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シンガポール スペシャルティコーヒー事情

ローカルKopiの喫茶文化が根づくシンガポールでもここ数年の間に世界的な潮流に乗り、スペシャルティコーヒーを出すいわゆるサードウェーブ系のカフェがかなり増えました。本稿ではおすすめのカフェ、サプスクリプションを紹介すると共にシンガポールのコーヒーシーンについてあれこれ語りたいと思います。
なおひと口においしいコーヒーとは何かという真理を突き詰めると、知れば知るほど私が語り尽くせるほどの内容ではなく、本旨とも逸れることから詳細は専門家の記事・書籍に譲ります。興味を持たれた方は参考書籍をぜひご覧下さい。

スペシャルティコーヒーとは

「スペシャルティコーヒー」とはともすると非常に多様な文脈で使われがちな言葉であります。Specialty Coffee Association(SCA)によればその定義は容易では無いものの、その要素を煮詰めるとー
①欠点が少なく
②識別可能な特徴 (Distinctive Attribute/Characteristic) を有している
ーの2点に集約されます。コーヒーの評価で難しいのは好みに左右される要素が大きく、ある人にとっての美点が他の人にとってはそうではない、という問題があることから、ここでいう「クオリティ」を「識別可能な特徴」と定義することで、個人の嗜好による評価のゆれを極力排除しています。SCAではコーヒーのクオリティをサイズ・形・カッピングスコア・ロースト時の色・風味の種類といったコーヒーに内在する(Intrinsic)特徴と産地・認証・生産者・銘柄といった外的(Extrinsic)情報に分けて評価しています。
他方で"What's in the cup matters” (カップの中身こそが重要だ)とする思想からすれば、産地や認証といったExtrinsicな情報は本質的ではないとする批判もありますが、SCAではそうしたExtrinsicな特徴も市場価値を決定する要素として評価の尺度に含めています。これは評価方法の優劣の問題ではなく、市場関係者の購買判断に資する情報としてSCAではそうしたExtrinsic Qualityも評価に含めているということに過ぎません。
したがってスペシャルティコーヒーだから美味しい・不味いということでは無く、またスペシャルティコーヒーを謳う店であっても厳密な定義に基づくスペシャルティコーヒーを仕入れ・販売しているとも限りません。私も本稿では「産地銘柄が特定されたいわゆるシングルオリジンのコーヒー」くらいの意味で使っており、その店で販売されているコーヒーが厳密にスペシャルティコーヒーの定義を満たしているかどうかまでは確認しておりません。

サードウェーブコーヒーとは

コーヒーの世界における「サードウェーブ」という言葉もまた定義が曖昧なまま使われがちですが、本稿における私のスタンスを明確にしておきたいと思います。
「サードウェーブ (Third Wave)」とはその名の通りコーヒーのトレンドにおける『第三波』を意味するものですが、対する第一・二波とは大まかにそれぞれー
①コーヒーの大衆化
②シアトル系カフェブーム

