前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 十話


 よく考えたら地球侵略しにきた宇宙人の拠点を壊して謝るのって変だよなぁ。
 そう思いながら、ひとまず俺は今後の方針を話し合うため、江入さんを自分の部屋に連れてきていた。
「はあ……どうっすかね……」
 江入さんの宇宙船兼自宅はその機能を果たせなくなってしまった。
とりあえずスクラップになったそれは俺の空間魔法に収納して持ち帰ったが、この後のことは何も思いつかない。
「ん?」
 ブブッとスマホがバイブで揺れる。
 メッセージが届いたようだ。
 送り主は風魔先輩だった。
 彼女はあの日連絡先を交換して以降、こうやってたびたびメッセージを送信してくるのだ。
 えーと、今日はどんな用件で……。

『新庄君、そろそろ前世の性質を取り戻しただろうか? 私はいつでも対峙する覚悟を決めて待ち望んでいる』

 望んでるの!? なんでそんなに不浄の穴に興味を示して貰いたいんだ……。
 ブブッ。あ、またメッセージが。

『打ち間違えた。まちかまえているだら!』

 誤字……。

『取り戻してないですから』

 俺はポチポチと打って返信した。もし返事がきてもそれは後回しでいいや……。

「おい、なにやってんだ?」
 見れば、押し入れにしまってあるものを江入さんがガサゴソと引っ張りだしていた。
 大したものは入っていないが勝手に人の部屋のもん漁るなよ。
「ここを臨時の拠点にする」
「は?」
 そこは押し入れですけど。そんな狭いとこで人が暮らせるかよ。
 某ドラちゃんだって寝るときだけだぞ。
「インストールできた機能で空間を拡張するから心配ない」
「心配ないって……お前そこで暮らすつもりか? 俺の部屋の押し入れに住むつもりか!?」
「そう」
 肯定する宇宙人少女。何を当然のように言っちゃってるの?
「ここは従姉の家なんだよ。俺は居候の立場なの。だから無理です!」
「インストールした能力があれば、この星の基準で最低限の文化的な生活を送れるだけの設備は整えられる。あなたの部屋以外に私は基本立ち入らない」
「風呂とかトイレも用意できるってこと? 台所とか洗濯機貸して~とかにもならないってこと?」
「是」
 すげえ、宇宙人パワーすげえ。
「いや、待って? そんだけ用意できるんなら別に俺の部屋じゃなくていいじゃん」
「第三者が侵入してくる危険性のある場所を不用意に改造することはできない。それに壊れた探査船だが、あなたの魔力という力を使えばどうにかなるかもしれない。そのためには様々な検証が必要で、探査船を保管して持ち運べるあなたが近くにいることが望ましい」
「…………」
 それっぽいことを言いおってからに……。
「そういえば高校の入学手続きはどうやったんだよ? ああいうのって住所必要だろ? 学校から送られる書類の送付先とかは?」
「それは偽装工作を行なうための能力があった」
「なにそれ?」
「現地に潜伏しやすいよう、現地人の認識を歪ませてこちらの意図した通りに導く力」
 やばいやつだ! 洗脳かよ!?
「あ、でも、それがあれば賃貸とか借りられるんじゃ……」
「今はもう使えない。タグあっての力だったから」
「なんでそいつも使えるようにしなかったんだよ。いろいろ能力をゲットしたんだろ?」
「あまり頻繁に使えるものではなかったのでダウンロードの優先順位を下げていた。あくまで一時的な潜伏をスムーズに行なうための力だから。ダウンロードが行えなかったのはあなたが途中で探査船を破壊したせい」
 非難がましい目で見られた。うおーん、謝ったじゃん。
 振り返ると釈然としないことだったけど。
 てか、なんだか江入さんの感情が表に出やすくなっている気がする。
 主に怒りの感情が……。

 結局、従姉がいるリビングなどの生活スペースには踏み入らないという条件で江入さんは俺の押し入れに住むことになった。……なってしまった。
 宇宙船をぶっ壊した罪悪感もあって拒否しきれなかったのだ。
 くっ、自分の責任感が恨めしい。
 宇宙人の船を動かせるっていう、未知との遭遇にテンションが上がって勢いに身を任せたのがよくなかった。
 これからは一時のテンションに流されないよう気をつけていこうと俺は誓った。

