いろとりどりの真歌論(まかろん) #1 与謝野晶子

冬の夜の星君なりき一つをば云ふにはあらずことごとく皆

与謝野晶子

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 この歌は与謝野鉄幹を亡くしたときに与謝野晶子が詠んだ挽歌だという。

 よく、「亡くなった人はお空の星になるんだよ」という言いかたをすることがある。
……が、その時に想定される星とは夜空のどこかにあるたった一つの星のことだろう。
「一つをば云ふにはあらず」と念押しするくらいありふれている解釈だ。
それを、鉄幹大好き晶子は「鉄幹は夜空すべての星になった」と言ってのける。
このスケールのでかさと愛のでかさといったら。
己の愛をありふれた言葉で描こうとしない晶子の才覚と矜持。
いやあ、男前ですね。
鉄幹のよさはわからないが、晶子の才能はすごいと思う私なんかにしてみれば、そんなしょうもない男のどこが好きなんだ、晶子ほどの才覚が惚れる価値などかけらもない、と思うが、そんな晶子にここまで才覚をほとばしらさせるのだからもう、認める他はない。
いや、私が認めるかどうかなんてどうでもいいんだけど。

 詩とは、既存の概念に対して、既存の言葉遣いに対して疑いの目を向け、世界を新鮮にとらえなおさせるものだ。
優れた詩人は世界の新しい一面を読者に提示し、それに魅了された読者はもはやそれを世界の当然の姿だと思い込む。
だから、さらに新しい世界の姿を誰かが提示しようとする。
でも、いまだに、亡くなった人は無数の星の一つになることが常識らしい。


☆挽歌……バンカ。亡くなった人を思って詠む歌のこと。

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