前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 十一話

「馬飼四天王はこの辺りじゃ最強の代名詞だった……。それはお前も知ってるよな? けど、花園さんが一年生のお前に倒されたことでその威光にヒビが入っちまった。これまで絶対的と思われていた四天王が無名の新入生に負けた事実は他校の連中に隙を見せる形になったんだ」

「ふーん?」

 それでこいつらは今までのお礼参りで追われてたわけ? 幅を効かせていた強者が落ちぶれて狩られる側になる。正直、自業自得なのではないかという感想が……。

「しかも新庄怜央、お前、どうやったのか鳥谷だけじゃなく風魔まで誑かしやがっただろ?」

「誑かす?」

 何のことを言っているのやら。

「あの堅物の風魔が校舎でお前を見かけると積極的に話しかけに行くじゃねえか」

 あれは俺が魔の者の性へk……性質を取り戻していないか確認しにきているだけなんだが。

 いろいろと誤解を生んでいるようだ。

「女子の四天王とは目立った争いもせず懐柔したってんで、他校から見たお前は女の扱いが上手いタラシということになってる。おかげで花園さんは軟派な一年にしてやられた情けないヤツ扱いよ……」

「鳥谷と風魔も四天王なんて言われてたけど、結局は女だったとかなんとか言われて実力を疑われ始めてんだ」

「お前の外での評判は狡猾に要領よく花園さんを病院送りにした女タラシの一年坊主。そんなお前に制圧された馬飼学園の四天王はメッキが剥がれたって見くびられちまったのよ」

 鳥谷先輩は最初から友好的だったが、あくまで戦力として俺を引き入れたにすぎない。風魔先輩との戦いは人払いがされていたから目撃者がいないだけ。

 なのにそんな捉え方をされているなんて……。

 さっきのやつらが言っていたタラシ野郎とはそういうことか。

「月光の野郎もなんでか学校に来ねえから、お前にビビって逃げたってコトになってるし」

 月光っていうのは四天王で俺がまだ会ってない最後の一人のことか? そういや有名人のはずなのに校内でそれっぽい人物を一度も見かけた覚えがない。なるほど。そもそも学校自体に来てなかったんだな。何で来てないんだろう? 

 まさか本当に俺にビビってるわけじゃあるまいし。

「お前だって他人事じゃねえはずだぜ? なにせ、オレたちが全滅したら次は鳥谷の派閥が狙われるはずだからな」

 どこか自分には関係ないと思って聞いていた俺の内心を悟ったのか、巨漢デブが釘を刺すように言ってきた。

 なんだと? 鳥谷先輩が狙われる……? それは看過できないことである。

「当たり前だろ? お前が掻き回したせいで舐められたのは花園さんだけじゃねえんだ。馬飼学園の四天王そのものが大したことないって思われちまったんだからな!」

 他校の不良たちがターゲットにしているのは花園一派だけではないらしい。

 手始めにボス不在の花園一派から崩されているというだけで、馬飼学園の四天王すべてが対象になっているそうだ。

 鳥谷先輩や風魔先輩にも刺客が送られるのは時間の問題だろうと……。

 まさか花園を病院送りにしたことがそんな余波を生み出しているとは思わなかった。

「花園さんが入院中で、鳥谷と風魔は侮られて。月光も消息不明の今が馬飼学園を落とす好機と見たんだろう。やつらはここぞとばかりに動き出したんだ」

 花園一派もボス不在のなかで抵抗を続けていたが、少しずつ数が削られていき、今ではこの三人だけになってしまったらしい。

 俺が高校生活を送ってる裏でそんな抗争が繰り広げられていたのか……。

 数十分前まで期末テストが近いから勉強しなきゃとか考えてたのに。

 世界観の落差が激しい。



「ところでやつらって誰?」

 あの追いかけてきていた連中のことを俺は知らない。

 一体、どこのどいつだ? ぶっちゃけカタギなんすか?