「完成した」
 押し入れ居住の決定から一時間後、江入さんが押し入れを開けて悠然と出てきた。
「ん」
 江入さんはクイッと顎で中を指し示す。どうやら入って見てもいいらしい。いろいろ不平を漏らしたが、宇宙人のリフォームした部屋のルームツアーは割と楽しみだ。
 どんな劇的なビフォーアフターが待っているのか。
 どんなドリームハウスになっているのか……。
「ほほう!」
 ごくごく一般的なサイズの押し入れは白い壁に覆われた二十畳ほどの空間になっていた。
 あの押し入れがこんなに広々と……。ちくしょう、俺の部屋より広いじゃねえか。
 ちなみに床も白でベッドやキッチンも白だった。
「あっちが洗面所になっている。バスとトイレは別。風呂は全自動湯沸かしと追い炊き機能と浴室乾燥機つき」
 広々としたユニットバスを見せてもらう。
 あ、ドラム式洗濯機だ。これを一時間で生み出せる宇宙人の不思議技術やべえな。
「どう?」
「いいと思うよ。ただ、白一色は落ち着かないな。なんかぞわぞわするっていうか……」
 家具、壁、床、何から何までどこも全部白っていうのはちょっとね。
 清潔感があっていいけど、個人的になんかキツい気がする。
「そう? なら改良を検討しておく」
 意外と素直な返事が返ってきた。そういえばカーペットやソファがないな。
 あとテーブルも。
 無機質な雰囲気だけど、引っ越したてだしこれから増えていくのだろうか。
「下の階には探査船の修繕を行なうための作業スペースがある」
またメゾネットなの? 探査船もそうだったが、何かこだわりがあるんだろうか。
「あれ? でも、よく考えたら風呂場も洗濯機もいらなくね? 身だしなみを整える能力はコピーできたんだろ?」
「もし、また力が使えなくなったときのために地球の原始的な手段にも慣れておこうと思った。あんな思いはもう懲り懲り……」
 江入さんは遠い目をして言った。
 思いのほか、いきなり力を使えなくなった日々の経験は彼女の中でトラウマになっているようだった。大変だったんだね。

 翌日。
「新庄君、その、昨日はどうだった? 江入さんの……」
 教室から廊下に出たタイミングで丸出さんが追いかけてきておずおずと訊いてきた。
 そうだった。ちゃんと報告をするって言ってたんだ。
「ああ、うん……詳しくは話せないけど学校生活でおかしかったところの大体は改善されるんじゃないかな……」
「そうなんだ! 新庄君が力になってくれたのね! さすがね!」
「ハハハ……」
 俺は引きつった笑顔で誤魔化すしかなかった。
 まさか江入さんがウチの押し入れに棲まう妖怪になったとは言えないからな……。

 


 そこそこ奮闘した体育祭も終わって、今は六月の下旬。
 俺は放課後に何となく繁華街を散策していた。
 本屋を覗いたり服屋を見たり、一人で当てもなくブラブラする。
 あとちょっとで期末テストだし、勉強にも気合いを入れていかないとな……。
「おい、絶対に逃がすんじゃねえぞ!」
「待てコラ!」
「観念しろや!」
 背後から男たちの野太い怒声が響いてきた。
 振り返ってみると、派手な髪色や奇抜な髪型の高校生たちがまたさらに別のガラの悪そうな少年たちに追いかけられてこっちに向かってきていた。
 うわっ、なんだ? 不良同士の喧嘩か……? 関わり合いたくないなぁ。
 こういうのはさっさと通り過ぎてもらうに限る。
 俺はサッと目を逸らして道の端に避けた。すると、
「うわあっ!」
 追いかけられていたうちの一人が足をもつれさせて転んだ。
「た、鷹栖(たかす)ぅ! 早く立てぇ!」
「足を挫いちまった……抜田(ばった)、虎井(とらい)! オレに構わず先に行けぇ!」
「そんなことできるかよ!」
「そうだぜ! 仲間を置いていくわけねえだろ!」
なんか不良の熱い友情シーンが始まった。
「へへっ、やっと追いついたぞ!」
「年貢の納め時だぜ……」
「うへへ」
「ひゃはは」
「がはは」
 追いかけられていた不良は三人。それに比べて彼らを追いかけていたのは十人くらいの集団。数の差は歴然だった。これは喧嘩というよりリンチだな……。
 恐ろしいねえ。不良の世界はバイオレンスで大変そうだ。
 俺が完全に他人事としながらも僅かに同情を滲ませていると、
「あっ! てめぇ新庄怜央じゃねえかあッ!」
「なに、新庄怜央だと!?」
「ああっ! こいつよくもヌケヌケと!」
 追いかけられていた側の不良たちが俺の名を呼んできた。
 はぁ? こいつら誰だよ? 俺のことを知っているみたいだが……。
 この態度は鳥谷先輩のところの不良さんたちじゃないよな。顔に見覚えもないし。
「おいおい、そいつが新庄怜央ってマジかぁ?」
 追いかけていたほうの不良たちがニタニタと笑いながら俺に視線を送ってくる。
 うわぁ、俺まで目を付けられてしまったぞ!
 こっちに火の粉を飛ばしてくんじゃねえよ……。