ーと理解しておくとわかりやすいです。
ファーストウェーブの①コーヒーの大衆化とは、高級な嗜好品だったコーヒーを工業的に大量生産し普及させたインスタントコーヒーが発明された戦前を基点とするか、戦後の1950年以降、日本における純喫茶の隆盛やアメリカのダイナーでの提供が盛んになった戦後の再興期とするかは両論あります。当時はコーヒーを嗜むというトレンディな行為自体に重きが置かれていたことから、総じてコーヒーそのものへのこだわりはさほど強く無く、価格を抑えるために豆もブレンドが中心でした。一方で、日本のファーストウェーブで勃興した純喫茶の中には日本人独自の職人気質と合わさり、当時から後述のサードウェーブ的な豆や淹れ方へのこだわりを持つ店も少なからぬ数が自然発生的に現れ、サードウェーブに対して、「昔から日本にあったコーヒー専門店と同じでは?」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
続くセカンドウェーブはスターバックスに代表されるシアトル系カフェの隆盛であることは論を俟ちませんが、アメリカでは70〜80年代からのムーブメントであるのに対し、日本では2000年以降と時期にやや開きがあります。アメリカにおけるセカンドウェーブは既存の大量生産・均質なファーストウェーブコーヒー文化に対して、パーソナライズされたオーダーとサービス、コーヒーだけでなくカフェ空間を楽しむといったカウンターカルチャーとして、1960年代からのアメリカの文化的ダイナミズムと相まって瞬く間に支持を得ていきました。
他方でセカンドウェーブが円熟期になると、呪文のように複雑なオーダー・「スタバでMacBook」・分かりにくいイタリア語のサイズ表示ーに代表されるスノッブさを揶揄し、そしてダークローストの名の下に誤魔化され実は大して美味しくないコーヒーそのものの味に疑問を抱いた人々が新たなカウンターカルチャーとして、シングルオリジン・ストレート・Pour Over(ハンドドリップ)といった引き算の美学とも言える価値観を打ち出したサードウェーブに傾倒していったのは必然でした。シングルオリジンはすなわちトレーサビリティそのものであり、SDGsの時流との相性も良く(コーヒー生産そのものが持続的では無いという批判はありますが)まさに世相を映す象徴的な潮流となりました。

シンガポールのコーヒーカルチャー

シンガポールのコーヒー文化についての詳細な説明は他の記事に譲りますが、ご案内の通りイギリス植民地時代にもたらされたコーヒーを移民労働者であったマレー半島の南洋華人が自らの消費のため、品質は劣るが安価なインドネシア産ロブスタ種コーヒーに焙煎時に油脂を加えて香りを補い、多量の砂糖とミルクを加えて苦味を抑えることで独自のKopiを発明しました。
シンガポールでスターバックスがオープンしたのは1996年と奇しくも日本と同じ年で、それに伴いエスプレッソベースのコーヒーを出す地場のカフェが2000年前後に増えたのも同じですが、シンガポールのコーヒーシーンで特筆すべきは、従来個店経営のファミリービジネスであったホーカーやコピティアムのドリンクストールがチェーン店化していったのも同時期だったことです。Ya Kun Kaya Toast, Toast Box, Killiney Kopitamなどが多店舗展開し始めた時期は比較的新しく、これは日本のコメダ珈琲、星乃珈琲店など純喫茶風のチェーン店が勃興した現象と奇しくもよく似ていて興味深いです。

カテゴリー別シンガポール地場コーヒー店
1st・2nd Waveは5店舗以上有するチェーン店

エスプレッソベースのコーヒーを売りにしている店にも豆にこだわりスペシャルティコーヒーを謳う店は多く、セカンドウェーブとサードウェーブの境界線は必ずしも明確ではありませんが、個人的には狭義のサードウェーブコーヒー店とはシングルオリジンのコーヒーをPour Overで提供している店と考えます。その定義に照らすと、シンガポールでサードウェーブが本格的に流行し始めたのはここ5年くらいで、かなり新しいトレンドであると言えます。その要因を個人的に考察すると、シンガポール人はコーヒーの基準がKopiにあり、ミルクも砂糖も入らないコーヒーに対する心理的敷居が高かったのかと想像します。依然として朝食のお供やランチの後にコピが欠かせないという人は老若男女問わず根強く、サードウェーブでなくとも、一緒にカフェに行ってLong BlackやAmericanoを頼む人すら体感ではかなり稀です。一方で最近職場で一緒だった典型的なZ世代男子Chiaくん(仮名)はPour Overのコーヒーを愛し、メルボルン旅行の際にはHipなマイクロロースタリーの豆をお土産にするなど旧世代とは明確に異なる嗜好を持ち「KopiなんてBoomerの飲み物でしょ?(意訳)砂糖も多くて身体に悪いし」と言い放つなど、期待を裏切らないニュージェネレーションっぷりを発揮していました。いつの世もアンチテーゼが新しいカルチャームーブメントを生み出し、最新トレンドを支持しているのだとつくづく感じます(N=1)。

