見出し画像

Plain English—for Whom?

ライティングでは,誰にでもわかるように簡潔に書くのがいいに決まっています.

英語ではPlain Englishという表現があり,長年ケリー伊藤さんという人がこの分野での日本語でのスポークスマンをやっています.ただ,参考にはなるけれども,実のところ,何をplain(簡潔な)と呼ぶかは簡単には決められない問題です.

単純に考えて,文構造の問題による簡潔さを重視するのか,語彙の難度を下げるのか,という問題があります.やさしい単語を使って「日本で多くの人がこの化粧品をつかうなら,会社は外国でそれを売ることを考えるかもしれないね」ということを

If a lot of people in Japan use this cosmetic product, the company might think about selling it overseas.

などとごくごく普通の英語学習者は表現すると思いますが,慣れている人ならば,

This product's success in the domestic market could lead to its export success.

なんてするかもしれません.この方が文構造的にはスッキリします.でも,語彙レヴェルはかなり上がっています.多くの英語上級者にとってはこっちに近いセンテンスを良いセンテンスと呼ぶと思います.この類のセンテンスを書けるようになるためのベストセラー名著はこれです.あなたがすでになんとか意味が通じる程度には書けるけど,でももう少し洗練した英語を使いたいと思っているの人にはものすごく効果を発揮すると思います.

でも,冷酷な話をすると,ほとんどの日本人はCEFRでのA1とA2です.少なくとも発信スキルに関しては.だから,それなりにできる人を除いては,ものすごく英語ができる鈴木健士(たけし)さんが親切に教えてくれるセンテンスビルディングのコツはちょっと使いこなせないと思います.

実は,この鈴木健士さんの本が出る少し前にあるベストセラーが出ています.それが,中山裕木子(ゆきこ)さんのこの本です.

この本が出たとき,ネット上で揶揄する人がいましたが,正直,上の鈴木健士さんと同じぐらい英語がものすごくできる(ちなみに,中山裕木子さんはこんな本を最近だしています)技術翻訳の人のスキルをごく普通の一般人に役に立つように優れた編集者がプロデュースすればこういう本になると思いますよ.

ライティングにおいて英語ができるようになるには,基本的には,

1) Who Does What(だれがなにする)という書き言葉でも話し言葉でも通用する大原則があって(これを確かいちばん上のケリー伊藤さんはSomebody does something.と呼んでいたし,一般的にはSVOと呼びますがそういうことはどうでもいいです),それに慣れるのが最初です.

2) 1)だけでは複雑なことがらを表現するのは苦しいので,その応用にあたる接続詞を使って2つのセンテンスを1つにする方法を学びます.また,すべての動詞が機械的にWho Does Whatに「人を表わす名詞(のカタマリ)」「する動詞」「ものを表わす名詞(のカタマリ)」を入れられるとは限りませんので,1つ1つ基本的な動詞の使い方を学んでいく必要がでてきます.

3) さらに,洗練されたセンテンスを作る上で『ここで差がつく!英文ライティングの技術』に書かれていることが役に立つのだと思います.

即ち,意味順です.でも,こんなことを書いてしまったら問題発言になってしまうと思いますが,実際はこのWho Does Whatがピンとくるかどうかというすごく大事なところでつまずく学習者が大量にいるのかな,と思っています.そういう人にはせっかくすごくきれいな日本語で説明されているこの本も難しいのかもしれません.そういう人には小学生用のこの本もあるのですが,ただ単に書籍の対象年齢を下げれば簡単になるということでもないと思うので,なんとかここだけは乗り越えてほしいところです.

自分が関わった本ではこういうのがあります.英語が本当に苦手でそれでも英語のセンテンスを生み出せるようになりたいという人はLesson 0: 5Ws & Howと意味順というP.16-P.25だけで良いので繰り返し読んでみてください(実は,この箇所はぼくがほとんど自分ひとりで書きました).

話を少し戻すと,簡潔な英語で書くというのは,語彙・表現がある程度あれば選択肢が広がり,その中でもっともわかりやすいものを選べるのですが,それまでは,Who Does Whatという大原則を頭に叩き込み,その大原則にしたがってセンテンスを生み出していき,そこで出会う問題にひとつひとつ立ち向かっていくというのが面倒なようでもっとも効率的な学習方法であるような気がします.

『英文を編む技術』はこのWho Does Whatの壁を超えた人に向けて書いていますが,夏頃には別のもう少し下の読者対象に向けて新たなライティングの本を出します.そこでは,いま書いたような問題で困っている学習者でも,少し長めの内容を英語で書けるように,ということを目指しています.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?