ファウスタスとヘレンの婚礼 1

我々は到達するであろう、律法の御業によりて。
ギリシアの異教徒どもはヘレンの血統の勢力を増大させることで
イシュマエルの血を引くトガルマ王およびその悪魔的な
青く燃える鎖帷子に対抗しようとした。
奈落の王アバドンの軍勢、キティムの野獣どもを
ダヴィド・キムヒ師、オンケロス師、アベン・エズラ師は
ローマの象徴と解釈した。
ベン・ジョンソン『錬金術師』より

精神は時折、自分は焼かれ、値札を貼られる
パン生地に過ぎないと、露骨に示すことがある。
パンは容認された大衆に配分されてゆく。
時代を区分するために設置された仕切りの間で
メモの切れ端、ベースボールのスコアの山で
タイプライターの微笑み、株式市場の相場に紛れて
汚れた翼が両義性を噴出させる。

雀の翼が精神を掠め飛ぶ。
数字がアスファルトに拒絶され、
時代の余白に雪崩れ込み、歩道の縁石にメリハリをつけ
多種多様な夜明けを護送して街角を曲がり
薬屋へ、タバコ屋へ、理髪店へ連れてゆく。
やがて刻々に変化する玉虫色の午後が突如
彼らをどこかへさらってゆく。
そこはひょっとすれば純潔でさほど
断片的でもない冷たい
場所なのかもしれない。

ここにある世界は広がりを持っている。
相容れない事実の愛によって結び目を
ほどかれた者にとっては・・・。

だがしかし、想像してみて欲しい。
ある午後に僕は電車賃と切符を忘れたが
こうしてなんとか辿り着いた。
しかし記憶がなく、乗客に囲まれて
今いる場所がわからない、
けれども自己を見失いはしなかった。
そこで僕は通路を挟んだ向こう側にお前の瞳を
見つけ、それは微かにきらめいて
前兆を示した。道楽者だよお前は。
今ではお前と張り合おうとする奴はいない。
少しだけ陽気なお前は、やかましい音を
立てて震える窓のそばに立っている。

どうにかして僕のこの手でお前の
その両の手に触れることはできないだろうか。
夜を数えるお前の両手には
緑と桃色の広告が点描されているのである。
そして今、そこの大動脈から明かりが失わ
れはじめる前に僕はお前にこの二束三文で売り
渡された血と接触してもらいたいのである。

誰もが夢の中で追い詰められ、聖なるパンの
ような白い頬の恋人のことをろくに知らずに、
その口から柔らかな言葉を差し出そうとしても
丘の上を照らす月の光が雪に接触するときの
ようには行かない。

万物は考え抜いた上で転向する、お前の深遠
な赤面を目にしたために。恍惚が四肢と胴体
を縫い合わせるとき、虹が膨張し喉元と脇腹
を圧迫するとき、 否応なしに世界の身体は
独創的な塵芥にまみれて泣く。
欲しているのは空の上で瞬く欠落、
お前の胸に咲く青い花。

この地上は半透明に死へと滑ってゆくのだろう。
だが僕がこの腕を差し出すのならそれは身を屈め、
一度は去ったお前のもとへと近づくだろう。
ヘレン!お前は知っていた、取り乱した手の重圧を。
それは目まぐるしく鉄と土が交互に入れ
かわるものだからお前を永遠に抱きとめ
ておくことはできないのである。

そうしてついに僕はお前と接触する。最終的な
炎の中でお前は終局の鎖に繋がれた状態で発見
されるが、お前は囚われの身ではない。
弾力のない血走った無数の瞳はいくつもの白い
都市を経由して、白く受け継がれてきた。
それは我々一人一人にのみ与えられる世界である。

容認せよ、お前の高度に釘付けされて孤立してしまった瞳を。
それは歪められた信仰の軸であり友好の道に沿う。
それは拍動することを続け、やがて時計のない時代に出る。
人知れず燃え盛る崇拝の球体。

ハート・クレイン

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