「そりゃあ、アレだよ! 段田理恩(だんだりおん)の率いる出美留(しゅびどめ)高校さ!」

 段田理恩……。出美留高校……。

 全然知らねえ。でも普通の高校生みたいで安心した。

「出美留は段田理恩が頭角を現してトップになってから一気に名前を上げてきた隣町の学校だ」

「段田理恩は今一番勢いに乗ってるヤローでよ、去年の冬頃、出美留のトップに立ったかと思ったら近隣の高校三つをあっという間に支配下に置いちまった」

 …………。

 実のところ、他校を支配するという概念がイマイチピンとこないのだが……。

 まあ、そこら辺はあまり深く考えないほうがいいのかもしれない。

 ふんわりした感覚でスルーしていこう。

「さっきの連中もその出美留高校ってところのやつらなのか?」

「いや、オレらを追いかけていたのは恐らく配下になった三校……越多米高校、富羅知商業、烈亜久工業のやつらだな。あいつらは段田理恩の指示で動いてたんだ」

 ほう……。相手は出美留高校とかいうところだけでなく、その配下になった高校もということか。全部で四対一の勢力差。これまでは四天王の名前だけでそいつらを抑え込めていたのね。

 それって何気にすごいな……?

「だが、このまんまじゃ馬飼学園も出美留高校の傘下に入れられちまう!」

「そうなったら地獄だぜっ!」

「今までの自由はなくなるんだ!」

 そんなディストピアみたいな……。大仰な言い回しが好きなやつらだ。

「何を暢気に構えてやがる! 狙われているのは馬飼学園全体なんだぞ!」

 モヒカンが叫んだ。

「全体って、不良の界隈だけだろ? 大げさじゃね?」

 俺が冷静にツッコミを入れると、


「バッカヤロー! もし出美留の傘下に入れられたら、一般の生徒だって『御守り』を数千円で買わされるんだからな!」

「しかも定期的に新しいのを買わないと期限切れってことで狩りの対象になっちまう!」

「そうやって学校全体で永久にカモられることになるんだ!」


 そんな殺伐としたことになるの!? 都会の高校ってやべえな!



 よく考えたら、鳥谷先輩や風魔先輩に不名誉な評判がついてしまっているし、これはなあなあにしてはいけない案件かもしれない。

 放って置くと一般の生徒にも被害が出る可能性があるっていうのもね。

 でも、喧嘩をしたらマズいんだよなぁ……。俺が頭を悩ませていると、

「出美留の段田理恩は今でこそ三校を束ねるボスに収まっちゃいるが、一年生の途中までは冴えない陰キャ野郎だったらしい」

「噂じゃ、いじめられてカツアゲまでされていたんだと」

「けど、ある日、まるで別人が乗り移ったかのように強くなって当時の番格を叩きのめすと、そっから一気にのし上がって権力を拡大していきやがったんだ」

巨漢デブ、モヒカン、リーゼントの花園三人衆が敵のボスについて情報を話してきた。

 ふうん? 別人が乗り移ったかのようにねぇ……。

 いじめられていたようなやつが、いきなり不良のビッグボスに君臨するほど強くなる。

 そんなことありえるか? いや、ありえるか……。俺も記憶を思い出す前と後じゃ全然パワー違うもんな。

 結城優紗だって、チートを手に入れたことでその辺のやつらに負けない腕っ節を得た。

 ひょっとしたらその段田とかいうやつも異世界帰りだったり転生者だったりするのかも。

 うーん。けど、なんでもかんでもそっち方面で考えていくのはよくないかなぁ。

 念のため、そういう可能性もあるってくらいに留めておこう。

 しかし、そんな権力争いが繰り広げられているって都会の高校は世紀末か……?

