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弁明する十四行詩

僕の書く詩がワイセツである 反人道的でさえある と 非難する皆さんにこれだけは 伝えておきたい 僕が使った言葉の意味の 一つ一つを合算しても 攻撃的なメッセージは 何ら浮かび上がりはしないだろう もし僕の書いた詩が皆さんの 神経を逆撫でしたのなら それは言葉のしたことだ それは言葉のしたことだ 言葉を信じて 任せた僕が馬鹿だった

    • たどたどしいうた

      意味のない 劇のない  美しくない 何の効果ももたらさない たどたどしいうた そういう うたが ぼくは今すぐ必要なのだ リズムを持たない 工夫のない 夢も希望も語られつくした しぼりかすの言葉の うたが その気になれば 永久に うたっていられる ような うたが ぼくは今すぐ必要なのだ

      • ソネット 138番

        私の愛する人が、自分は真実のみを語っていると誓うとき、 それが嘘だと承知の上で、私はあの人の言うことを信じる。 すればあの人は私のことを、狡賢い男女の駆け引きには まだ疎い、うぶな若者だと思ってくれるかもしれないのだ。 私の青春がとうに過ぎていることは、あの人も知っているはずなのだが、 若いと思って欲しいという、虚しい願いのために私は、 偽りまみれの言葉を信じる。 こうして明白な真実が、双方によって握り潰される。 しかしながら何故に、彼女は自分が嘘つきであると言わないのか。

        • 入れて

          諸先生方、 皆さんの冷蔵庫には 九十九人の美女と 一匹の魚が 所狭しと 詰め込まれて いるようですが 僕がここへ連れてきた 一文なしの僕もそこへ 入れてやってはくれませんか ご覧ください彼はこんなに 獣のようでその反面 幽霊のようでもある そんな彼がその冷蔵庫に 入る資格がないだなんて 言わせませんよ僕は絶対

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        弁明する十四行詩

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          必ずやってくる未来

          僕のことが気持ち悪い 僕が時代遅れであると 何の抑圧も抵抗も 恐れることなく 皆が異口同音に 言葉にできる 自由な時代が いつか必ず やってくるので それまであなたは ただひたすらに 我慢して 口を噤んでいてください。

          必ずやってくる未来

          夜のかぞえうた

          数えきれない老若男女 が死んだやりきれない夜。 月は生き残った子供たち がこんな遅くに戯れているその人数を 数えている。 いち、に、 さん、 いち、に、 さん、し、 どこまで数えたんだっけ? いち、に、 さん、 し、あなたの意地悪なところがきらい。 いち、に、 さん、し、 いち、に、さん、 し、あなたは何におびえているの? いち、に、さん、し、 いち、に、さん、 し、またいちから数えなおす。 夜は暗いし、 月は何度も 数えなおして、いち、 

          夜のかぞえうた

          レンフィールドは狂った

          土地の人々の迷信じみた 忠告を聞き入れなかったことが 失敗だった。 現実とはきっと本質的に こういうもので言葉よりも先に 手を出してくる野蛮なものだ。 葡萄酒を神聖な血に見立てる 人びとの理想を逆手に取って 現実は血と葡萄酒を同じボトルで保管して 見分けがつかなくしてしまうのだ。 狂ったレンフィールドは帰途の大嵐を生き残り 露悪的な現実の生きたミニチュアとして 故郷のブリテン島へいくらかの 害をもたらして死んだ。

          レンフィールドは狂った

          アンビバレンス

          ありもしないアンビバレンスをあなたに。 実態は極めて単純なものだ。 ただ言葉にしたくないのだ。 新たな火種は撒きたくないから。 オレは自分を極悪非道と思っていたが アイツと比べたらオレはまだ まともだ。 まともだ。自分の声はすべて罠だと 予め伝えてあるから。野にある草や花にも、 もし言葉が通じるのなら伝えていたから。 愛にも鮎にも地中海性気候にも、 もしも奴らが聞く耳を 持っていたなら。 ありもしないアンビバレンスをあなたに。 あなたは聞く耳を隠し持っていると 私はまだ 

          アンビバレンス

          叫び

          一寸の虫にも五分の魂。 人は言葉で作られてあるから そのままであろうとすればするほど嘘になる。 テクニック。 叫び。 眠るように肉になる。 悲しいだけの肉塊に戻る。 テクニカル。 吐息。 ユーモアを削って。 もっと大きな声で歌いなさい。 叱咤。誰から誰へ? やつあたり。 自分自身。 ユーモアを削って。 もっと大きな声で歌いなさい。 懇願。誰のため? 負け惜しみ。 高らかに。 ユーモアを削って。 先生。あなたが生まれた日には 私はすでに生まれていて いつも最後

