石に埋もれているようで、まるでこれから洞窟に入っていくようなダンジョン感
ガイドさん曰く、この狭い入口というのは落水荘にも通じるライトのスタイルらしい。
落水荘というのは彼の作品の代表作でアメリカ・ペンシルベニアにある滝の上に作られた住宅のこと。建築ファンなら誰もが一度は言ってみたい場所ではないだろうか。
このヨドコウ迎賓館、世界遺産登録の件もあってかこの日も50人ほどツアーに参加していた。次回、機会があれば是非昼の雰囲気も味わってみたいところだ。晴れた日にバルコニーに上がれば、陽だまりを独り占めするような贅沢な時間を味わえるに違いない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?