 来年は妹もこっちの高校を受験するらしいから気をつけるように言っておかないと。

「新庄もいることだし、鳥谷や風魔にも話を通して協力を仰いだほうがいいんじゃねえか?」

「こうなった以上、オレらだけじゃどうしようもねえもんな……」

「月光のところのやつらにも声をかけてみるか?」

「そうだな、神門と不動は学校に来てたはずだし。あいつら、こういうことに付き合い悪いけど今度ばかりは参加してもらわねえと……」

 花園三人衆が無断で話を進めている。俺もいるってなんだよ。

 こいつら俺が協力する体で相談してないか?

「あっ! いましたよ! あそこっす!」

 三人衆に待ったをかけようと思って口を開きかけると、背後から不良の一団が……。

 うわ、またかよ……。しかも今度は先程よりも多い、二十人くらいの集団だった。



「うぃーす、どうも。花園一派の皆さんと……花園栄治を倒したと噂の新庄怜央っすね?」

 ゾロゾロとやってきた集団の先頭に立つ、マウンテンハットを被った少年が帽子のツバをクイッと持ち上げながらそう言ってきた。

「てめえはゴム!」

「なんでお前がここに!」

 巨漢デブやリーゼントたちは彼を知っているようだ。

「ゴムって?」

「あいつは後藤武蔵、通称ゴムってやつだ。段田理恩の右腕と呼ばれてる男さ」

 ゴムが通称ってなんかすげえな。

「まあ、オレっちのことはどうでもいいじゃないっすか。それよりも、ウチの段田君があんたらと会いたいって言ってるんっすよ。悪いけど、来て貰えます?」

 飄々とした態度ではあるが、断るという選択肢はないと言外に滲ませた口調で段田理恩の右腕君は言った。

「ざっけんなルッコラァアァ! オゥン?」

「誰が行くかッてんだルァ! ハァン?」

「用があるならてめえが来いって伝えとけエアラァ! ヨォオ?」

花園三人衆は巻き舌でツバを飛ばしながら拒絶の意思を示した。

「…………」

 さて、俺はどうする? またさっきの方法でやり込めて逃げるか?

 いや、だが……しょせんこいつらは段田理恩というやつの子分にすぎない。

 ここを乗り切っても大ボスの段田が諦めない限り馬飼学園へのちょっかいは続くのだろう。

 だったら、いっそ敵陣に踏み込んでしまうのもアリかもしれない。

 同じビビらせるのなら下っ端連中ではなく、ボスそのものに仕掛けたほうが根本的な解決になる気がする。

 ほら、雑草も抜くなら根っこからっていうし。

「俺は行くよ。お前についていけば段田理恩と会えるんだな?」

 俺はマウンテンハットの少年、ゴムとやらに言う。

 何度も撃退を繰り返すより、一発で終わらせたほうがきっと問題にもなりにくいはず。

「おっ、物わかりがよくて何よりっすね」

 お使いが達成できそうで上機嫌な表情を見せるゴム氏。

「はあ? 新庄怜央、お前……マジか? コレ、絶対大勢でリンチしてやろうってやつだぜ?」

「まさか本当に会いたいだけだと思ってんじゃねえよな?」

「もっとこっちも人数集めてからでいいじゃねえか!」

 花園三人衆は俺に考え直すよう言ってくる。

「まあ、不安ならお前たちは無理に来なくてもいいよ」

 花園三人衆の意見は確かに冷静な判断と言える。だが、俺にとっては身の危険など到底ありえないこと。むしろ今後もしつこく連中に関わってこられるほうが厄介だ。

 ほら、いつ外で絡んでこられるかわからないって普通に怖いじゃん? 