御託が長くなりましたがそれではお店の方を紹介して参ります。

1. Common Man Coffee Roasters 

本格的サードウェーブ到来前の2013年の創業以来、Robertson Quayという立地も手伝って常に人で混み合う店でした。昔は週末、あまりに混みすぎていて店内で快適に過ごしにくいという難点もありましたが、コーヒー豆へのこだわり、リテール商品の充実度は素晴らしいです。Tiong Bahru Bakeryには専用ブレンドを提供、Eggslutや惜しまれつつも閉店したForty Handsでも同店のコーヒーが飲めるなど他店にも豆を卸していたり、Shake Shuckのコーヒーミルクシェイクを監修するなどコラボにも積極的で、シンガポールを代表するロースタリーのポジションを得ています。お得なサブスクリプションもありますが、250g・送料込みで$19.95〜と必ずしも最上級の豆ではなく、値段なりの味です。高いコーヒーが必ずしも美味しいとは限りませんが、安くて美味しいコーヒーは稀という印象で、美味しい豆はそれなりの値段がします。個人的には100gあたり$10を超えるあたりから目が覚めるような香りと味わいを感じることが多く、一つの基準としています。

2. The Coffee Academics

Scotts Squareの第一号店は上階のWild Honeyと争い週末は常に人で溢れていますが、お店の世界観作りがとてもクールなのと、店舗で出されるコーヒーの味は群を抜いていて、バリスタの腕の良さが伺えます。リテールコーヒー豆は厳選された少数の銘柄で価格もシングルオリジンは基本的に200g $20超と高めだけあって豆の味には信頼がおけます。ここで売っていたCosta Rica Don Claudioは今まで買ったコーヒー豆の中で1番美味しかったです。

3. Tiong Hoe Specialty Coffee

Common WealthのHDB階下の店として始まった小規模な店ですが、販売する豆のラインアップの幅広さと品質が支持され、Vivo CityやParkway ParadeのFairPriceの店内など勢いよく店舗数を伸ばし知名度を高めています。中南米・アフリカの伝統的な産地のみならず、ミャンマー・ラオス・インドといったアジア産の高品質なコーヒーも取り揃えているのが特徴です。Tiong Bahru Bakeryと緑の漢字ロゴが若干被り気味ですが、最近は当社の知名度もTBBに負けず劣らずとなって参りました。

4. %Arabica

日本人創業者が香港で立ち上げグローバル展開するコーヒー店で、シンガポールは5店舗と堅調に店舗数を延ばしています。白で統一されたミニマルなインテリアとごく限られたフードメニューからはコーヒーに専念するというこだわりを感じさせます。ローストした状態の豆は2種類程度しか常時販売しておらず、その他の銘柄はRoast to Orderで注文を受けてから焙煎して受け取りとするなど鮮度に細心の注意が払われています。焙煎もする店舗ではクリーンルームのような部屋の温度管理が徹底された容器内で生豆が保管されており、挽きたての豆の香りは抜群です。特にエスプレッソの香りはラテにしても大変しっかりと立っていて、イチオシです。

5. Nylon Coffee Roasters

Tiong Hoeと同じくOutram ParkのHDB階下に店舗があり、高品質の豆を焙煎、販売しています。支店はまだ無く、現在の規模を保っていますが、欲を出せばカフェスペースを広げてフードももっと出せば良さそうなくらいの人気がある中、コーヒーに専念する真面目な姿勢に好感が持てます。私はサブスクリプションで毎月一袋買っていますが、非常にコンディションの良い豆を送ってきてくれて、色々サブスクを試した中、唯一ずっと続けている店です。(注文時のオプションにはありませんが別途Eメールなどで頼めば挽いた豆を送ってくれます)

