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They could say, they wouldn't say,

ときどきインターネット上では,「学校ではこう習ったけどネイティヴスピーカーはこういう」的なことが書かれます.それに対して「そんなことはない」「自分は正しく習った」と反論することもあります.正直,そういう議論にはあまり乗らないことをお勧めします.

昔から指摘されてきて,いまだに議論になるのはhad better do sthという表現です.この表現を学習者が適切でない場面で使用し,当然のごとくネイティヴスピーカーや英語を日常的に使っている人から指摘を受けることがあります.ほとんどの場合,その学習者は「『…したほうがよい』はhad betterを使いなさいと中学校/高校で英語の先生に教えられた」と答えます.

これを受けて現役の英語教員が「私の周りの英語の先生で,had betterには脅迫のニュアンスがあり,目上の人に対して使うことが不適切である,ということを知らない人はいない.先生は正しく教えていたのに,ちゃんと聞いていなかっただけだ」という反論することもよくあります.

この反論をする気持ちもわからないではないですが,ぼくに云わせれば仕方がないことです.教えられたことをすべて覚えている/身につけていると学習者に過剰に期待するのは良くないです.それほど不真面目な学習者でなくても,授業で補足的になされた場面やニュアンスについての説明,辞書での訳語に付加される説明(辞書業界ではこれを「限定」と読んだりする)に意識を向ける人はそれほど多くはありません.「…したほうがよい」という訳語を見た時点で勝手に「やさしく提案するときにこれを使えるんだな」と推測してしまうのが普通です.

いっそのことhad better do sthという表現を教えなければいいという考え方もあるでしょう.知っている人は知っていることであえてここに書く必要もないのかもしれませんが,(had/'d) better do sthというのは何か悪さをしている子供(でなくて不良少年やヤクザの下っ端とかでもいい)が見つかる危険を察知して「逃げよう.見つかったらやばい」というときにWe('d) better go (now).のように云うぶんには自然なわけです.

では訳語を「…しないとやばいことになる」ぐらいにしてしまっていいのか,というと文句を云う人も出てくるかもしれません.まあ,「…したほうがよい」に関しては『スピーキングルールブック』にも書いたことですが,might/may want to do sthがいちばん使いやすいし無難だと思います.問題は,そういうことじゃないです.基本的には,ある表現が適切であるかはcontext(コンテキスト,文脈)次第によるし,それがわかるようになるにはそれなりの場数を踏まなければいけないということです.実際,教室内でhad better do sthを間違わないで使えるようにしたいのであれば,最低でも,会話例を用意してこの時に使えるかどうかを確認するような練習問題が必要になります.ただ,それにかける時間を有効かを決めるのは,もっと大きなcourse design(授業計画??)の問題になってきます.

まあ,正直,こんな表現はぼくはどうでもいいと思っています.というか,なぜhad better do sthばかりがしょっちゅう話題になるのか疑問です.それより実際,英語学習者でかなり英語ができることになっている(下手すると英語を教えているような)人でさえYou must do sthとかYou must not/mustn't do sthを普通なら肯定はYou're supposed to do sth / You can do sth,否定ならYou're not supposed to do sth / You are not allowed to do sth / You can't do sthを使うはずなのになあ,と思う時に使っているのを何度となく耳にしていてこっちのほうが深刻度が高いと密かに(書いてしまったら密かにでもなんでもない)思っているからです.辞書をよく見ると法律的な・あるいは権威のある側からの義務の遂行や禁止を表わすことがなんとなく書いていますが,学習者はそんなことは無視します.それに,とっつきやすく使いやすく見えるでしょう.mustはhave toやbe supposed toに比べると形が変化しないわけだから.

さて,must (not) do sthを扱ったついでに,上記の「こういう表現を学校では習ったけれども使ってはいけない」というパターンだけではなく,「このように云わなければいけないと習ったけれども実は(ダメとされている)こういう云い方もネイティヴはする」というパターンもちょっと考えてみましょう.