 もし早く家に帰ってトイレに行きたいときとかに声をかけられたら……。

 それは勇者百人を相手にするより恐ろしいことだ。

 部活メンバーといるときだったら巻き込んでしまう可能性もあるし。

 そういう心配ごとはここで断ち切っておきたい。

「バ、バッカヤロー! 馬飼学園のメンツがかかってんのにお前一人だけ行かせるわけねえだろうが!」

「テメエだけ差し出して、おめおめと逃げたら花園さんに顔向けできねえっての!」

「こ、こうなりゃ人数差なんて関係ねえ! やってやんぜよ!」

 ええ、こいつらついてくるの? 別にいらないけど……。

 不良はメンツというものを大事にするって須藤が言っていたのを俺は思い出した。



 俺たちが連れてこられたのは、声をかけられた地点から徒歩で数分ほどの場所にある閉業したライブハウスだった。

「くっそー段田のヤロー」

「馬飼学園のシマに拠点を構えてやがったとは……」

「舐めたマネしてくれやがって」

 ぶつくさと言ってる花園三人衆。うちの学校のシマとかあったのか……。

 俺たちは入り口から薄暗い階段を降りていく――



 階段を降りて、段田理恩が待っている地下のステージ空間に辿り着く。

 そこにはまた二十人くらいの不良たちが待ち構えていた。

 迎えに寄越したのが約二十名。

 ここにいるのも約二十名。合計四十名くらい。勢揃いしてやがんなぁ……。

「馬飼学園の諸君、よく来たな。オレが出美留高校のアタマを張ってる段田理恩だ」

 チリチリして束になったような髪――いわゆるドレッドヘアの男が、ステージ上に置かれた玉座みたいな椅子に腰掛けていた。

 あれが段田理恩……。対峙したドレッドヘア野郎を俺はじっと見つめた。とてもじゃないが、いじめられっ子だったとは思えない風貌と雰囲気だ。

「よっこらせっと」

 段田理恩はステージ上から身軽に飛び降りて俺たちの前にやってくる。

「せっかく遊びに来たお客様に飲み物を用意してやるよ。おい、あれを持ってこい!」

「うっす!」

 段田理恩が指示すると、子分が吸い殻の入った灰皿とブランデーの酒瓶を持ってきた。

 子分からそれらを受け取ると、段田理恩は灰皿にトクトクとブランデーを注ぎ、

 そして――

「ほら、飲めよ」

 段田理恩はできあがった灰皿ブランデーを俺に差し出してきた。

「こ、この野郎! ふざけやがって!」

「どこまでコケにすれば気が済むんだ!」

「新庄怜央、受け取ってやる必要ねえぜ! 叩き落としてやれ!」

 花園三人衆は段田理恩の挑発に声を荒らげる。

「遠慮しなくていいんだぜ? グイッといっちゃってくれよ? 歓迎のキモチだからよ」

「…………」

 俺は無言でその灰皿を受け取ると――

 パシャッ。

 バキンッ!

 中身を床に捨て、両端を掴んでステンレス製のそれを二つに引き裂いた。

「はあああああああ!?」

「う、うおっ……!?」

「どんな指の力してやがんだコイツ……!」

 花園三人衆も含め、ライブ会場にいた不良たちがどよめきの声を上げた。

 よしよし、いい感じで威嚇になったな。

「ほう、おもしれえじゃねえか」

 だが、肝心の段田理恩は愉快そうに笑っただけで一切動じていなかった。

 ふむ、この程度ではビビらないか……。そこそこ肝の据わったやつらしい。

 しゃーない。さっきと同じように雷魔法で片付けよう。ノー暴力主義です。

「跪け」

 俺は威厳があるように思わせる声音でそう言った。

 ビリビリッ。


「ぎゃあっ」「ふがっ」「ほげっ」


「おお、さすがだぜ!」

「また気迫だけでやっちまいやがった!」

「ウチの新庄怜央を舐めんなよ!」


 花園三人衆が歓声を上げる。いや、ウチのって……。お前らはどの立場なんだよ。

 バチンッ。

 ん……? 一部、魔法が弾かれたような感覚があった。

「なにっ……!?」

 段田理恩サイドの不良たちが軒並み地面に這いつくばっているなか、当の本人……段田理恩だけは悠然と立ったままだった。

「お前、今、何をしたんだぁ?」

 段田理恩はニヤニヤと余裕に満ちた表情を俺に向けて訊いてきた。

「お前は……」

「ククク、まさか魔法とはね? まったく、こっちで使うヤツに出会うとは思わなかったぜ。ただ、あんなレベルの低い魔法がオレに通用するわけねえだろ?」

 段田理恩は俺が魔法を使ったのを見抜いていた。

 こいつ、何者だ? やっぱり、元勇者か転生者だったのか?