6. Jewel Coffee

カフェはCBDのモール内に多く出店しておりチェーン店化しつつありますが、店内では手間ひまかけたPour Overの香り高いコーヒーを出しているスペシャルティコーヒー店です。珍しくV60だけではなく透き通るような飲み口になるChemexのフィルターでも淹れてくれるのは他店に無い特徴です。豆の販売もブレンド・シングルオリジン多数取り揃えていますが、価格帯は250g $18〜と一段ランクは落ちる印象です。TANGSなどの食品売り場でも豆は買えることもあります。

7. Suzuki Coffee

日本人が1972年に創業しシンガポールでも最も古いロースタリーのひとつで、あまりコーヒーに詳しくないシンガポール人もSuzuki Coffeeは知ってる、という人は多いです。スーパーなどでBon Cafeなどと並びリテールのコーヒー豆を販売しているのも高い知名度の一因です。サブスクで買える豆はマス向け商品よりも値段はずっと高いですが、焙煎したてを自社配送というこだわりです。ローストは全体的に深めで、日本のコーヒー専門店の風合いに近く、最近の流行りの浅煎りフルーティー・フローラル系とは路線が異なります。Jurongの工業団地内にある焙煎所に併設されたカフェは、アクセスは良くありませんが、素晴らしい和モダンの雰囲気で、高い技術のスタッフが淹れたPour Overは格別でした。唯一の難点はサブスクをしていてEメールなどで問い合わせてもレスがほとんどない事ですかね…

8. Apartment Coffee

元々Lavendarにあった同店は最近移転してOrchardからLittle Indiaに続くSelegie Road沿いに店を構えます。移転前の雰囲気をそのままに白と木目だけのミニマルなインテリアがコーヒーに集中させる雰囲気を演出します。サブスクではその時々のおすすめが届きますが、どちらかというとフルーティ・フローラル系よりもナッティでコクのある豆のことが多かったです。店ではフードは無く飲み物だけの提供という割り切りですが、コーヒー以外にもこだわりのカカオ豆で淹れたホット/アイスチョコレートもあります。カップも保温力の高い湯呑みのような陶器なのも良いです。

9. Grey Area Coffee

ショップハウスが連なり新たなトレンドスポットに生まれ変わってきたKampong Bahru Road沿いに2022年3月オープンした店。狭隘な店内ですが、灰色の壁とシンプルなインテリアが流行りのミニマル系カフェの趣です。Pour Overも3種類の豆を取り揃え、味わいの違いを楽しめます。サブスクはありませんがリテールの豆も店頭で販売しています。店舗で焼いているという自家製クッキーもしっとりとしていて美味しかったですが、ちゃんとコーヒーの風味を損なわないよう合間に飲む水も一緒に出してくれるのが個人的にポイントが高いです。

LotusのBiscoffが刺さったクッキーはインパクトがあります

10. Hook Coffee

オンライン専門のコーヒー豆販売店で、V60のドリッパーとフィルターをセットにしたスターターキットなどを販売していて、カラフルなパッケージでさまざまなフレーバーの豆を取り揃えていることもあって選ぶ楽しみは満点です。一方で豆のグレードは今ひとつで、値段なりと言えばそうですが、謳っているようなフレーバーの違いをしっかり感じられるほど豆そのもののクオリティが高くないと思います。ただし、WebサイトとUIはよく考えられて作り込んであって、ECとしてのユーザーエクスペリエンスは最も高いという点は申し添えます。2022年3月にラオパサ内に初のコーヒースタンドもオープンしたようです。

11. Perk Coffee

こちらもオンライン専業のロースタリーです。Instagramでサブスクの初月オーダーが送料無料、125g×2袋で$2という破格のキャンペーンを宣伝していて試しに注文してみましたが、2ヶ月目以降は無かったです…それなりの種類を揃えていますが、大半が250g/$17.9でサブスクなら送料無料という価格帯で、不味くは無いものの敢えてサブスクを継続するほどの感動はありませんでした。あとニュースレターの頻度がかなり高いです笑