ごくごくよくあるところでは,事実に反することを仮定として述べるとき(これを学校英語では「仮定法」とか「叙想法」とよぶ.洋書の文法書などではsecond conditionalなどとしていることもあるし,subjenctiveのように呼ぶ人もいる),If I/she/he were …とすると習うけど,If I/she/he was …というネイティヴはたくさんいるという問題があります.ネイティヴにも国語教師(つまりはEnglish/Language Artを教えている)とか言葉に対しての考えが保守的な人はwere以外ダメだという人もいるし,みんなwasっていっているじゃんという人もいるわけで,彼らの言語観を自説の正統性に用いることができるかは疑問です.まあ,21世紀にwasをバツにして,wereに直させることが高校などで行なわれているということは確かめたことはないけれども稀だと思います.

同じsubjunctiveでも,日本人の英語教師はなぜだか「仮定法現在」と読んでthat clauseの中で時制とか前に置かれる名詞の人称に関わらず原形が使われる用法があります.

I suggested that Mika go out with Aaron.

昔だと,このverb + sb + that + subjunctiveというパターンを使う動詞一覧とかを載せて,これはwant, tell, adviseなどがとるverb + sb + to do sthは絶対に使わない,のように云われることがありましたが,前にもこのnoteのどこかで書いたように,

I suggested Mika to go out with Aaron. 
I recommended Mika to go out with Aaron. 

でフツーに書いて/話してしまうそれなりに教養があるネイティヴ(educated native speakers)が増えてきているわけです.ちなみに,request, requireはもともと両方の形を許容する.

この場合ですが,テストでこの語法を問うようなことはなくなっていったほうが良いとは思います.ただ,使い方を覚える上でsuggest/recommend + sb + that + subjunctiveとsuggest/recommend doing sthを決めつけて覚えるように辞書や教材が誘導すること自体は構わないと思います.そう覚えた方がノンネイティヴにとっては有益でしょう.

困るのは,昔使われたのかどうかは知りませんが,ほとんどのネイティヴがバツにするような語法をいまだに正しいものとして教えたり,辞書や文法書に載せたりしているのがあることです.

verb + sb + to do sthを上に載せましたが,tellでもadviseでも他のこのパターンをとる何の動詞でもto do sthのdoer(動作主)はsbです.

I told the kids to be quiet.

としたら静かにする必要があるのは子供たちなわけですよね.なのに,promiseだと動詞の前の名詞句がto doのdoerになるようなことを教える人がいて,辞書にも載っていることがときどきあります.

He promised her to tell the truth.
「彼は、彼女に真実を伝えることを約束した。」

https://e-grammar.info/pattern/promise.html

〔+目的語+to do〕〈に〉〈…することを〉約束する 《★この構文to do目的語である; この受身不可》.
I promised him to be there at one o'clock. 彼に 1 時にそこに行く約束した.

https://ejje.weblio.jp/content/promise


でも,promiseには下のような使い方をするのが基本です.

[promise sb sth]
I promised my daughter a doll for her birthday.
[promise to do]
My husband promised to be home early.
[promise (sb) that]
Joey promised (us) that he would help.

だから,たぶん普通のネイティヴに英語を見せたら,次のような感じで直されるのではと思います.

He promised her to tell the truth.
--> He promised to tell the truth. OR He promised her that he would tell the truth.
I promised him to be there at one o'clock.
--> I promised to be there at one o'clock. OR I promised him that he would be there at one o'clock.


ぼくは昔の英語にさかのぼるだけの能力はないですが,promise sb to do sthについては現代英語の観点からボツにしてもいいのではと思っています.少なくともノンネイティヴがこのパターンでのアウトプットをする必要はまったくないはずです.でも,「(だれ)に…すると約束する」という日本語は極めて自然なのでかえって作りやすいと感じてしまうのでいまも残っているかもしれませんね.

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