ストーカーの恐怖

日下部明日香は、忙しい毎日を送る平凡なOLだった。ある日、彼女は仕事を終えて帰宅途中に、背後に感じる視線に気づいた。何度も振り返ってみるものの、誰もいない。しかし、その異常な気配は消えなかった。

最初は気のせいだと思っていたが、数日後、彼女のポストに奇妙な手紙が入っていた。「君を見ている」という一言だけが書かれていた。明日香は寒気を覚え、警察に通報することを考えたが、具体的な証拠がなかったため、様子を見ることにした。

その日から、明日香は自分の生活が誰かに監視されているように感じるようになった。家の窓から外を覗くと、時折、遠くからこちらを見つめる人影が見える。しかし、確認しに行くと誰もいない。仕事場でも、誰かの視線を感じることが増え、精神的に追い詰められていった。

同僚の佐藤健に相談してみたが、「ただのストレスじゃないか？」と軽く流されてしまう。健は明日香のことを心配してくれたが、それ以上は深く関与しなかった。

ある晩、明日香は帰宅して自室に入ると、部屋が微妙に変わっていることに気づいた。机の上に置いていた本がずれていたり、クローゼットの扉が少し開いていたり。何かがおかしいと感じ、警察に通報することを決意した。

警察が到着し、部屋を調べたが、侵入の痕跡は見つからなかった。警官は「おそらく気のせいでしょう」と言って帰っていった。明日香はますます不安を募らせた。

次の日、仕事に向かう途中で、彼女のスマートフォンに匿名のメッセージが届いた。「警察に通報しても無駄だよ。君を見ている」。明日香は恐怖に震えた。誰かが自分の行動を完全に把握している。

その夜、彼女は部屋中に防犯カメラを設置することに決めた。少しでも安心するためだった。次の日の朝、カメラの映像を確認すると、深夜に不審な人影が部屋の中を歩き回っているのが映っていた。顔はマスクで隠されていたが、その人物は明らかに部屋に侵入していた。

明日香は再び警察に通報し、映像を見せた。今度は警察も事態を重く受け止め、捜査を開始した。だが、その日から、明日香の周囲で異常な現象がエスカレートし始めた。

彼女の家の周囲に見知らぬ車が停まっていたり、見知らぬ番号からの着信履歴が100件以上あったり。ある晩、明日香が帰宅すると、自室の壁に「逃げられない」という血文字が書かれていた。

明日香は恐怖のあまり、しばらく友人の真美の家に避難することにした。しかし、真美の家でも異常な気配は消えなかった。ある日、友人が仕事に出かけた後、明日香が一人でいると、再びスマートフォンにメッセージが届いた。「どこにいても見ている」。

明日香は身の毛もよだつ思いで、再び警察に通報した。警察は彼女を保護し、安全な場所に避難させることを決定した。

避難先で明日香は少しの間だけ安堵を感じたが、異常な出来事は続いた。ある晩、部屋のドアがノックされ、警察官が立っていた。「佐藤健さんが行方不明になりました」という知らせだった。健が何かに巻き込まれたのではないかという不安が募った。

健の失踪後、しかし明日香は自分の身の周りで起こる出来事に共通点があることに気づいた。全ての出来事には健が関与していたのだ。明日香は健の行方を探し始め、健のアパートを訪れることにした。

健のアパートに着くと、ドアは開いていた。中に入ると、部屋は散らかっており、まるで誰かが慌てて何かを探したかのようだった。彼女は部屋の中を探していると、クローゼットの中に隠された箱を見つけた。箱の中には、彼女に関する写真やメモがびっしりと詰まっていた。

驚愕した明日香は、その瞬間、全てのピースがはまった。健こそがストーカーだったのだ。彼は彼女の生活を密かに監視し、恐怖に陥れていた。しかし、なぜ彼が行方不明になったのかは謎のままだった。

その夜、明日香は警察に証拠を提出し、健の行方を追うための捜査が開始された。しかし、明日香は自分の安全が保証されているわけではないと感じていた。

数日後、再び匿名のメッセージが届いた。「逃げられない」。彼女は再び恐怖に包まれた。健がどこかで見ているのか、それとも別の誰かが…。

ある晩、家の中で物音がした。明日香は懐中電灯を手に取り、慎重に音のする方へと進んだ。そこには、健の母親、佐藤由美が立っていた。

「由美さん…どうしてここに…？」

由美は冷たい笑みを浮かべながら答えた。「健が行方不明になったのは、あなたのせいよ。彼を追い詰めたのはあなただ。」

明日香は困惑しながらも、由美の狂気に満ちた目を見つめ返した。「健が私を監視していたのよ。私の生活を壊そうとしていた…」

由美は一歩近づき、低い声で言った。「健はあなたを愛していたの。彼の愛が理解できなかったあなたが悪い。」

明日香は後ずさりしながらも、勇気を振り絞って反論した。「それは愛じゃない。私を恐怖に陥れる行為だった。」

その瞬間、由美は懐からナイフを取り出し、明日香に向かって襲いかかった。明日香は必死に抵抗し、ナイフを取り上げようとした。二人はもみ合いになり、最終的に明日香がナイフを奪った。

由美は恐怖の表情を浮かべながら後退し、「逃げられない…」と呟いた。明日香は息を整え、警察に通報した。

警察が到着し、由美を逮捕した。健の行方は未だに不明だが、由美の狂気と健の執着心が彼女の生活を地獄に変えていたのだと悟った。

その後、明日香は新しい場所に引っ越し、再び平穏な生活を取り戻そうと努力した。しかし、恐怖と不安は完全には消え去ることはなかった。