「そういう戦い方をしようってんなら……余計なギャラリーはいないほうがいいよな?」

 段田理恩はそう言うと、パチンと指を鳴らした。

 その瞬間、俺は何かの力の動きを感じた。

 これはもしかして……魔力……? 

 だが、俺の知っているものとは少し違う気がする。

 結城優紗と違って俺はそこまで識別能力が優れているわけじゃないから確信は持てないけど。

 バタン。バタン。バタン。倒れる音が三つ聞こえた。

「おい、お前ら……!」

 花園三人衆が意識を失って倒れていた。し、死んで……!? は、いないようだな……。

 すうすうと寝息を立てている。なぜいきなり眠りだしたんだ?

 見れば、俺の魔法でビクンビクンしていた段田理恩の子分たちも寝ていた。

「他の連中は寝かせておいたぜ。事情を知らねえやつらが見てるとやりにくいだろ?」

 不敵に笑う段田理恩。こいつがやりやがったのか……。

 つまり、目の前の男は魔法が使える存在ということだ。

「お前は一体……」

「フッフッフ、聞いて驚けよ? 段田理恩とは世を忍ぶ仮の器、オレの正体は……魔界最強の悪魔師団『ソロモン72柱』に名を連ねる一人、ダンタリオン様だ!」

 いや、誰だよ。



「はあ? オレのことを知らねえなんてモグリかよ!? 36の軍団を率いる悪魔の公爵ダンタリオンだぞ!」

 俺の反応が芳しくないことを悟ったのか、段田理恩は付け加えて自己紹介してくる。

 知っていて当然みたいな言い方をされたが、悪魔の世界で有名人だろうと俺が知ってるわけないじゃん。

 というか、悪魔って実在してたんだ……。宇宙人もいたし、エクソシストっぽいのもいたし、現実って意外と現実してないよな。それとも都会ではこれがスタンダードなリアルなのか。

 ん? 悪魔……。魔界……。魔……!?

「さてはお前『魔の者』か!?」

 俺は一つの可能性に思い至る。そうだとしたら許さん! 絶対にだッ!

「魔の者……? いや、悪魔の者ではあるけど?」

 段田理恩は俺の言葉の意味が理解できていないようだった。

 反応が鈍く、困惑している様子でもある。

「対魔人という職業の方たちに覚えは……?」

「なんだそれ? なんかのゲームとかアニメ?」

「…………」

 どうやら悪魔は『魔の者』ではないらしい……。

 せっかく糸口を掴めたかと思ったのに。

 おのれ魔の者め。いずれ正体を曝いて必ず一発殴ってやるからな!



「で、お前はどこのどいつだよ? 地球でも魔法を使えるってことは最低でも中位悪魔か?」

 仕切り直しとばかりに段田理恩が俺の正体を訊ねてくる。

 まあ、向こうも特殊事情持ちっぽいし正直に話してもいいだろう。

「俺は悪魔じゃねえよ。魔族の王、魔王サイズオンだ――いや、だったというべきだな」

 どうもあっちは俺を同じ悪魔と勘違いしているようなので訂正も入れて名乗った。

「魔族? サイズオン? そんな名前の魔王なんて聞いたことねーぞ? 魔王はバエルだぜ?」

「いや、それは悪魔の魔王の話だろ。俺は異世界の魔族の王だから……」

「…………?」

 イマイチ通じていないのが表情でわかった。いいか? お前は悪魔で俺は魔族なの。字面が近いけど違う種族なの! まったく、悪魔の世界にも魔王がいるってややこしいな。

「わかったか?」

「ああ……えっと……?」

 段田理恩は目線を上に向け、今度は下に向け、そして――

「魔王を僭称するとはふてぇ野郎だ! オレ様が直々に根性を叩き直してやるぜ!」

 段田理恩は思考することをやめたようだった。



「まさか、馬飼学園の新星、新庄怜央がオレと同じような背景持ちとはね。通りで短期間でパネエ躍進をするわけだよ。オレは肉体の持ち主と契約して憑依しているが、お前はどういう感じなんだ? その……魔族ってのは人間と契約したりすんのか?」

