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シンガポール市販ラクサペースト食べくらべ13選


富士そばのラクサそばや成城石井のお惣菜、日本進出したYa Kun Kaya Toastなどの影響もあり、近時日本でも知名度が高まってきたラクサ。シンガポールでは超定番のローカルフードとして多くの人に愛されています。1年半以上も続くコロナ禍で、店内飲食にも依然制限がある中、ホーカーフードのような単価の安い料理ほどデリバリーもできず、ご無沙汰になってしまいがちで、ラクサもまた例外ではありません。
そんな中、ラクサは比較的材料を揃えるのが容易かつ、調理工程が単純なので自宅で作ることも充分可能です。ラクサはスープベースとなるペーストをフルスクラッチで作ることもできますが、多種多様な市販のラクサペーストを利用することでよりお手軽に、かつ低コストでラクサを自宅で楽しめます。本記事ではオンライン含むスーパーマーケットで買える市販ラクサペースト13種を主観的にレビューします。

ちなみにラクサは意外とその起源がよくわからない料理でもあります。ラクサ自体はマレー半島とその周辺に伝わるニョニャ料理(マレーと中華のハイブリッド料理)で、シンガポールのいわゆるカトンラクサはその一種に過ぎません。古川音さんのラクサの系譜図をご覧いただくとわかるように、中国南部の食材である米粉の麺と南国の香辛料のスープを合わせたものという点では一致しているものの、その多様性に驚かされます。名前の由来については、サンスクリット語で「多い」を意味する"Laksha" (लक्ष)から来ているとする説や、中国語で「辛い砂」を意味する"la sha" (辣沙)、はたまた福建語で「汚れたもの」の意の"lup sup" (垃圾)が起源だとするなど諸説あります。

今回のレビューはニョニャラクサやカリーラクサと呼ばれる、ココナッツミルク仕上げのいわゆるLemak系ラクサに限ってまして、タマリンドと魚介ダシのアッサムラクサは含みません。両者は同じラクサと名前は付いていますがまるで別物なので、味噌ラーメンと塩ラーメンを比較するようなものとご理解ください。

基本の具材

同じLemak系でもどの具材を基本とするかは意見が割れるところと思いますが、私の好みも入りつつ、共通して以下の具材を用いました。
✅もやし
✅フィッシュケーキ
✅ゆで玉子
✅エビ
フィッシュケーキとは日本のさつま揚げのような魚のすり身揚げで、スーパーでチルド品が安価に手に入ります。代表的なブランドはDoDoですね。

麺についてもこれまた色々オプションはありますが、私はモチモチした食感が好きでラクサスープとも絡みやすい「ネズミのしっぽ」と呼ばれるBee Tai Mak(老鼠粉)で食べるのにハマっています。基本はThick Vermicelli(太目のビーフン)で、イエローヌードル(太目の中華麺)、あるいはそのちゃんぽんで食べるのもアリです。

Bee Tai Mak(Mee Tai Bak)はラクサに入れる麺としては決して主流ではありませんが、シンガポールのローカルコーヒーショップチェーンのToast Boxではオフィス街で働く人のために、スープが跳ねない短い麺のBee Tai Makがラクサに使われています。また正統なカトンラクサもハサミで短く切ってあるビーフンをレンゲだけで掬って食べるものとされています。

もやしと玉子については特に言及することはありませんが、エビについては殻付きの有頭エビを使います。理由としては後述の調理工程の通り、エビの頭と殻でダシを取るためですが、多くの市販ペーストにはブラチャン(エビの発酵ペースト)も入っているので、冷凍剥きエビを使ってもそれなりにおいしく仕上がります。しかし、手作りするからにはぜひ海老ダシの豊かな風味とエビ味噌のコクを味わいたいところです。
シンガポールのスーパーやウェットマーケットで売られているエビのうち、どれを使えばよいか、という点についてお答えするなら、出来るだけ小ぶりのエビを使うことをお勧めします。理由としては、小型のエビの方が同じ重量あたりの殻や頭の量が多いためダシを取るのに向いているからです。Tiger Prawnなどの大きなエビは見た目こそ豪華さがありますが、食味はやや大味なので、Grey/White/Black Prawnあたりが適任です。

その他の具材としては油揚げ(Tofu Puff 豆包)やカトンラクサには欠かせないCocklesという血生臭い貝の剥き身を入れるのも定番ですが、完全に好みです。油揚げはややしつこくなるのと、新鮮なCocklesはスーパーでは手に入りにくいというのもあります。