「まさか噂のスーパールーキーとこんなところでばったり出くわすとはなぁ」
「へえ、こいつが花園を病院送りにした一年生かよ?」
「ちょうどいいぜ、花園の連中とまとめてやっちまおうぜ!」

 不穏な会話をしておられる。というか、花園の連中……? あ、そうか。
 この追いかけられていたやつら、花園一派の連中だったか。
 巨漢デブ、モヒカン、リーゼント……。確かに入学式の日にいたような気がする。

「やっちまうって、段田君を呼ばなくていいのか? 新庄は段田君が仕留めるって話だろ?」
「勝手なことしたら怒られるんじゃ……」
「あの花園を病院送りにしたやつだぜ? オレらじゃキツくね?」
「バッカ、病院送りにしたっていっても不意打ちして車で撥ねただけだろ。こいつ自身が強いわけじゃねえから平気だって。これは名を上げるチャンスだぞ? 上手くいけばもっと上のポジションに引き立ててもらえるかもしんねえ」

 あの……車で撥ねたってなに……? もしかして現場を見てない人たちにはそれが事実として広まってるの? 花園の一件はそういう認識されてるの?
 いやいや、ただの喧嘩でカーアタックかますヤツとか頭おかしすぎだろ。
 俺はそんなぶっ飛んだヤローじゃないよ……。
 まあ、うっかり空高く投げ飛ばして車の上に落下させちゃったりはしたけどさ。
 これが噂に尾ひれ背びれがつくってやつか。くう、とんでもない名誉毀損。
 というか、名を上げるってどういうこと?
 俺をリンチして得られる名声があるというのか? わけがわからん。
「ヘッヘッへ……覚悟しろよぉ……?」
 パキッパキッと拳を鳴らしながら近づいてくる十人くらいの不良軍団。
 その音を鳴らすやつ、関節が太くなって変形性関節症になる危険があるらしいからやめたほうがいいよ。

「しょうがねえ、おい、新庄怜央、ここは共闘といこうぜ?」
「花園さんに一発入れたお前となら、この人数差でもどうにかなるかもしれねえ……」
「気に入らねえが、今だけだからな!」

 勝手に話を進めている花園一派の三人組。なんかこう、かつての敵と一時的に手を組む少年漫画っぽい展開に持っていこうとしてらっしゃいますね……。
「いや、何言ってんの? 俺は喧嘩なんかしないよ?」
 こんな学校に近い繁華街で大立ち回りをしたら速攻で学校に連絡されてしまう。
 俺なんか制服着てるし。バレたらまた停学になりかねない。下手すりゃ今度は退学だ。

「はあ?」
「ああん?」
「お前、この状況で馬鹿か!? やらなきゃやられんぞ!」

 馬鹿はそっちだよ。
 まあ、この場を何もせず切り抜けることが難しいというのは同意できる。
 まったく、こっちは普通の高校生活を送りたいだけなのに。
 こんな物騒なことに巻き込みやがって……。
 仕方ない。ここはこういう状況に備えて考えておいた秘策を使うとしよう。
 俺は花園一派に追いかけられたときのことを教訓にし、柄の悪い連中に絡まれた場合に手を出さず乗り切る方法を模索していたのだ。
 今こそ、それを実行するとき――
 いざっ。
「頭が高いぞ」
 俺はわざと威圧的な声音でそう言い放った。
 そして、
 ビリビリッ!
 次の瞬間、敵の不良たちは身体をガクガク震えさせて地面に這いつくばっていた。

