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祖母の遺品

中村弘樹は、祖母が亡くなった後、彼女の古い家を相続した。祖母の遺品整理をするために一週間の休暇を取り、久しぶりに訪れた家は、彼が幼い頃に過ごした思い出の詰まった場所だった。

物置部屋で、彼は一体の古い人形を見つけた。その人形は、古びたドレスをまとい、顔には精巧なペイントが施されていた。特にガラスのような青い目が印象的で、どこか悲しげな表情を浮かべていた。

「この人形、祖母が大切にしてたんだな…」

弘樹はその人形を手に取り、自宅のリビングに飾ることにした。

次の日、弘樹は仕事から帰宅すると、人形の位置が微妙に変わっていることに気づいた。リビングの棚に置いたはずの人形が、ソファの上に座っていたのだ。

「誰かが動かしたのか…?」

彼は同居している妹の美咲に確認したが、彼女は何も知らないと言った。

「兄さん、疲れてるんじゃないの?」

弘樹は少し安心し、夕食を済ませて再び人形を棚に戻した。その夜は、何事もなく過ぎ去った。


三日目の夜中、弘樹は突然子供の笑い声で目を覚ました。驚いて起き上がり、家中を見回したが、誰もいなかった。冷や汗が頬を伝う中、彼は自分が何かの幻聴を聞いたのだと自分に言い聞かせた。

次の日、家具の位置が微妙に変わっていることに気づいた。リビングに置いた人形も、少しずつ位置を変えているように思えた。弘樹は不安を覚えながらも、それが現実なのか夢なのか判断がつかずにいた。


その夜、弘樹は奇妙な夢を見た。夢の中で、彼は祖母の家にいて、祖母が彼に向かって警告していた。

「その人形には触れてはいけない…」

祖母の声が頭の中に響く中、目が覚めた弘樹は冷や汗をかいていた。

「ただの夢だ…」

彼はそう自分に言い聞かせたが、心の中に不安が残っていた。


次第に、弘樹の周囲で奇妙な現象が頻発するようになった。家具が勝手に動く、人形の位置が変わる、夜中に響く子供の笑い声。さらには、弘樹の友人や家族が次々と不幸に見舞われるようになった。友人の一人が突然の事故で入院し、もう一人の友人は家族との関係が急激に悪化した。

「これは人形のせいなのか…?」

弘樹は恐怖と不安に包まれながらも、人形について調べることを決意した。


祖母の日記を見つけた弘樹は、その中に人形についての記述を見つけた。日記には、人形が祖母にとって特別な存在であり、その人形にまつわる呪いについて書かれていた。

「この人形には呪いがかけられている…」

祖母はその呪いを封じ込めるために、特別な儀式を行っていたことが判明した。しかし、祖母が亡くなったことでその呪いが再び解き放たれたのだ。


弘樹はその事実に恐怖を覚えながらも、呪いを解く方法を探すことを決意した。彼はインターネットや図書館で情報を集め始めた。ある日、彼は古い書物の中に、人形の呪いを解くための手がかりを見つけた。

その書物には、呪いを解くためには人形の持ち主がその人形の過去を知り、過去の罪を償う必要があると書かれていた。弘樹はさらに調査を進めることにした。


弘樹は祖母の家を再訪し、人形の過去を探るために徹底的に調査を行った。祖母の家の書斎で古い手紙と写真を見つけた。写真には、若き日の祖母とその友人たちが映っていた。そして、手紙には恐ろしい事実が記されていた。

「この人形は、祖母の友人である美代子さんが娘の死を悲しんで呪いをかけたものだったのか…」

祖母の友人である美代子さんの娘が事故で亡くなり、その悲しみから彼女は呪いの儀式を行い、その結果として人形に怨念が宿ったのだった。祖母はその呪いを封じ込めようと努力したが、完全には封じ込められなかった。


弘樹は美代子さんの家を訪れ、真実を知るために彼女に会った。美代子さんは老齢で弱っていたが、彼の話を聞いて全てを話してくれた。

「私はあの時、娘を失って狂ったように呪いの儀式を行った。でも、その結果として人形に怨念が宿り、私はそのことを後悔している…」

美代子さんは涙を流しながら話した。

「どうすれば呪いを解くことができるんですか?」

弘樹が尋ねると、美代子さんは静かに答えた。

「呪いを解くためには、私が娘に対して行った過ちを認め、謝罪しなければならない…」


弘樹は美代子さんと共に、呪いを解くための儀式を行うことを決意した。彼は人形を持って美代子さんの家に戻り、彼女が娘の墓前で謝罪するのを見守った。

「美代子さん、これで本当に終わるんですか?」

弘樹が尋ねると、美代子さんは静かにうなずいた。

「これで呪いは解けるはずです…」

その言葉に安心した弘樹は、人形を美代子さんに返し、家に戻った。


数日後、弘樹の周囲で奇妙な現象が再び起こり始めた。夜中に家中に響く子供の笑い声、家具が勝手に動くなど。美代子さんの謝罪では呪いは完全に解けていなかったのだ。

「これでは終わらなかったのか…」

弘樹は再び恐怖と不安に包まれながら、人形の呪いを解くための最後の方法を探すことを決意した。


その晩、弘樹は夢の中で再び祖母に会った。

「弘樹、気をつけなさい。呪いは完全に解かれていない…」

祖母の言葉に導かれ、彼は再び人形について調査を始めた。ある日、彼は図書館で古い新聞記事を見つけた。その記事には、美代子さんの娘が亡くなった事件の詳細が書かれていた。

「これはただの事故ではなかった…」

記事によると、美代子さんの娘は祖母が関与する儀式の失敗によって命を落としたのだった。真相を知った弘樹は、すべてのピースがはまったことに気づいた。


弘樹は美代子さんの家を再び訪れ、真実を告げた。美代子さんは驚きと悲しみで泣き崩れた。

「私はあなたの祖母が娘を殺したことを知っていたが、真実を隠すために呪いをかけたの…」

美代子さんの告白により、呪いの真相が明らかになった。弘樹は最後の儀式を行うために、美代子さんと共に再び祖母の家を訪れた。


祖母の家の書斎で、弘樹と美代子さんは真実の儀式を行った。祖母の霊を呼び出し、過去の過ちを正すために儀式を進めた。

「私たちはあなたの過ちを許し、娘の魂を解放します…」

その言葉と共に、部屋中に強烈な光が差し込み、祖母の霊が現れた。祖母の霊は涙を流しながら、謝罪の言葉を口にした。

「ごめんなさい…すべて私の過ちでした…」

光が収まると、部屋は再び静寂に包まれた。人形は完全に動かなくなり、弘樹と美代子さんは安堵の表情を浮かべた。

「これで本当に終わった…」

弘樹はそう自分に言い聞かせながら、人形を静かに書斎に戻した。


数日後、弘樹の周囲で奇妙な現象は完全に消え去った。彼は日常を取り戻し、美代子さんとも和解し、過去の過ちを乗り越えた。人形の呪いは解かれ、すべてが平穏を取り戻したように見えた。

しかし、ある夜、弘樹が寝室に入ると、部屋の隅に置かれた古びた人形が彼をじっと見つめているのに気づいた。その青い目には、何か言いたげな光が宿っていた。

「まだ終わってないのか…?」

その瞬間、背後から冷たい手が肩に触れ、弘樹は振り返ることができなかった。恐怖に包まれたまま、彼はその夜を過ごすことになった。

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