薬味としてチリペースト(サンバル)も一般的ですが、チリペーストがよく合うのは比較的甘口のカトンラクサで、辛味も強めのマレーシアのカリーラクサには余り合わないとも感じました。
緑の青のりのようなラクサリーフを刻んだものを薬味として使うと、より一層香りが引き立ちます。なおラクサにコリアンダー(香菜・パクチー)を添えているのを、特に日本で見かけますがこれは正式ではありません。

共通の作り方

どの市販ラクサペーストにもパッケージに作り方・分量が書いてありますが、ペーストの味の違いを比べるために以下の調理方法で統一しました。

1. 有頭エビの剥いた殻と頭を規定量の水から茹で、沸騰したら頭を潰しながら20分〜とろ火で煮出す
2. スープからエビ殻を取り出しラクサペーストを入れてよく溶かす
3. フィッシュケーキはスライスした後、お湯で表面の油をすすぎ、剥きエビとともに2.に入れる
4. エビに火が通ったら規定量のココナッツミルクを入れ、ダマが解けたら沸騰する直前に火を止める。(※ココナッツミルクを入れるスープは煮込まない)
5. 湯通しした麺にスープを注ぎ、具材を載せて完成。
エビの分量ですが、大体水100ccあたり1尾くらいあるとしっかりダシが取れます。殻を剥いてワタを取ったエビの身は冷凍して後日使っても良いです。チルド麺を使う場合、既に火は通っているので茹でる必要はありませんが、食用油がまとわりついているので、ポットで沸かしたお湯で2回ほどすすぐと良いです。海老殻は油で炒めてからダシを取る方が良いとされていますが、細い脚やヒゲが焦げて苦味が出るリスクがあるのと、面倒なので(1番の理由)単に水から煮るだけにしています。エビの頭はしっかり潰してエビ味噌をスープに溶かし込みましょう。木べらやお玉だとエビの頭が滑って潰しにくいので、かす揚げがあると上から押しつぶせるのと、殻を取り出すのにも使えて便利です。

1. Hai's Instant Laksa Paste

シンガポールの大手メーカーの商品です。比較的マイルドな味で辛さもほどほどです。うま味、塩味もほどよくバランスの取れた味です。ここから続く3種は極めて似たスタンダードな味なので、どれ選んでも有意な差は無いと思いますが、シンガポールラクサの基本形とはこういうものか、という点はよくわかると思います。

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2. Dancing Chef Singapore Laksa Paste

東南アジア料理のインスタントシーズニングで定番のDancing Chefシリーズからシンガポールラクサです。これもまたスタンダードなバランスの取れた味で、万人受けしそうです。

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3. Prima Taste Laksa Paste Cooking Sauce

こちらの商品も大変スタンダードなシンガポールラクサの味です。前述の1・2とは味の違いを区別するのが極めて困難なくらい出来上がりの味は似通っています。原材料を見てみると配合は多少違いますが、入ってるものは同じです。1〜3はスーパーでも棚に並んでいる確率は高く手に入りやすいです。

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4. New Moon Singapore Laksa Paste

旧正月のアワビの缶詰でお馴染み、えも言われぬ表情を浮かべた月のトレードマークが印象深いNew Moonのラクサです。率直に申し上げると、レビューした中ではこの商品だけが「美味しくない」という評価を下さざるを得ませんでした。無闇に辛味の刺激が強い一方でうま味とスパイスの香りが弱く、深みに欠ける味でした。その理由を探ると敢えて違いを見出すなら原材料にいわゆるMSGのE621(グルタミン酸ナトリウム)使われていたことと関係があるかも知れません。海老ダシの風味を邪魔しないようにするためにも避けるべき一品かもしれません。

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5. Tean's Gourmet Curry Laksa Paste

カナダ企業が企画、マレーシアで製造というこの商品、個人的にはイチオシです。色はターメリックの黄色が強く出ていてカレーっぽい風貌です。うま味、塩分、スパイスの香り、辛味がそれぞれが輪郭をハッキリと主張しながらも全体的によく調和が取れています。実はシンガポールのオンライン含む主要スーパーから姿を消してしまったのですが、最近CartというColdstorage, Giantなどを運営するDairy Farm系列のオンラインスーパーのアプリで買えることがわかりました。