「ほがぁ……ほがぁ……」
「な……なんだぁ、こりゃぁ……」
「か、身体が……上手く……動かねえ……」

 俺の考え出した不良対策は雷魔法だった。一切の物理的接触をせず、こっそりと電気で相手を麻痺させて行動不能する。
 これなら目に見える事実としては暴力を振るっていないので、学校にバレても無実を訴えることができる。俺はただ腕を組みながら立っていただけ。
『絡まれただけで手は出してません!』とすっとぼけられる。
 何なら被害者として同情してもらうことまで可能だ。
 まさか他人に電気を浴びせる力があるとは夢にも思わないだろうからな。
「どうした? お前ら、俺が凄んだだけで腰が抜けたのか? 俺はまだ手を出していないのに! 手を出していないのに!」
 俺は同じことを二回言って、暴力を振るっていないことを強調した。あくまで不良たちがビビって勝手に腰を抜かしただけであると喧伝する。それは周囲に対するアピールでもあった。
 ちょっとした騒ぎになったせいで通行人からも注目されてしまったし。

「く、くそぉ、まるで全身に電気が流れてるみたいだ……身体中がしびれやがる……」
「まさか、この痙攣はあいつの気迫にビビったせいなのか……!?」
「そんな……オレらは言葉だけであいつに屈服しちまったのかよ……」

 俺のことを怯えた瞳で見上げてくる不良たち。
「他愛もない……まあ、今回は見逃してやるさ。これくらいの威圧で萎縮するような連中の相手をする気にはならんからな。自分たちの弱さに感謝するんだな?」
 強者っぽい台詞を吐き、俺は悠然とした足取りで立ち去る。
彼らが麻痺して動けないうちにさっさと逃げよっと。

「す、すげえ、まさか殺気だけでこれだけの人数を制圧するなんて……」
「バトルマンガみてえな野郎だぜ……とんでもねえ!」
「花園さんを空高く放り投げたのもあながち目の錯覚じゃなかったのかもしれねえ……」

 ギャラリーと化した花園一派の三人組が呆然としながら呟いていた。
 これで俺にちょっかい出すのは得策じゃないって思い直してくれたらいいけど。
 でも、放り投げたことは錯覚と思ったままでいてどうぞ?

「ちくしょう、新庄怜央は大したことないタラシ野郎じゃなかったのかよぉ……!」

 未だ動けずにいる不良たちの悔しがる声が背後で聞こえた。
 タラシってなんだ……? ま、どうでもいいか。どうせ戯れ言だろう。

 現場から少しでも遠ざかるために俺は早足で歩く。
 あそこにいたら手は出していなくても厄介なことになるのは確定してるからな。

「おい待てよ!」

 …………。
 花園一派の不良たちが後ろをついてきていた。
 ちっ、ついてくんなって……。
 こいつらにも電撃を浴びせておくべきだったか?
 追いかけられていたやつらと同じ場所で身動きが取れなくなったら可哀想かと思って何もしなかったけど、それは失敗だったかもしれん。

「聞いてんのか!」
「無視すんなよ!」
「おい!」

 しつこいな……。仕方ないので俺は振り返る。
「なんだよ、礼ならいらないぜ?」
 俺は不良三人組に言った。ちなみに『礼ならいらないぜ?』は一生で一回は言ってみたかった台詞のひとつだ。せっかくの機会だから言ってみた。
「くっ……確かにさっきのは助かったけどよ……」
 なんだか歯の奥にものが詰まったような言い方である。
 はっきりありがとうって言えばいいのに。

「つーかよ、元はといえばお前のせいでこんなことになってんだぞ!」
「そうだ! むしろ責任取れよ!」
「花園さんがいればあんなやつらから逃げる必要もなかったんだ!」

 ええ……? なんなのこいつら……。というか責任取れってさぁ。
 それ、この間も言われて厄介なことになったばかりのやつなんですけど。
嫌な予感がする。
「俺のせいってどういうこと? 心当たりが全然ないんだけど」
 俺が訊ねると、
「お前、こんなことになってるってのに……。ふん、まあいいだろう。教えてやる。すべてはお前が花園さんを病院送りにしたところから始まったのさ……」
 巨漢デブが語り始めた。感傷的な口調なのが少しシャクに障る。
 こう、古強者が過去の戦いの歴史を語るような雰囲気出してるのがなんかね?

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