 ああ、よかった。

 どうやらこいつは魔王の件(くだり)がよくわかっていないだけで、俺が悪魔でないことは理解してくれていたらしい。

 俺に絡んでくる人たちって基本話が通じないからな……。

 こんなレベルでも救われたような気持ちになってしまう。

 馬飼学園の新星とか言われていたのは聞こえなかったことにした。

「俺は人間に転生したんだよ。この身体は産まれたときから俺のものだ。そっちは――その言い方だと、お前は本来の段田理恩とは別人で、もともとの段田理恩の人格が他にあるってことか……?」

「ああ、本物の段田理恩は押しに弱いアニメオタクのいじめられっ子さ。こいつの強くなりたいって願いを聞き入れて、今はオレが身体を使わせてもらっている」

 段田理恩は親指で胸の辺りをトントンと叩いてそう言った。

「人間の身体を奪って乗っ取ったのか?」

「さあ、どうかな? もしそうならどうする?」

 段田理恩……ダンタリオンはニヤッと挑発的に笑う。

「別にどうもしないさ。それは俺に関係ない事情だからな。馬飼学園を狙うのは諦めてもらいたいと思ってるけど」

「へへっ、そうかい……ハハッ! でも、そいつは無理な相談よ。言ったろ? オレは段田理恩の強くなりたいって願いを叶えないといけないんだ。近隣で最強を謳われる馬飼学園を落とせばその願いに一歩近づく。やめて欲しけりゃ力でオレを屈服させてみな?」

 俺の答えにダンタリオンはなぜか少し機嫌をよくした様子だった。

 何かこう、好感度の上がる選択肢みたいなもんを選んでしまったらしい。

 上がらなくていいんだが。

「ホラホラ、早くやろうぜ! かかってこいよ!」

「しょうがねえな……」

 ここなら目撃者もいないし、軽く捻ってやるか。肉体的な説得で諦めさせよう。

「しゃおらぁっ!」

 ダンタリオンは掛け声を上げると、一直線に突っ込んできた。

 かかってこいっていったのにそっちが来るんかい。

「オレの動きについてこれるかなァ!?」

「…………」

 早いが単調だな……。俺は間合いに入ってきたダンタリオンの顔面を掴んで床に叩きつける。

 よし、一丁上がり。

「ん?」

 確かに叩きつけた感触があったヤツの肉体は消えていた。これは……?

「おいおい、新庄怜央さんよ? 一体どっちを見てるんだ?」

 振り向くと、小馬鹿にしたような表情を浮かべたダンタリオンが腕組みをして立っていた。

「今のは……幻影か……」

「ご名答! なかなかの慧眼だな!」

 こいつ、幻覚を見せる類いの魔法が使えるのか。それはちょっと厄介だ。

 なるほど。

 ダンタリオンは公爵とか言ってたし悪魔の中では雑魚ってわけじゃないんだろう。

 公爵って貴族の階級だと最上位だったもんな。

「フッフッフッフ……果たしてお前はオレに攻撃を当てることができるかな?」

 余裕をぶっこいている段田理恩ことダンタリオン。

「まあ、そうくるってわかっているならそれなりにやっていくだけさ」

 俺は少しだけ気を引き締めてダンタリオンと再度向き合った。

「オレ様の繰り出す幻術を――」

「お前ごときが」「見破れると」「思っているの」「かな?」

 なんか、ダンタリオンが五人に増えた。

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