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6. Ikan Brand Laksa Johor

ジョホールラクサのペーストということで、本来は具材も異なり、麺もそもそもスパゲティを使うのが正式ではありますが、同じココナッツミルクを使うLemak系ラクサということで、ニョニャラクサと同じ具材で作ってみました。味は濃いめの味でスパイスの風味・うま味ともに強めに主張してくる荒々しさはありますが、好きな人は好きな味で悪くないと思います。

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7. MUSC Sarawaku Laksa Paste

黒っぽい見た目・味共に異彩を放つこのサラワクラクサ、ボルネオ島特産の黒胡椒の香り高く、オリジナルの具材は千切りのきゅうり、蒸し鶏や薄焼き玉子などと一風変わっていますか、ココナッツミルク仕上げのラクサということで同じく比較してみました。唯一、ペーストとは別に鶏がらスープと砂糖、塩で味を整える必要がありますが、様々なスパイスが織りなす風味はクセになります。スープはかなりさらりとしているので、ビーフンだけで無く、広東麺で食べても美味しかったです。

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8. MasFood Instant Curry Laksa Paste

こちらもマレーシアブランドのカリーラクサですが、味はややジャンキーなレトルト品という印象で、塩味が強くスパイスの香りは弱めでその名の通りインスタントなチープさを感じました。不味いというほどではありませんが、せっかく海老から出汁を取るにはもったいなく感じてしまい、あまりお勧めはいたしません。

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9. Ban Hock Nanyang Curry Laksa Paste

これもまたシンガポールのスーパーからは消えてしまった商品ですがシンガポールのメーカーの商品でもあり、復活した時のために。レビューした中では最も甘口でミルキーな口当たりです。若干シャバシャバ感が強いのでビーフンの他、イエローミーなどの中華麺でも合いそうです。辛さが控えめなので辛いのが苦手な方にもオオスメかつ、チリペーストとの相性は良いです。

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10. Chillies Brand Curry Laksa Paste

唐辛子をトレードマークにしているだけあって、かなりパンチの効いた辛さです。塩分も強めな一方で、スパイスの香りが負けていて、やや繊細さには欠ける印象も。インスタント食品的な安っぽさが気になり、不味くはないものの、積極的に推せる商品ではありません。

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11. Toast Box Laksa Paste

ローカルコーヒーチェーンのToast Boxのマーチャンダイズからです。お店の味を自宅でも、ということですが、Cooking Instructionにはココナッツミルクに加えてエバミルク(無糖練乳)も加えるとありましたものの、自分はエバミルクなしで仕上げたため、若干店のものとは異なり、他のスタンダードなカレーラクサと同じような味がしました。おそらくエバミルクを入れることでかなりマイルドな仕上がりになると思われ、それがこの商品の特色かもしれません。尖った個性はありませんが、味はそつ無くまとまっていてさすが大手チェーンという印象です。

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12. Tungsan Straits Story Singapore Laksa Paste

シンガポールのメーカーの商品で、スパイスの風味、辛味、うま味のバランスがよく、1.〜3.のオーソドックスな味に近いです。このパッケージ300gで水2ℓ+ココナッツミルク500㎖分作れるので出来上がり量あたりの単価は最も安いかもしれません(私は使いきれなかったペーストを冷凍して保存しました)「唐山」と大きく描かれた黄色地のパッケージも中身は同じですが、1㎏入りなので業務用レベルの量です。Redmartでも売ってますが誤って買うと持て余すこと必至なので注意です。

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13. Amocan Singapore White Laksa

こちらはペーストだけでなくココナッツミルクパウダーも一緒になったキットなのでココナッツミルクを別で用意する必要がなく、余らせなくて済みます。その名の通りスープは白っぽく、辛さは控えめながらスパイスの香りがよく立っていて細やかさがあり、丁寧な印象です。塩味が少し足りない気もしますがナンプラーやチリペーストで補っても良いかもしれません。
パッケージで目を引くのは「シンガポールラクサは白いスーツを調理します」という謎日本語ですが、日本語表示によるクオリティブースト神話はまだまだ根強いことが伺えます。当然ながらメーカーはシンガポール企業で日本と縁もゆかりもありません。
※"新加坡白叻沙烹饪套装"を訳すなら「シンガポールホワイトラクサクッキングキット」ですね

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今回取り上げたもの以外にもまだ多くの市販ラクサペーストが売られていることからも、家庭料理としても広く親しまれている事が伺えます。
一方で日本では具材も含めて中々手に入りにくいことからも、シンガポール・マレーシアにお住まいの方はぜひお住まいのうちに色々と楽しんでみてはいかがでしょうか。それでは佳いローカルホームクッキングライフを!

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