          短歌 7首

          プロットの都合で馬のように死ぬモブのオーガズムの喧しさ 性欲にさえ堂々と胸を張り、危なげのない白河夜船 神がかり的な言葉で人々を幻惑しないマグルの詩人 江戸時代、平安時代、同時代。あとの時代はきみに譲ろう。 (※ウォルト・ホイットマン的自我。) 「綺麗でも何でもない」と満月が着古した夜への逆恨み。 傾いて滲みぐらつく印影、役場に登録してない揺らぎ。 文学を知る者たちよこの歌の「作者の気持ち」暴いて見せよ。

          短歌 7首

          あなたとの

          時間の傷はすべてが癒し、響きを濾過して元の木阿弥 彼の死は今思えばあまりにも ひどく柔らかな胸に抱きしめられる永遠 次はない。 どんな死もメタファーとしては笑い話だし どんな残酷な言葉にも胸打たれよう それが言葉である限りは。 さして美しくもないものは放っておけ。  美しさは罪だから 美を憎んで人を憎まず。 美人は人であるから憎まず。 永遠でないから次がある。永遠でないから人を憎まず。 時間の傷はすべてが癒し、響きを濾過して元の木阿弥 私たちは這いずりまわって言

          あなたとの

          ソネット 147番

          私の愛は高熱に似て、しつこく長引いて 病とともにあることを望んでおり、 病を酷くするような食生活をして、 病人の気紛れな欲求を、徒らに悦ばせている。 私の愛の主治医であった私の理性も、 言いつけを守らぬ患者に腹を立て、 匙を投げてしまい、もはや不治の病に侵されている私は、 治療を拒む色欲が、死をもたらすものであることを知った。 理性の忠告を聞かなかったせいで、私はもう手遅れで、 永久の不安に我を失い、発狂する。 私の考えることも話すことも、狂人同様で、 真実の断片を闇雲に拾い

          ソネット 147番

          ソネット 130番

          私の愛する女の目が太陽に似ているとはお世辞にも言えない。 珊瑚の方が、あの人の唇よりもずっと鮮やかな赤色だ。 雪が白いと言うならば、あの人の乳房は黒ずんでいる。 髪の毛が針金だとするならば、あの人は頭から黒い針金を生やしている。 赤と白の薔薇が織りなすダマスク模様を、花園で目にしたことはあるが、 そういう薔薇はあの人の頬には見当たらない。 あの人のあたたかな吐息より、 もっと心地よい香水だって売られている。 あの人が話すところを聴くのは好きだが、 音楽の方が遥かに耳を悦ばせる

          ソネット 130番

          ソネット 40番

          奪え、私の愛のすべてを。そう、奪い去れそのすべてを。 私から盗み続けてきたあなたが、このたび盗んだそれは何か。 それは真正の愛であると、あなたは思っているかもしれないが、違う。 今度の盗みを働く前から、私のそれはすべてあなたのものであったから。 私があなたへ愛を贈れば返礼としてあなたは私から愛を奪ってくれる。 それは私の愛に便乗しているに過ぎないから、そのことであなたを責めはしない。 だがもしあなたが盲目な情念に駆り立てられ、あなた自身をも欺いて、 結婚などしないとうそぶきな

          ソネット 40番

          短歌 3首

          性欲にさえ堂々と胸を張り生きていかねばならない日々だ。 不条理な日々をまっすぐ歌う僕、変な世界の変なWANIMAだ。 ジョン・ダンの冗談じみた愛の詩に揺れる冗談みたいな僕ら

          短歌 3首

          この蚤を見てくれ。蚤の中に見出してくれ。 君が僕に拒んでいるものが、如何にちっぽけであることか。 蚤はまず僕を刺し、次いで今は君を刺し、 つまりは僕ら二人の血が、蚤の中で一つのものとなっている。 君にだって分かるだろうが、こんなことが罪や、恥辱や、貞操の 喪失に当たろうはずがないし、 まして蚤は愛を語らうことさえせずに、楽しみにふけり、 二人から吸い上げた一つの血で、はち切れんほどに膨れている。 ああこんなこと、僕らには到底できない。 待ってくれ。一匹の蚤を殺すことで、三つ