12. Dutch Colony Coffee & Co.

白を基調としたブランドイメージがクールで、フードの評価が高いことも相まって島内5店舗を構える人気店です。オンラインストアやフードデリバリーでも挽いた豆が買えるので便利です。価格は200g $20未満で味もそれなりですが、ブラジル×エチオピア50:50のブレンドは値段の割に美味しかったです。総評悪い店ではありませんが個性に欠ける面もあり、行きつけるには至っていません。

13. Craftsmen Specialty Coffee

島内6店舗を構え、ケーキやクロワッサンなどフードメニューが充実している人気店で、木目を基調としたインテリアが落ち着いた空間を演出しています。Dine-inのドリンクはエスプレッソベースのみでハンドドリップのコーヒーはありませんが、リテール販売している豆はルワンダ・ブルンジ・タンザニアなど、ケニア・エチオピアといった伝統的産地以外のアフリカ諸国産のものがよく並んでいて渋いセレクションです。パナマのゲシャなども売っている時があり(めちゃくちゃ高いですが)、コーヒーフリークも満足の品揃えです。難点があるとすれば、私がよく行く店のバリスタが悪いのかグラインダーが悪いのかはわかりませんが、何度頼んでもFilter Brew用の中挽きに豆を引いてくれずエスプレッソ用の細挽きになるので、ドリップするとややもったりした感じになります。

14. Tanamera Coffee

インドネシア発でWebサイトがインドネシア語と英語が渾然一体となっていてそのあたりがインドネシアらしいなと思いつつ、コーヒーにはかなり真面目な印象で、インドネシア国内産の豆を複数種類常時置いているのが特徴です。デリバリーで頼んだブレンドは値段なりに今ひとつでしたが、店頭で買ったバリ・キンタマーニ産の豆は250gで$20を切る価格でしたが香りがよく味の輪郭がはっきりしていてValue for Moneyは高かったです。マーチャンダイズも赤を基調とした洗練されたデザインで店舗数も着々と伸ばしています。

番外編 Bacha Coffee

結論から申し上げると私はBacha Coffeeの豆の味に対して大変懐疑的でして、「スペシャルティコーヒー」というカテゴリに相応しいのか疑問に感じています。その最大の理由はコーヒー店がもっとも気を遣う鮮度管理が雑に見えるという点です。複数回購入してみましたが、100g $13〜という非常に高価格帯ながら味の特徴がなく、香りも弱かったため、焙煎日の問題かと思い、5日前にローストしたとされたものを買っても印象は変わらず。同店のカウンター奥の棚にコーヒー豆の入った夥しい数のゴージャスなキャニスターがズラリと並ぶ様は圧巻ですが、ローストした豆が常温・裸で保管されていることから急速な劣化は避けられません。

高島屋B1FのBacha Coffee店頭

そして何より店員がテイスティングよろしく販売前にケースを開け、豆の香りを客に嗅がせることで、頻繁に空気に触れることになり、気密性も全く保たれていません。そしてこの豆の香りを嗅がせるのがBacha Coffeeの巧妙な手口だと思うのですが、そもそもローストした豆がそれなりに香りがするのは当たり前で(逆に香りがしなかったらかなりヤバい豆です)、その良し悪しを峻別できるのはプロのバイヤーくらいなものです。店員が恭しく客に豆の香りを嗅がせ、多様な選択肢からお気に入りのTasting Noteの豆を選ばせ通になった気分にさせることで、割高な豆を買わせるーそれがBacha Coffeeのトリックだと考えます。(またドリップバッグを販売している時点で明らかにコーヒーそのものへの強いこだわりは無い、ということも窺えます。)なおWebサイトの商品名と付帯情報ではコーヒーの銘柄を同定するに十分ではなかったため、他のコーヒー販売業者とのApple to Appleでの価格の比較はできておりませんが、価格帯に見合うグレードだとすると最上級の銘柄しか置いていない、ということになります。
ここで多少フォローしておきますと、Bacha Coffeeのデザート類は絶品であることを申し添えます。ここのクリームパフ・ミルフィーユは非常におすすめできます。

