『パタソン』より 「図書館」

ぼくはニセアカシアの木が好きだ

やさしく、白い、ニセアカシア、

おいくらですか?

おいくらですか?

花盛りの

ニセアカシアを

愛することにかかる費用は?



サミュエル・パトナム・エイブリー

でも調達できない

ほどの大金が要る

なんと多くの

なんと多くの

緩やかに傾斜した緑色の

ニセアカシア

六月の

鮮やかな、小さな葉たちは

花々の中で

白く、やさしく、

寄り添っている、

大きな代償を

支払いながら。



書物の冷気が時々

人の心を午後の暑熱の

中へと連れ出す。書物が冷たく

感じられ、心を導いてゆくのなら。



だって書物の中には風が、それとも

風の霊が吹くのであって、それが

僕らの暮らしを反響するから。

強い風が僕らの耳の

管を充たして、やがて僕らは

実際の風が吹いたと思って



      心を導かれてゆくのだから。

街道から引き寄せられた僕らは

僕らの心の隔離を打破して、

書物の風に拾われて、風下へ、風下へ、

探究することを続けていく。

やがて僕らは風と

僕らにかかり心を導いていく

風の力の

どちらがどちらか分からなくなる。



そして心の中で育ちはじめる

香りは、たぶん満開のニセアカシアの香りで

それ自体が流れる風であり



心を導いていくものである。



急流が

乾きかけている下で

川が渦巻いている



         それがまず思い出される。



無用な街道をこの数ヶ月歩き続けて

疲弊したいくつもの顔が、彼に向かって

夕暮れ時のクローバーのように折り重なる。何かが

彼を引き戻したのだ。かれの



         心へと。



不可視の滝はのたうちまわり、その正当な権利を取り戻す。

そうしてまた落ちて、落ちることを決してやめない。

轟音を立て、落ちる、滝が反響するのでなく、

風に乗ってやってきた、滝の噂が反響する。



        その力は弱まることのない



美しい事物、









ぼくの鳩、無力な、風に吹かれているみんな、

火に触発されて

       なおも無力な、



轟きは(音を立てずに)感覚を溺死させる、

その反復行為によって。

          それは不本意ながらベッドに横たわり

眠る、眠るよ、眠るんだ

          暗いベッドで横になり。



夏だ、夏が来ているのだ!

轟きは、かれの心の中で

未だ弱まることがない。

ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ

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