クリームパフとミルフィーユ
パンダンチーズケーキといったローカルツイストも

またマーチャンダイズの類も非常にセンスが良いので、上質なショッピング体験を提供しているという点では優れたビジネスだとは思います。
Bacha Coffeeを「世界一うまいコーヒー」と評する言説も目にしたため、評価については多様な意見があるということですが、私個人的にはおいしいコーヒーとしてはお勧めいたしません。

まとめ

シンガポールのサードウェーブコーヒーは一過性のブームを超えて新たなジャンルとして不可逆的に定着していると感じます。同時に改めて当地のコーヒー文化を振り返るとコピを中心とした喫茶習慣の根強さにも再認識することになりました。
スペシャルティコーヒーの世界は非常に奥深く、趣味として極めていく楽しさもあり、ぜひそのドアを開いてみることをお勧めします。
最後に参考文献・記事をいくつか紹介します。

参考書籍・記事等

ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典 2nd Edition

James Hoffmannという世界で最も知られたバリスタが執筆したコーヒーの百科事典的な一冊。数々の定説を覆す知見が盛りだくさんで、これを読んでおくと「違いがわかる人」になれる気がします。半分くらいのページは産地の解説になり、やや消費者には専門的過ぎるきらいはあります。電子書籍版もなく値段が張るのもやや難です。同氏はYouTubeチャンネルで様々なコーヒーの淹れ方に関するテクニックを惜しげもなく公開しています。

極める 愉しむ 珈琲辞典

こちらは電子書籍版もあり必要な情報がコンパクトにまとまっていて、図・写真が多く読みやすいです。一般的にコーヒーに詳しい人が知っている内容を概ね網羅できます。産地ごとの情報も細かすぎず概要の把握に適しています。

丸山健太郎の「現代珈琲史」

日経ビジネスの連載記事で無料で読めます。現代のコーヒーの生産流通にまつわるよもやま話を国ごとに記していて、淹れ方や味というよりも農産品としてのコーヒーに関する最新事情をつかめます。

Specialty Coffee Associtation

全米スペシャルティコーヒー協会と欧州スペシャルティコーヒー協会という元々別の2つの業界団体が合併してできた、スペシャルティコーヒーの事実上の国際機関です。Webサイトではイベントや資格講座の案内、読み物など情報発信も盛んで、同協会の作った色相環のようにコーヒーの味の特徴を色で表したCoffee Tasters' Flavour Wheelは有名です。

なお日本には「一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」という団体も存在しますが、採点方式などの一部でSCAのメソッドを参照しているものの基本的に別団体です。日本国内ではバリスタの全国大会を主催するなど影響力の強い団体ですが、認定する資格は国内のみでしか通用しないため、ややガラパコス的であるともいえます。なおSCAの資格講座はシンガポールでも受講可能です。

おいしいコーヒーの淹れ方 | 知る・楽しむ | コーヒーはUCC上島珈琲

書籍を悠長に読んでいる暇などない!という忙しい方にはコーヒーの基礎知識を素早く理解できるUCCのこちらのサイトをおすすめします。UCC自体は缶コーヒーのメーカーとして認知度が高いですが、上島珈琲店、UCC Café Plaza、Mellow Brown Coffeeなどハイグレードなスペシャルティコーヒーを出すコーヒー店も運営しています。

Coffee in SG (Googleマイマップ)

前出のコーヒー愛好家の有志サークルSG Coffee Collectiveが作成したスペシャルティコーヒー店をGoogleマイマップにプロットした大変便利な地図です。上記で紹介した店の大半がカバーされています。まだまだ私も未訪の店がたくさんあり、開拓してみたいです。

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